小細工なしのロックンロールをやるためのカバー
──JOEさんの作詞、原さんの作曲というソングライティングチームは本作でも不変ですが、どんなやり取りを重ねて完成に至るのでしょう。いわゆる曲先なんですよね?
JOE:うん、曲先。原君がいっぱい作ってくれた曲の中から俺が選ぶんだけど、作ってる本人は昔書いたあの曲に似てるとかに気づいてないわけ。自分では完全に新しい曲を作ってきたつもりで渡してくるんだけど、ちょっと冷静になって聴くと一部聴いたことのある曲だったりする。コード進行が似てたりね。あと、仮に10曲渡されるとして1曲目と5曲目が似てたりとか。そういうのは長年一緒にやってる俺だから分かることで、本人は全然違う曲だと思ってるんだよ(笑)。そうやってイメージが被らない曲を俺が選別していって、みんなでアレンジをしながら歌詞の乗りそうな曲をさらに選んでいく感じかな。今回で言えば俺が「空にキッスを」を選んだのはメンバーも意外に感じたと思う。AメロやBメロはともかく、サビにピンときたんだよ。元は原君がラララ…と適当に唄ってた曲なんだけど、サビにグッときたから「これはいける」と思った。少し手を加えればAメロやBメロももっと良くなると思って選んだわけ。
──原さんと(佐藤)博英さんのギターパートの棲み分けは自然に決まるものなんですか。
JOE:そこは長年培ってきた阿吽の呼吸があるんじゃない? 2人が細かい打ち合わせをしてるのは見たことないね。スタジオでセッションしながらお互いのパートが徐々に決まっていくんじゃないかな。
──そこにJOEさんが口を挟むことは?
JOE:ないね。特に何も言わない。そもそも何をやってるのかあまり理解できてないし(笑)。
──音作りやアレンジ面でJOEさんが「そこはもっとこんな感じにしてくれ」とか進言することはないんですか。ベースはもっと図太くラウドに、とか。
JOE:そういうことも言わないね。特に岡本(雅彦)のベースは全幅の信頼を置いて任せてあるから一切言わない。
──DEBUさんのドラムにも?
JOE:俺が何か言ったところで無視するから(笑)。他のメンバーの言うことは素直に聞くんだけどね。サウンドというかアレンジのことで一つ言うと、「堕天使のように」のイントロは単音のリフから入るでしょ? メロディに昭和っぽいイメージが俺の中であったので、博英に「イントロは井上堯之とか柳ジョージっぽく弾いてくれない?」とお願いしてみた。そんなことをたまに言うときもあるね。
──そういう伝え方で意思の疎通が図れるのは長年の付き合いと同世代の強みですね。
JOE:うん。長くバンドを続けてきた良さもあるだろうし、聴いてきた音楽も近いしね。
──今回は「走れルドルフ」(Run Rudolph Run)というチャック・ベリーのカバーが収録されていますが、ただでさえ収録曲数が少ないミニアルバムの中にカバーを入れれば当然のごとくオリジナル曲が減るわけですが、この采配にはどんな意図があったんですか。
JOE:純然たるロックンロールで歌詞の乗ったオリジナルも他にあったし、それを入れれば全曲オリジナルで揃えることもできたんだけど、岡本がカバーを入れたいと言い出してね。小細工なしのロックンロールをやるためにあえて簡単にできるロックンロールを選ぼうって。オリジナルだとどうしても小細工が入ってしまうから。
──簡単にできそうだけどプレイするには難しそうですね。
JOE:そういう曲をオリジナルで作るのはもっと難しいからね。
──それで選ばれたのがチャック・ベリーだったと。
JOE:自分たちとしてはチャック・ベリーをカバーしたつもりもなく、キース・リチャーズをカバーしたつもりでもなく、選択基準はあくまでも3コードでシンプルなロックンロールってことでね。いろんなアーティストがカバーした「Run Rudolph Run」のオリジナルが誰なのか、書いたのが誰なのかも俺は知らなかったし。クリスマスソングだからゴルペルの一種みたいな感じというか、教会とかでいっぱい演奏されてきた曲なんだろうね。俺はロッド・スチュワートの「Sweet Little Rock 'N' Roller」とかもいいかなと思ってたんだけど、博英が「Run Rudolph Run」にしようと提案してきて、岡本もそれがいいってことで決まってね。その時点で俺がすでに「Sweet Little Rock 'N' Roller」の訳詞を考えていたにもかかわらず(笑)。だけど「Run Rudolph Run」は構成がなかなか頭に入ってこなくてさ。シンプルなロックンロールだから構成もシンプルなはずなんだけど、Aメロとされる箇所がサビの途中から始まっているというか、Aメロもサビも全部同じコード進行なんだよ。歌のノリが違うだけで、ずっと同じコードの繰り返し。何度聴いてもどこを聴いても金太郎飴みたいで頭がこんがらがっちゃって、仕方なく英語の原詞にコードを書き記したら何とか謎が解け始めたね。