「電気魚の骨」のアレンジは三途の川のイメージ
──そして7月21日に配信されるのは「電気魚の骨」という幻想的かつ不穏な空気も感じるメランコリーな楽曲なのですが、まず“電気魚”は“デンキギョ”という読み方でよろしいですか?
おおくぼけい:“デンキサカナ”にしようと思って。
マリアンヌ東雲:そうなの? “デンキウオ”だと思ってた。
ALi:僕もそう思ってました。
マリアンヌ東雲:“デンキウオ”のほうが語呂が良くない?
おおくぼけい:じゃあ“デンキウオ”にしましょう。
マリアンヌ東雲:3年前からある曲なのに、たったいま正式なタイトルが決まりました(笑)。
おおくぼけい:これは「未来の骨格」と対になる曲ですね。
マリアンヌ東雲:「未来の骨格」がA面、「電気魚の骨」がB面みたいなイメージですね。
──配信リリースされた3曲はどれも趣きが違うし、肋骨の手の内と引き出しの多さを一気に提示したようにも見えますね。
マリアンヌ東雲:引き出しが多いと思ってもらえるか、節操がないと思われるか分かりませんけど(笑)。
おおくぼけい:「電気魚の骨」はもともとちょっと違ったアレンジだったんですよ。最初はドツドツドツ…というビートのある感じで。
ALi:四つ打ちが入りつつ、もっとダークな感じでしたよね。
おおくぼけい:僕の独断で、肋骨のライブ感を出した曲を見せたほうが面白いと思って。
マリアンヌ東雲:アレンジが変わったのを聴いて、自分は三途の川を思い浮かべたんです。
ALi:ああ、それじゃそんなにズレてなかったんだ。
──どういうことですか?
ALi:実は今朝、「電気魚の骨」のミュージックビデオの撮影をしてきたんですけど、それはヨコハマメリーが海辺で踊るイメージの映像なんです。
マリアンヌ東雲:ヨコハマメリーのような雰囲気の舞踏家の方がずっと踊り続けるっていう。
ALi:コンテンポラリーダンスから舞踏まで許容範囲の広いダンサーの神田 初音ファレル君に一発撮りで踊ってもらったんです。「電気魚の骨」を聴いたら魚や水のイメージが浮かんで、海辺の撮影がいいだろうと思ったんですよね。
マリアンヌ東雲:ワタクシもあのアレンジを聴いて水辺を感じたんですよ。
ALi:その初音君が去年1年間、コロナ禍もあって自撮りの即興ダンスを毎日SNSに上げていたんです。それを取り入れるのも面白いなと思って、彼の自撮りで物語が進んでいく形がいいなと。「電気魚の骨」の歌詞は“孤独”とか“独りぼっち”がキーワードになっていると感じたので。
おおくぼけい:あの歌詞をあらためて読んでみると、マリアンヌさんってこういう歌詞も書くんだ!? という驚きがあったんですよ。
マリアンヌ東雲:「未来の骨格」もそうなんだけど、キノコホテルとは違う歌詞を書けるのが肋骨の楽しみの一つでもあるんです。「未来の骨格」の歌詞は特に自分でも気に入っていて、おおくぼ君もその歌詞を褒めてくれたものだから、当時の『スナック東雲』とかのトークライブではことごとく「最近、歌詞を褒められてすごく嬉しい!」という話をしたんですよ(笑)。それまでキノコの従業員でワタクシの歌詞をじっくり読んで「すごくいい歌詞ですね」なんて言ってくれるのは、マネージャーを含めて誰一人いなかったので。ずっと孤独の真っ暗闇の中で曲を書いて生きてきたし、メンバーが歌詞を褒めてくれるなんてあり得ない話だったんです(笑)。
おおくぼけい:でも、このあいだキノコホテルとアーバンギャルドが西永福JAMで対バンしたときにキノコが「セクサロイドM」をやったでしょ? あれを聴いた浜崎さんが「マリアンヌらしいすごくいい歌詞だね」って言ってましたよ。
マリアンヌ東雲:本当? 分かる人には分かっていただけるのね。
──「電気魚の骨」の歌詞には肋骨のライブタイトルである“人体実験”というワードが出てきますね。
マリアンヌ東雲:正しくは“夜の人体模型”ですね。自分ではちょっとリケジョぶった歌詞を書きたくて、そんなワードが出たのかもしれません。それがまた分かりやすく肋骨は肋骨、キノコはキノコという自分の中での明確な違いの一つが歌詞だったりもするんです。
おおくぼけい:「未来の骨格」も「電気魚の骨」もそれぞれ“時の経過”を歌詞で綴ってあるのが面白いんですよ。
ALi:“時間”がキーワードになってる気はしますね。
おおくぼけい:「気づけば私はどんどん干涸びて」なんて歌詞をマリアンヌさんが書くんだ!? と思ったけど、それも“時の経過”の象徴なんですよね。
ALi:語りの部分は受け入れるべき“今”なんだけど、メロになると混乱してるじゃないですか。その感情が“今”なのか“過去”なのか分からないし、それが混在しているのが面白いんですよ。
マリアンヌ東雲:そうそう。“過去”を思い出しながら“今”のことを語っているのか分からなくなってくるんです。
ALi:今朝の撮影でも最後のテイクで初音君に言われたんですよ、「ワードをください」って。それで僕の解釈として「語りの部分は地に足が着いてるけど、メロが入るとグチャグチャに混乱するんだよ」って伝えたんです。自分が年老いたのを自覚するのは語りまでで、サビに入るとそれが分かってないからって。
マリアンヌ東雲:そうなんです。いつのまにか少女に戻っちゃってるの。その不気味さみたいなものがアレンジの不穏さも相俟って面白い。
ALi:「タンゴを踊る」なんて言ってるけど、多分この人はもう立てないし動けないんだと僕は思ったし、“夜の人体模型”というのは自分の身体を見て言っているのかもしれないし。
マリアンヌ東雲:ああ、なるほどね。最後は植物人間になっているのかもしれないし。そういう歌詞の解釈はどんどん自由に捉えてほしいですね。肋骨ではキノコホテル以上に自由に解釈できる歌詞になっていると思います。書いている段階ではそこまで意識してないけど、出来上がってみるとそんなふうになっているので。