期待以上の効果を生んだうつみようこと伊東ミキオのゲスト参加
──「走れルドルフ」は何より原詞の世界観を壊すことなく膨らみを持たせたJOEさんの訳詞が素晴らしいし、ロックンロール詩人としての才が見事な日本語詞として結実していますね。
JOE:元の詞はシンプルで唄ってることも少ない上に、視点がサンタクロース中心なんだよね。サンタがトナカイのルドルフに走れ走れと急かせてる。俺の訳詞は逆の視点でトナカイを主人公にして、原詞のイメージを自分なりに膨らませた感じだね。
──原詞にはない独自の歌詞もありますしね。たとえば「来年こそいい年にするぞ!」とか。
JOE:まあこういうご時世だからね。そんな言葉を盛り込んでもいいかなと思って。
──それと「A little baby doll that can cry, sleep, drink, wet」を「人工知能の可愛い人形」と解釈していたり。
JOE:「泣いたり眠ったりおっぱい飲んでおねしょする小さな赤ちゃんの人形が欲しい」っていうのが原詞なんだよね。それを今どきにアップデートしたというか。
──「こりゃ大変だと五番街へ戻る」という原詞もどこにもないですしね(笑)。
JOE:うん(笑)。あと、俺の訳詞に出てくる“クラリス”も原詞にはないんだよ。ルドルフの恋人のトナカイがクラリスで、『赤鼻のトナカイ』の物語には出てくるんだけどね。
──カバーをやっても結局G.D.らしい曲になるという意味では、岡本さんの提案が的を得ていたことになりますね。
JOE:俺が嬉しかったのは、自分なりに書いた訳詞が著作権の所有者に認めてもらえたことなんだよ。俺が訳した歌詞をアメリカの権利者に念のため確認してもらわなくちゃいけなくて、日本語のままだと向こうが分からないから日本語の訳詞をさらに英語にして送ってもらったわけ。今回、出版で協力してくれたフジパシフィックミュージックを通じてね。その俺の訳詞を英訳してくれた人がフジパシの担当に「この日本語の訳詞は素晴らしい」と言ってくれたみたいでさ。その人の英訳もきっとこちらの意図を汲んでくれたと思うんだけど、曲の権利者にも無事OKをもらえてね。自分の才能がアメリカに認められたみたいで嬉しかったよ(笑)。今回は録りより何よりその権利関係の確認に一番時間がかかったから余計に嬉しかった。
──最後の「空にキッスを」には伊東ミキオさん(ピアノ)とうつみようこさん(コーラス)がゲスト参加していますが、鍵盤とホーンとパーカッションのサポートメンバーを入れた昨年の35周年記念ライブのように、自分たち以外のプレイヤーとのセッションを楽しみたかったがゆえの起用だったんでしょうか。
JOE:俺の中ではそういう考えがあったね。それでピアノとコーラスを入れたいと岡本に言ったら「いいんじゃない?」と。せっかくコーラスを入れるならパンチのある女性コーラスがいい、ローリング・ストーンズで言えばリサ・フィッシャーみたいなコーラスが欲しいと考えて、これはもううつみ師匠以外に考えられないと思ってね。
──G.D.とメスカリン・ドライヴはかつて共演したこともあったんですか。
JOE:大昔にイベントで一緒だったことがあると思うんだけど、うつみ師匠とは何年か前に九州のイベントでセッションをしたことがある程度で、そんなに親しい感じでもなかった。それどころか俺やG.D.の存在を警戒していた節がある(笑)。共通の知り合いがCHERRY-BOMB(JOEがマスターを務める高円寺のバー)へ行こうと誘っても「あんな恐ろしい所、絶対に行かれへんわ!」って言ってたみたいだし(笑)。だから今回のコーラス参加のお願いをしようかどうか迷ったけど、たまたまSNSで繋がっていたのでメッセージを送って「どうでしょう?」と連絡したら快く引き受けてくれたんだよね。
──鍵盤は最初からミキオさんしかいないと考えていたんですか。
JOE:そうだね。彼は今まで何度もウチのレコーディングに参加してくれてるし、35周年記念アルバムを謳うのならぜひミキオに参加してもらいたくてね。
──ミキオさんに求めたのはラグタイムっぽい感じというか、ホンキートンクみたいなニュアンスですよね?
JOE:うん、まさに。ブルースでもあり、ロックンロールでもありみたいな跳ねた感じ。そっち系のピアノを弾いてグッとくるのは俺の知り合いでミキオが一番だから。今回、うつみ師匠もミキオも俺の想像を超えた力を発揮してくれて嬉しかった。特にうつみ師匠は凄かったね。基本的にコーラスはサビだけと伝えてあったんだけど、事前に考えてきてくれたいろんなコーラスのパターンをその場でどんどん入れてきて、思わず「ここはアメリカなの?」って勘違いしそうだった(笑)。
──サビに入るまでもうつみさんのコーラスがだいぶフィーチャーされていますよね。
JOE:結果的にそのほうが良かったからね。俺としては「明日はまた晴れる」というフレーズの後に「ハレルヤ」というコーラスを入れてほしいとか考えてたくらいで、他の部分では何も言わなかったんだけど。あれでもだいぶコーラスを削ったんだよ。全部残したら俺の立場がなくなるくらいだったので(笑)。終盤で俺とうつみ師匠が“KISS the SKY”と掛け合いで唄うところがあるけど、うつみ師匠は4パターンくらい連続で入れたんだよ。でも彼女のコーラスで終わるとどっちが主役か分からないってことで(笑)、最後の“KISS the SKY”は俺にしようと後から入れたの。
──歌の終わりはうつみさんではなかったものの、演奏の最後はミキオさんのピアノで終わりますよね。
JOE:あのピアノも実はだいぶ削って、ミキオはずっと弾き続けていたんだよ。
──ゲストのピアノの音と余韻で記念すべき35周年記念アルバムが終わるというのも、大人というのか大胆というのか…(笑)。
JOE:あまりそういうこだわりもなかったし、あの終わり方がメンバーの総意だったしね。格好いいのが録れた満足感しかなかったしさ。