1曲単位で聴かれる今の時代は昔に戻っているのかもしれない
──コロナ禍に屈せずバンドの活動をキープすることで結束が強まったとか、そういったことは?
齊藤:別にないんじゃないですかね。
逸見:いつも通りって感じだったかな。
Quatch:最初の緊急事態宣言のときもバンド活動を続ける上で雄介君と亮太のこういうフラットな感覚があったからこそ、その後の活動もあまりペースを落とすことなくできたんだなと思っています。
齊藤:非常時と言われる時期にライブをやる、やらないというのは考え方の違いもあるだろうし、どれが正解とかはないと思うんです。でもmyeahnsの場合はレーベルの母体が新宿ロフトで「ライブをやろうよ」といろいろ協力してくれたし、俺たちもやるって感じだったからやれたんだと思います。
──そうした攻めの姿勢を崩さずに敢行した今回のレコーディングはいつ頃に集中して行なったんですか。
逸見:今年に入ってから、1月と3月の2回に分けて録りました。
──2回に分けることで、仕上がった楽曲を寝かせた上で良し悪しを冷静に判断するのが目的?
齊藤:俺が2回に分けたくて。いつも部分的に変えたくなっちゃうし、時間を置けばそのあいだに考えられるし。それで1月と3月に3日間ずつ分けて録って、焦って出す必要もなかったのでじっくり考えてみたんです。ファーストのときはもっとああすれば良かったとか後から思ったし、ここを直せば良かったとか冷静に考える時間が全然なかったんで。
コンノ:ファーストに入ってる曲は全部ライブでやって、ライブで評判の良かったのを入れたんですけど、セカンドはこれからライブでやる曲もあるから慎重に判断したいのもあったと思います。時期を分けなかったら「~エレキトリック」みたいな曲は入ってなかっただろうし。
──今回収録を見合わせた曲はどれくらいあるんですか。
逸見:4、5曲ですね。俺的にはサードでも使えるんじゃない? と思ってますけど。今回のセカンドではバランスを考えて洩れてしまっただけなので。
──鬼が笑う話ですが、3作目の構想はすでにあったりしますか。
逸見:もう曲作りはちょっと始めてますけど、どうかなあ。でも作り方は変わらないだろうし、その時々でできた曲をメンバーと一緒に練り上げていくやり方は同じなんじゃないですかね。この5人になって4、5年経って今が一番楽しいし、今が一番いい形なのを実感してるし、バンドを続けてきて良かったと思うんです。だから次のアルバムもまたいいものになる気がしてます。まあその前に7月から始まるツアーですよね。今はスタジオに入ってゲネプロをやったり、ツアーの準備期間に充ててます。
──ファイナルは渋谷のクラブクアトロで、バンド史上最大規模のキャパですよね。
逸見:ワンマンではそうですね。
──フィジカルなCDよりも音楽配信が身近になった昨今、myeahnsのように1曲入魂のバンドはビギナーに知られやすいという意味で追い風だと思うんですよね。若い世代は1曲単位で視聴または購入することが多いだろうし。曲のいいとこ取りでアルバムをトータルで聴く面白さが減るんじゃないかとぼくのように古い世代は危惧を覚えつつも、それもバンドを知る入口としてはいいんじゃないかと。そうした聴かれ方についてはどう感じますか。
逸見:といっても、1枚のアルバムとして聴いてほしいですけどね。CDを買って歌詞カードを手に取りながら。曲順もそのために考えたし。1曲単位で注目されて聴かれる今の時代は昔に戻ってる気もしますけどね。50年代のオールディーズや60年代半ばまでのロックンロールはシングルをバンバン出して、それを寄せ集めたのがアルバムだったわけじゃないですか。それがたとえば『Sgt. Pepper's~』以降はアルバムが一つの作品として扱われるようになっていったけど、今はまた1曲単位で聴かれるシングル向きの時代に戻りつつあるというか。でも今回の『symbol faces』はすごくいいアルバムだと思うし、ぜひアルバム単位で聴いてほしいですね。
齊藤:これがアナログで出せたら最高なんだけどね。「Summer of Love」はB面の1曲目のイメージだし。ファーストは「恋はゴキゲン」がそのイメージ。
この12曲の顔ぶれが揃ってmyeahnsを象徴する1枚になる
──ツアーが終わればすぐに新作のレコーディングに入る感じですか。
逸見:俺の理想としては、年内までに曲をためて年明けにはサードに向けてレコーディングをしたいくらいです。
──精力的ですね。曲作りに煮詰まったりはしないものですか。
逸見:もう一生書けないんじゃないかと思う瞬間が多々ありますけど、ギターを触ってみたりするとまだまだ書けるなと感じることがあるので煮詰まることは今のところなさそうですね。こんなにいい曲が書けたんだよ! と持っていけばこの4人は気に入ってくれると思うし、今はバンドが楽しいし。弾き語りのライブもたまにやるけどソロは孤独だし、唄うならバンドが一番いいんですね。
──では最後に、メンバー一人ずつに『symbol faces』の聴き所を伺って締めましょうか。
齊藤:そうだなあ…今回はドラムの音がめちゃめちゃ格好いいんですよ、ギターの話じゃないけど(笑)。
茂木:それを言うならギターの音も良かったし、ギターソロも良かった。ドライブしてる感じがすごい出てて。
逸見:ギターは今回、すごく勢いがありますよ。リズム隊に絶大な信頼を置いてるからこその勢いがある。
齊藤:リズム隊はだいたい2テイクくらいで録り終えるので。今回はリズム隊と一緒に同じ部屋で録れたのが良かったです。それとエンジニアさんのアドバイスで「これはこのギターがいいんじゃない?」と曲によってギターを変えたのも音の鳴りが良くなった理由の一つだと思います。
Quatch:すごかったよね、ギターの見本市みたいで(笑)。
茂木:ドラムも曲によってスネアを替えたりした。
Quatch:ミックスでバスドラの音を変えたりもしたね。
茂木:俺はシングルになった「オレンジ」と「ビビ」以外の曲もすごく好きなんですよ。マジで全曲シングルを切れると思うし、光の当たらない曲がかわいそうっていうか。とにかくどれもめちゃめちゃいい曲だからアルバム全部を聴いてほしいです。
Quatch:俺はあれかな、今回はすごくいいギターのアイディアがいっぱいあって、それに合わせたキーボードを意識したのでその辺の絡みも聴いてほしいですね。あと、いい曲、いい歌詞、いいメロディなのは前作から変わってないし、それは3作目でも続いていくだろうし、その意味ではずっと聴き所ですね。
コンノ:ベースに関して言うと、さっき先人へのリスペクトみたいな話がありましたけど、ちょいちょい先人から拝借したフレーズがいろんな曲に散りばめてあるんです。その元ネタを探してみるというマニアックな楽しみ方もできるし、全部分かったらすごいですね。
逸見:じゃ最後に…この12曲の顔ぶれが揃ったときにこのアルバムが今のmyeahnsを象徴する1枚になると思ったし、茂木君が言うように全曲いいし、どの曲をシングルカットしてもおかしくない出来なので最新作のこのアルバムを聴いてほしいです。これが今の俺たちのシンボルなので。
──総じて言えば、Amazonのレビューに「ファースト以上のものは出せないんじゃないか」と書いた人にもどうだ!? と胸を張れるアルバムができたということですよね。
逸見:もちろんその人にもぜひ聴いてもらって、またレビューを書いてほしいです。きっと聴いてくれるだろうから、その感想をぜひ読んでみたい。楽しみにしてます。