理想のキャスティングを貫けた
──キャストについてもお伺いしたいのですが、主演のお二人はどうやって決められたのですか。
イシグロ:チェリーは最初、全然イメージが浮かばなかったんです。男の子キャラの声優は女性の方が務めることが多いじゃないですか。例えば、エヴァンゲリオンの碇シンジは緒方恵美さん、ドラゴンボールの孫悟空は野沢雅子さんが演じている。お二人ともキャラとピッタリであの声しか思い浮かばないじゃないですか。
──そうですね。
イシグロ:お二人とも女性で、さらに言うとキャラとは年齢も全然離れているんです。つまり、声とアニメのキャラクターというのは分離できるんだから、キャラクターに合った声は性別・年齢に関係なく選べる、どこかに合う人が必ず居るという考えが僕の中にあったんです。そういう事を基準にしてキャスティングを進めたんですけど、チェリーに関しては全然浮かんでこなかったんです。その時、逆にその考えにとらわれすぎているのかもと気付いたんです。なので、シンプルに実年齢に近い子に演じてもらえればしっくりくるんじゃないかという事に気付いて、調べていったなかで(八代目市川)染五郎くんに辿りついたんです。
──確かに、染五郎さんはチェリーと同世代ですね。
イシグロ:染五郎くんは、声がいいんです。聞けば聞くほど、チェリーにしか聞こえなくなっていったんですけど、直接聞かないと判断できないなと思ったので歌舞伎座に観に行きました。そこで直接、聞いた瞬間チェリーだと思いました。それで松竹の方に頑張っていただいて、僕も手紙を書いて思いを伝えたところ、「声のお仕事は初めてだけど、チャレンジしてみたい。」ということでやってもらえることになりました。
──杉咲(花)さんはどのように決められたのですか。
イシグロ:逆にスマイルは最初の方からイメージがあったんです。スマイルが出っ歯だからというのも少しあるんですけど、女優さんの中でも歯がチャームポイントの方にお願いしたと考えていたんです。杉咲さんも歯がチャームポイントの1つだと思っていて、声も本当にいいので是非お願いしたいということでオファーさせていただきました。杉咲さんにも熱意を伝えたいと手紙を書いて「いかにあなたの声を必要としているか」を伝えたところ、彼女から快諾のお返事がいただけました。理想のキャスティングを貫けたと思います。主演の二人を含めて全員、僕が望むキャスティングになりました。
──お二人は特に年齢が近いからこそ出せる初々しさが出ていて良かったです。
イシグロ:その辺は、自分で強みとして持っていると思っています。僕は絵が描けませんが、耳は良いと思っています。音楽面もそうですし、キャストの声のマッチ具合とか芝居感を聞き分ける力は、この映画を作り終えてさらに自信になりました。オリジナル作品だからこそ、確信に変わったところがあります。
──声・音楽を聴いているだけでも気持ちよくなる作品でした。
イシグロ:嬉しいです。
──やっと1年の延期を経て公開になるわけですね。待ち望んだ作品が劇場で見られるということにワクワクしています。
イシグロ:いつ公開できるだろうというモヤモヤ感はずっと続いていたので、それが晴れてよかったです。公開延期を今はケガの功名と考えるようにしています。作品舞台が夏なので、もともと公開を予定していた昨年5月だと少し早かったんです。公開の7/22は夏休みスタートの時期で、完全に夏休み映画となったのでポジティブに捉えています。
大:この作品に参加できたことは僕にとって誇りです。こういう青春物語を狙ってやるのことは自分のキャリアでは難しいと思っていましたが、結果としてイシグロさんとやる意味を持った作品になったと感じています。作品を作る上で不必要なことはなかった、そういう意味で僕も延期をプラスに考えています。僕らが企画をやっていたころよりもシティポップのリバイバルが一般にも浸透していっているのも、プラスになるのかなと感じています。
イシグロ:時代をとらえてくれるといいなと思いますね。この映画を観てスカッと爽やかな感じで映画館を出てくれると本当に嬉しいので、それを望んでます。
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