苦渋の決断だった昭和の日のコンサート中止
──お客さんが目の前にいないライブはやはりやりづらいものですか。
K:すごくやりづらいよ。公開リハーサルをしてるようなものだしね。抽選でお客さんにリハーサルを見てもらったり、テレビの収録も経験があるけど、無観客でライブをやるのはまさに暖簾に腕押しだから。
──生のライブとは情報量が全然違いますよね。パソコンの画面には現場の空気や匂い、音圧までは伝わりませんし。
K:ライブっていうのは自分の目でステージを追って、いろんなことを感じたりする場だし、その空気感が配信にはまるでない。もちろん配信でどう見せればいいのかとか自分たちなりに考えてはいるけど…まあ、コロナ禍が長引かなければいいなと思いつつ、結局は長引いちゃっているよね。だから配信に関しても本腰を入れてやっていかなきゃいけないなとは思う。これはもうよっぽどのことがない限り元の世界には戻れないと早い段階から感じていたしね。
──2020年のうちに配信を含めたトライ&エラーを繰り返した上で、さる4月29日に東京キネマ倶楽部で開催を予定していた有観客+配信ライブ(『ザ・マックショウ・アワー 昭和の日スペシャルコンサート「不滅のロックンロール」』)は、本来ならマックショウが新たなフェーズに突入したことを伝える絶好の機会だったわけですよね。ところがそれも三度目の緊急事態宣言発出を受けて中止となってしまい…。
K:キネマ倶楽部での配信にはすごく力を入れてたし、それまでの配信で小ぶりに見せていたのとは違って特効を使ったり、タッパもあるいい会場でやることに意義があった。キネマ倶楽部はマックショウにとって一つのスタンダードになってるし、昭和の日には毎年そこでライブをやるのが決まりだったしね。そのライブを地方のみんなにも配信で見てもらう、DVDとは違う同時性がすごく大事だった。その時間に見られなかった人のためにもちろんアーカイブは残すけど、本当は必要ないと思ってるんだよね。生で見てもらうのが一番だから。そうやって現場へ駆けつけられない人には生配信で見てもらう、会場へ来れる人は現場で一緒に楽しんでもらうというのを2021年のスタート地点にしたかったんだけど、また緊急事態宣言が出ちゃって諦めざるを得なかった。すでに機材も手配してスタッフも用意した状態だったけど、会場へ入る数日前に宣言が出ちゃったので。それは東京都からの要請に従ったというよりも、イベンターや会場側と検討を重ねた結果だった。キネマ倶楽部も「ここは中止にしたほうがいいでしょう。キャンセル料は要りませんので」と言ってくれたこともあってね。僕らはこれまでグレッチが何本も買えるくらいキャンセル料を払ってきたけど(笑)、そればかりは仕方ない。会場を押さえなければライブはできないし、去年はツアーを2本キャンセルしたから経済的損失も大きかったけど、ライブハウスだって商売だからキャンセル料を取らなきゃ成り立たないからね。
──昭和の日のコンサート中止もまた苦渋の決断であったと。
K:たとえば今ならオリンピックをやるために政府の政策は動いていて、そんなこと俺たちミュージシャンには関係ないんだよ! とか、オリンピックができるならライブだってできるだろ!? みたいなところに走っちゃいけないと思うわけ。そういうことじゃないんだよ。今やライブハウスから大きなクラスターも出てないし、コロナに感染する確率は欧米と比べて低いし、コロナ禍でもライブをやり続けている人もいるんだから自分たちだって大丈夫だろ? 政府の言うことなんか聞くことないよ! みたいになっちゃダメなんだよ。政府の言うことを素直に聞くべきってことじゃなくて。まず感染を抑える、蔓延を抑えることが基本なんだし、それは家にいればできるんだから。外出せず、飲みに行かなければ感染拡大防止につながるし、少なくともわれわれはこの状況を我慢しよう、今はウイルスの感染を抑えることを第一に考えようよ、ってこと。ライブ開催に対して慎重なのはそういう僕らなりの宣言でもあるわけ。…まあ、そうは言ってもキネマ倶楽部はやれるかな? とちょっとは思ったんだけどね(笑)。お客さんは従来の半分、200人くらいだから黒字にはならないけど、1年かけてやっとお客さんを入れてライブをやれるぞ、配信も見せられてDVDも作れるぞと思っていたから、それを自ら中止にするのは本当に苦渋の決断だったよね。と言うのも、僕らのお客さんの中心になっているのは若いときに社会に迷惑をかけてきた人ばかりなんだよ(笑)。親の言うこと、先生の言うこと、社会の言うこと、政府の言うことなんてまるで聞かずに生きてきた人ばかりだけど、今や彼らも人の親になってるわけでしょ? みんなもういい大人なんだから、ここは冷静になってウイルス感染を止めませんか? というのがまず基本にあるんだよ。
いつでも自分の立場がゼロになる覚悟がある
──そうしたコロナ禍におけるマックショウのアティテュードは、トミーさんやバイクボーイさんとも共有されているんですよね?
K:そうだね。ライブのブッキングや支度はトミーが全部やって、僕は事務的なことをやる、バイクボーイは荷物を運ぶというのがメンバー各自の役割で、トミーには何とかライブをやれる方法を探してくれと頼んでいたんだけど、最終的に僕が「この状況ではギリギリできないかな…」という判断を下すことが多かった。「他のバンドもライブをやってるんだからマックショウだってやればいいじゃん」という意見もあるし、その気持ちも分かるけど、プロのミュージシャンとしてできること、やらなきゃいけないことを自分なりに考えて、そういうことじゃないと思ったわけ。たとえば30人、40人を集めたライブをやるとする。事前にPCR検査を受けてもらって、当日は消毒と検温をちゃんとやる。そうやって徹底した対策をした上でライブをやることはできる。けど、だから何なの? と思うわけ。もちろんその30人、40人のお客さんは楽しいだろうし、配信もやればそれ以上のお客さんにも見てもらえる。だけど僕らが求めているのはそういうことじゃない。そんなライブを続けてるだけじゃ赤字が増える一方だし、趣味で音楽をやってるわけじゃないし、僕の仕事は音楽しかないからね。
──コロナ禍もすでに長期戦ですし、目先の利益も大切なのかもしれませんが、もっと大局的な視点で物事を考えるのが重要なんでしょうね。
K:よくニュースとかで危機管理能力が大事と聞くけど、僕はいつでも自分の立場がゼロになる覚悟がある。実際、過去に何度かゼロになったしね。いくつかのバンドを作っては壊し…の繰り返しでやってきたから自分なりの危機管理能力が備わっているというか、いつゼロになってもやっていけるように常にアンテナを張り巡らせているんだよ。2000年に自分が独立したときからずっとそんなことを考えてるね。一番大きかったのは2011年に東日本大震災があったときで、いつでも音楽をやめる覚悟ができてた。もうこれ以上音楽を続けられないと本気で思ったから、コルツとマックショウのメンバーを全員集めて「もうこの国では音楽が必要とされていないかもしれないから、これ以上ライブをやれない状況が続けば音楽をやめるよ」と伝えたんだよ。それ以来、自分の身に何が起こるか分からないという考えが常にあったので、コロナ禍になってからも比較的冷静でいられた。ここで路頭に迷うようじゃ大人とは言えないしさ。この1年以上辛い状況に置かれているのはみんな同じだし、音楽をやる人でもいつでもゼロになれる覚悟ができてないと僕らみたいな振り切った活動はできないんじゃないかとは思うね。
──どんな状況下でも裸一貫でゼロからやり直せるのはコージーさんなりマックショウの強みでしょうね。
K:まあ、今までドーン!と売れたことがないからね(笑)。暖簾をしまってもまたリアカーで屋台を始めるところからやり直したっていいしさ。
──でもここまで長く音楽を続けていれば屋台とはいえ老舗の味じゃないですか。信頼と実績の屋号を守り抜く責任感もあるでしょうし、長く愛してくれるお客さんの期待に応える使命感も絶えずありますよね。
K:あるね。僕らはギター、ベース、ドラムという必要最小限の編成でやってるし、仮に電気を止められてもやれるような体制を取ってる。震災のときだって電気がなくてもライブをやるつもりでいたから。そういう覚悟はできてるね。今回のコロナのことももちろん大変だったけど、サッと体制を変えられたというか対応はできた。自分には機材もあるし、こうした自前のスタジオ(ROCKSVILLE STUDIO ONE)もあるから音源や映像を作るのは他の人よりはわりと簡単にできる。そういう環境作りをすでにやっていたからね。
──去年はInstagramでトーク配信をしてみたり、配信でディナーショーをやってみたり、通常できないことをフレキシブルにやっていた印象もありますし。
K:わりと器用にできたよね。まあアーティストのタイプにもよるんだろうけど。ミュージシャンなら本来そんなことできなくたっていいわけだし、もし蓄えがあるなら今は絶対に休んだほうがいいし。僕は今のほうが忙しいけどね(笑)。
──どんなことでも器用にできてしまうがゆえに。
K:僕の身体が空くのを待ってた人が結構多くてね。自分の師匠(ザ・モッズの森山達也)が去年、35年ぶりにソロアルバム(『ROLLIN' OVER』)を出して、僕がプロデュースさせてもらったんだけど、それもこのタイミングだからこそできたことだったから。自分にとってもいい経験だったし、僕自身すごく楽しめた。それにこのコロナ禍で体調もすごく良くなったんだよ。勝手に体重も減ったしね。これまでは年に最低でも5、60本、平均120本くらいのライブをいろんな形でやっていて、ライブをやれば当日はもちろん前日や翌日にも打ち上げや飲み会があるわけ。ツアーなら移動だってあるしさ。ツアーを続けながら「こんな生活を何歳までできるんだろう?」と不安に感じていたところもあったし、これはもう体力の限界だなとも思ってた。ライブをやってる間が一番ラクみたいなさ。
──まさに“Life is a Circus”ですね。
K:週末にライブを入れたら金曜に出発しなきゃいけないし、土日に本番を迎えて月曜日は移動日でしょ? 普通の日は火水木、週に3日しかない。その間に他の作業もしなくちゃいけないから、今の年齢を考えても限界を感じてた。皮肉にもツアーの延期や中止が身体のメンテナンスになったところはあるね。