自己を確立していくということにカタルシスがある
──キャラクターはどのように作っていったのですか。
大:スマイルに関してはその時期にYOUTUBEをたくさん見ていたのが発想の切っ掛けになっています。観ていた中にキッズユーチューバーもいて、この子たちが思春期になったらこの動画どう思うのかなということを夢想したのが根底にあります。そこにドラマがありそうだなという話をイシグロさんにして、そこから三姉妹が出来てきました。二人が抜けていく中、真ん中のスマイルは今も発信したい子という設定です。
イシグロ:そこに子供の時はチャームポイントだった歯が気になって、思春期になるとヤダって隠したくなるというドラマを植え付けました。
大:以前から矯正機にコンプレックスを持ったキャラのストーリーはやってみたかったんです。ただ、アニメでは、上手く表現できないかなと思っていたので頭の中に納めていたんですけど、たまたまその話をしたら「それかわいく出来ますよ。」とイシグロさんから言われたんです。
イシグロ:自分は描いたことないのでやりたいと思ったんです。スマイル本人は自分の歯のことが嫌だけど、描いている我々や観ている人からは絶対に可愛いと思ってもらえると思ったんです。実際にそれは出来たと思っています。
──実際にスマイルも可愛かったです。スマイルもチェリーもお互いにコンプレックスに感じているところを可愛いと思っているんですよね。
イシグロ:そこはこだわりがある部分です。僕は自己を確立していくということにカタルシスがあると考えているんです。だからこそ、コンプレックスをお互いに認め合って、最終的にそこを好きになる・勇気をもらう・自信をもらうということに帰結する。自分のコンプレックスだって人から見れば良いと思ってもらえる、観ている人にも自分のコンプレックスが実は素敵なものなんだと思ってもらえる物語になると思ったんです。そこはシナリオをもそうですけど、絵コンテ・作画を演出していく中で、注意を払いつつこだわって描きました。
──だんだんと自身のコンプレックスが魅力なんだと気づいていく姿は、観ていて気持ちが良かったです。
イシグロ:そこは僕が高校生の時に思っていた悶々とした部分をかなり反映しています。コンプレックスをどう解消していくか、僕は創作でしか満たされなかったことで。チェリーで言えばそれは句を詠むこと、声には出せないけど句に詠みたくてしょうがない、文字やネット越しだとちゃんと伝わらないかもしれない、なら声に出すしかない、この自己確立するという物語の段階は僕の青春をかなり織り込んでいます。この作品で僕はかなりさらけ出しまた。
大:そこは凄く感じました。
イシグロ:だからこそ青春映画と言っていいんだろうなと思います。最初に大さんに書いてもらったストーリーラインでは笑わない女の子を笑わせるという物語だったんです。そこの印象が強かったので、最後はあの形にしました。
大:そこは群像劇の段階から変わっていないですね。
──デザインの面ではチェリーはヘッドホンをして話しかけられないように、スマイルは口元を隠すためにマスクをしていて、絵としても二人のコンプレックスを表現していて流石だなと思いました。
大:いまとなっては、そんなに違和感がなくなってしまいましたが(笑)、当時はヒロインがマスクをしているのはデザインとしていいのかという話はスタッフからも出ていました。でも、イシグロさんから「可愛く描けるので大丈夫です。」と言っていただけたので二人のデザインが決まりました。
イシグロ:そこは自信がありました。作品の中で彼らがマスクをどう捉えているかの方が重要だと思ったんです。この映画単体で観るとスマイルのマスクの意味はズレないなと思っているし、そこまで心配はしてないですね。
──マスクを着けていることの意味を出すために季節を夏にしたのでしょうか。
イシグロ:爽やかにしたくて季節を夏にしました。とにかくハッピーエンドにしたかったんです。確かに当時だと夏にマスクするのはおかしいから「何でマスクをしているんだろう。」という疑問の意味も使えましたね。言われて気付きました。