等身大の子たちに作ってもらうのが一番いいという思いが
──音楽ものとして出発したとのことですけど、タイトルも含めて俳句を選んだのは何故なんですか。俳句も詩ですが、音楽というと少し離れるのかなと思いますが。
大:イシグロさんから「音楽が生まれる瞬間みたいなものを描きたい。」と言われたんです。具体的な話となった時に「ヒップホップとソフトロックみたいものが混然一体となった瞬間に新しい音楽が生まれる」みたいな話をしたんです。じゃあ、それはどういう瞬間何だろうとヒップホップを調べていく中で、いとうせいこうさんと金子兜太さんの対談集「他流試合──俳句入門真剣勝負!」と出会ったんです。その本の中で金子さんが「俳句はもしかしたら、ヒップホップかもしれない。」という流れのお話をされているのを目にして、これだと思いイシグロさんに「この本を読んでくれませんか。」と勧めたのが俳句にグッと寄った始まりです。
イシグロ:音楽が元になっていることが重要だったんです。俳句と聞くと文学で音楽っぽいとは感じませんが、「他流試合──俳句入門真剣勝負!」を読んだことでこれも音楽なんだと思えるようになったんです。俳句は面白いんですよ。あと、大さんから映画『8 Mile』でリリック・ライムを思いついた時にメモ帳に書くというのが、句を詠む子たちが俳句を思いついた時に手帳に書くということに置き換えることでキャラクター付けになるんじゃないか、それがスマホだったらというところで物語が進んでいったんです。
大:「ゲットダウン」という詩人の男の子がラッパーに変わっていくというNetflixのドラマの話もイシグロさんとしていて、そういう色々からチェリーが俳句少年になっていきました。
──ラップというものも影響があったんですね。タイトルも高校生の俳句が元になっていて、作中も実際の高校生から作品提供をしてもらっているとのことですが。
イシグロ:等身大の子たちに作ってもらうのが一番いいという思いがあって、相談したところ「面白そうだからやってみたい。」と好意的に協力してもらえました。句会を開いてもらったのですが、そこでは出来上がって終わりではなく、批評するんです。
──お二人もその句会に行かれたのですか。
イシグロ:はい、立ち会わせてもらいました。それこそラップバトルじゃないですけど、意見の言い合いもあって。そういう所から推敲されて句が新しくなっていく、そのやり取りが物語に反映されていくということもありました。
大:僕らも俳句は素人なので、監修を含めて相談させていただいた橋下優歩さんから「句が生まれ、語られ、修正されて、完成されていくかを実際に見た方がいい」と助言をいただいて見せてもらうことにしました。
イシグロ:特に「夕暮れのフライングめく 夏灯(なつともし)」のエピソードは忘れられないです。作中ではスマイルが「“めく”可愛い」と言うんですけど、それは実際の句会でもあったことなんです。朴訥した少年が句を発表した時に1つ上の元気のいい女の子から「“めく”超かわいい。私好き」と言われるんです。
大:それを言われた男の子が「かわいい? わかんない。」みたいになったんです。それが繰り広げられているとき、イシグロさんと二人で目を合わせて、これ入れなきゃって。
イシグロ:映像で覚えてますもん。机2つを挟んで、1つ上のお姉ちゃんが「超“めく”可愛い」って言っている姿。
──まさにチェリーとスマイルの関係性じゃないですか。
イシグロ:アニメはなかなか偶然性が許容されることが無いんですけど、シナリオに関してはライブ感がありました。
大:監修に入ってもらった時にも「上手い句になっちゃダメ。初々しい部分を獲得しないと監修としてもリアリティが出ない。」と言われていたんです。実際に見たことで「このことか」と思いました。そういった、句が生まれるまでのリアリティもちゃんとやっています。