ポップ至上主義をあるがままに貫くロックンロールバンド、myeahnsの次なる一手は自身を象徴する顔役的楽曲を精選して純度の高いアルバムを野に放つことだった。ファーストアルバム『Masterpiece』から1年9カ月振りに発表されるセカンドアルバム『symbol faces』には生まれながらにクラシック然とした佇まいを身にまとった珠玉の12曲が収録されており、そのどれもが老若男女を問わず気に入られることうけあいな令和3年最新型最新鋭の日本語ロックだ。とにかく曲がいい。それに尽きる。本国アメリカでもはやロックは形骸化しつつあると言われる状況の中で、だから何なんだ、知ったことかとどこ吹く風の勢いで70年近く受け継がれてきた古今東西のロックンロールのDNAを自分たちなりに消化/昇華し、己の信ずる音楽や信条はこれしかないんだとばかりにまるでドン・キホーテのように猪突猛進していく様がとてつもなく潔く美しい。その儚さと普遍的な音楽性が混在するアンビバレンツが胸を打つ。不器用な頑なさは一途がゆえに強度を増す。その強度とはロックンロールへの愛情に他ならない。今どきこれほど桁外れの愛情と幻想をロックンロールに注ぎ込むバンドもそうはいないだろうし、ロックンロールの未来は彼らmyeahnsの手の中にあるとあえて断言したい。逸見亮太(vo)、齊藤雄介(gt)、茂木左(ds)、コンノハルヒロ(ba)、Quatch(key)というメンバー全員が揃った初のインタビューをここにお届けしよう。(interview:椎名宗之)
ロックンロールにポップさをいかに落とし込めるか
──前作『Masterpiece』は捨て曲皆無の文字通り“傑作”だったので、それを超える作品を作ることにプレッシャーはありませんでしたか。
逸見:『Masterpiece』を聴いた人がAmazonのレビューでも同じようなことを書いてくれてたんですよ。「こんなに捨て曲なしのファーストアルバムを作ったら、それ以上のものは出せないんじゃないか」って。それを読んで曲作りにしてもサウンドにしてもさらに燃えたっていうか。『Masterpiece』を必ず超えなきゃいけないと思ったし。
──それはバンド全体の目標だった?
茂木:プレッシャーは全然意識してないよね。自分たちは曲を作ってないし。
逸見:“いいものを作ろう”っていうのはあるんでしょうけどね。
齊藤:うん、それは思う。
──曲作りはまず逸見さんが他のメンバーの前で弾き語りをしてプレゼンするんですよね。
逸見:そうです。曲をみんなに聴かせるときが一番緊張しますね。ほぼ100%の確率で「最高だね!」とみんな言ってくれるけど。
齊藤:まず亮太君が俺に曲を送ってくれるので、ギターはこんな感じかなと自分なりに考えるじゃないですか。ここはちょっと変えてこうしてああして…みたいなことはあったりもします。
Quatch:各々の意見はアレンジの段階で出していく感じですね。
逸見:1番だけできた段階でスタジオに持っていくのがイヤなんですよ。2番ができて雰囲気が変わったりもするので、弾き語りとはいえしっかりまとまった構成にしてから持っていくようにしてます。
──myeahnsらしい楽曲というものがメンバー間の共通意識としてあるものなんでしょうか。そこからズレると不採用になるみたいな。
齊藤:そういうのはないんじゃないかなあ…。
茂木:今回も「まっくろ娘」みたいに今までにない曲ができたし、亮太君の弾き語りを聴いたときからいいなと思ったし。
逸見:myeahnsらしさをあえて言うなら、ロックンロールにポップさをいかに落とし込めるか、ですかね。
──今回の『symbol faces』も前作同様、アルバム全体のコンセプトを固めるよりも1曲ごとのポップ含有率と精度を上げることに力を注いだ感じですか。それがむしろアルバムのコンセプトだったというか。
逸見:コンセプトは特になかったけど、理想のロックンロールバンドのセカンドアルバムというのは勢いがあってなんぼだと思ったので、ファーストアルバムに負けないくらい勢いのあるアルバムにはしたかったです。メンバーにもこういうアルバムにしたいんだと伝えて共有するようにしました。
──その結果、“symbol faces”=バンドを象徴する顔ぶれの曲たちが集まったと。
逸見:いい曲ばかり揃ったし、どれもこれからのmyeahnsの顔になる曲じゃないかと思って、メンバーと話し合いながらタイトルを付けました。
──ロックバンドのセカンドアルバムはファーストアルバム以上のインパクトを与えるのが難しいのは古今東西のロックバンドを見渡してみてもよく分かりますよね。
逸見:だからこそ絶対に『Masterpiece』を超えなきゃいけないと思ったんです。でも実際にセカンドを作って感じたのは、今のmyeahnsの状態がすごくいいのを実感できる作品になったということですね。
──理想的なロックバンドのセカンドアルバムとして目標に掲げた作品はありました?
逸見:ブルーハーツのセカンド『Young And Pretty』とクラッシュのセカンド『動乱(獣を野に放て)/ Give 'Em Enough Rope』とかですかね。どちらもファーストに劣らない勢いが変わらずあるので。ファーストを超えるくらいの勢いで突っ走る感じ。
──収録曲について聞かせてください。まず去年の4月に先行配信されていた「オレンジ」は、元の構成からだいぶ変化を遂げたそうですね。
逸見:最初はイントロも違って、大サビもなかったんです。あるライブで、もうこれでいこうという形で「オレンジ」を披露したらレーベルの人がシブい顔をしたんです。でもライブのMCで言ってるんですよ。「次のシングル、『オレンジ』」って。で、俺もこれをシングルにしたかったのでイントロを変えて大サビを付け加えたんです。結果的にいい形になったので良かったですけどね。