表現の幅や深みがさらに広がった新曲群
──そして「Hellow Naru I love you」は一転して、谷口さんの持ち味のひとつである朗々とした曲で、ストレートなラブソングですね。
谷口:この曲では、息子のことを歌ってます。息子が一時、学校に行けなくなったことがあって、そのときの応援歌みたいな感じですね。息子は虚弱だったので、月に1回くらい病院に急患で運ばれていたから、親はいつもハラハラしていて、それで、なんとか元気で生きてほしいという、そういうラブソングです。
──自らの奥底に秘められた暴力衝動みたいなものに向き合った曲と、家族への無償の愛を歌った曲が続けて入っているわけですが、バンドの歴史を重ねてきて、今回の4曲だけでも、表現の幅とか深みがさらに広がったと実感できているのではないでしょうか。
谷口:そうですね。深みとか幅の広さがまだまだあるから、もっともっと作れそうです。これは、メンバー4人とも感じているんじゃないかな。ただ、広がれば広がるほど、今回この『Serpentine』がこれだけ難航したことも考えれば、曲に対する集中力っていうか、みんなで納得のいくものを構築する楽しさの裏にある難しさってのが、いい意味でも強まるんでしょうね。そこを、BEYONDSだからこそ挑戦したのかもしれない。
──ちなみに、他にも曲は出来ているんですか?
谷口:はい、もう4~5曲あるし、ライブでも1~2曲やっているんですよ。だから本当は、アルバム1枚作れたかも。ただ、こういういろんな状況もあって、今回はとりあえず4曲という形になりました。
──今のBEYONDSでは、ライブで演奏しながら曲を形にしていくような時間が必要な感覚はありますか?
谷口:やっぱり、ある程度は必要でしょうね。だって、ファーストの『UNLUCKY』って(録音する前に)めちゃくちゃライブでやってたんですよ。まあ、自分の年齢も生活も今とは全く違ったわけですけど、とにかくめちゃくちゃ練習して、めちゃくちゃライブでやってきていた。だから、あれだけぎゅっとした内容になっている。そういうのを考えると、新しくできた曲は、ある程度ライブでやる時間がほしいですね。
──では、今後は状況を見ながら、ライブを少しずつ重ねて、アルバム……というかアルバムにまではならなくても、新曲を形にしていこうという感じですかね。
谷口:今回と同じように小出しかもしれないし、僕自身は小出しでもいいと思ってるんですよ。毎年2曲ずつとかでもいいかなって。
──現代は音楽の聴き方が変わってきて、アルバムという概念も崩れてきていますしね。
谷口:だって、ビリー・アイリッシュも1曲ずつ出してるし(笑)。そういうふうにやれたらそれでもいいかなって。そういえば、今度、壬生狼が19年ぶりにシングルを出すんですけど、それも3曲入りで。でも、それがめちゃめちゃカッコよくて。そういうマイペースなバンドって、ものすごく親近感を感じるんですよ。
──最後に、印象深いジャケットの絵について、クレジットでは作者不詳になっていますけれども、この絵をアートワークに使った理由は?
谷口:障害者支援施設にいる方の作品で、テッキンが初めて見たときは、シンプルな直立の人物画というモチーフの中に無限の想像力(あの色使い)を感じ、あとポップで可愛らしいのもいいなと思ったそうです。