日本屈指のロックンロール・バンド、ザ・マックショウが、全国流通盤としては久しぶりの新作となる『MACKS ALIVE -Strange Weekend-』を発表した。待望の新曲3曲、精選されたライブテイク11曲、未発表試作テイク1曲から成る本作は、後年、新型コロナウイルスの世界的感染拡大に見舞われた2020年から2021年の映し鏡のような作品として、コミュニケーション不全を強いられた時代の音のモニュメントとして位置づけられるのではないだろうか。
かつて1950年代後半から60年代にかけてイギリスで流行した音楽やファッションをベースに展開したモッズというカウンターカルチャーでは、若者たちは週末にイタリアン・スーツに身を包んでスクーターに跨がり、クラブに集ってはダンスに興じていた。そこで恋が芽生えることもあれば敵対するチームとの抗争もあった。平日は社会の歯車としてあくせく働いていても週末になれば誰もがピカピカに輝くことができたし、一人ひとりが主役になれた。そうしたユースカルチャーは程度の差こそあれ日本の昭和50年代に青春を過ごしたマックショウのメンバーとて同じで、コージー・マックこと岩川浩二は「週末のためだけに生きてるみたいな時期もあった」と回顧する。そんな大切な週末が、週末特有の愉悦と高揚感が、人類を脅かす感染症のパンデミックにより失われてしまった。まさにジョン・レノンで言うところの"失われた週末"だ。
それでもマックショウの飄々とした佇まいは従来と変わらない。たとえば入魂の新曲である「ストレンジ・ウイークエンド」。人の往来がなく灯りも消えた土曜の夜の街を目にしたときのやるせなさ、虚脱感、この先自分たちはどうなってしまうんだろうという焦燥感がここでは描かれている(ように思える)。だがそこにどん詰まりの悲壮感はない。コロナのことをダイレクトに唄っているとも取れない汎用的な歌詞だし、メロディとサウンドは明るく軽妙ないつものマックショウ節だ。そこがいい。すべてを言い切ったら野暮だし、言いたいことの数歩手前で止めておくそのさじ加減が粋というものだ。
週末に行なわれたライブから厳選を重ねたテイクもまた然りで、無条件に踊れて楽しいリズム&メロディに身を委ねていると、ふと背中を押してくれるような言葉が表れる。こんな時代だからこそ余計に響く言葉なのだがあくまで簡素だ。そのさりげなさにグッとくる。曲がいいからなおさら胸を打つ。これぞまさにロックンロール界のお楽しみ係と言うべきマックショウの面目躍如であり、彼らの魅力を余すところなく凝縮したのが『MACKS ALIVE -Strange Weekend-』という昭和96年度版永久未成年応援週末ソング集なのだ。その制作にまつわるあれこれ、コロナ禍におけるマックショウなりの活動スタンスなど、いつもは多くを語らない胸の内をコージーに聞いた。(interview:椎名宗之)
コロナ禍になって早々にツアー延期を決断した理由
──このコロナ禍であらゆるミュージシャンが活動の在り方を問われるなか、マックショウは昨年の3月中旬にツアー延期を発表するという決断の早さを見せましたね。
KOZZY MACK(以下、K):それでも何とかツアーをやれる方法がないかともちろん考えたけど、僕らのお客さんは親の立場だったり、勤めていたり、会社で責任のある立場だったりする人が多くてね。それにライブとなれば「祭りだ!」みたいなことになって、会場へ来てライブを観てまっすぐ家に帰るなんてことはあり得ない。それならツアーを延期にして仕切り直したほうがいいだろうと考えた。他のバンドはまだライブをやっていた頃だったけど、ちょっとでも感染の危険があるならやめようか、ってことでね。僕らがやめればやめる人も増えるだろうから。無理にやることもできたんだけどね。
──「いま飲みに行かないことが、遊びに出ないことが誰かを、あなたの大切な人を、ロックンロールの未来を救うことになる」という声明に準じたわけですね。
K:そういうこと。まずはウイルスの蔓延を止めることが先決だったからね。僕らのやるロックンロールは不要不急の最たるもので、「それでも音楽はなくてはならないものなんだ!」と言ってくれる人はありがたいことにたくさんいるけど、社会的に考えれば最優先事項じゃない。プロの音楽家としていたずらに長くやってきた者として、自分たちがいまどうしてもライブをやりたいとか、ライブをやらなくちゃ食っていけないとかよりも、今はただウイルスに感染しない、感染させないことを徹底するべきだと思った。
──お客さんのことをまず第一に考えたわけですね。
K:お客さんはもちろん、自分たちも含めてね。僕も含めてのファンというか、僕自身もマックショウのファンだから。ライブこそ観られないけど、会場へ行ったりライブをやったり、そのためにいろんな準備をすることが楽しいんだよ。トミーもバイクボーイもそうだろうけど。だから僕らだってライブをやりたいのは山々だったけど、一旦仕切り直そうと。政府の言うことを一方的に聞くわけじゃなく、社会的に考えてここは引こうと思った。
──東日本大震災のときもそうでしたが、こうした状況になると音楽に携わる人たちは真っ先に収入が途絶える上に必要とされる順番は一番最後になりますよね。つくづく因果な商売だなとは思いませんでしたか。
K:たとえば今これはやめてくださいと要請されること…スポーツや娯楽、旅行といった中に僕らみたいな音楽は入ってなかったからね。密を避けるためにイベントの収容人数を5,000人に制限する方針が政府から出たけど、僕らのライブ動員は5、600人といったところだし、社会的にはそういう方針にも満たない音楽なんだよ。ただコロナ禍になってすぐライブハウスからクラスターが発生したし、まずはそういったネガティブなイメージが払拭されてクリーンになってからライブを再開しようと思った。ライブをやらなければ無収入になるけど、それも覚悟の上でね。
──しかも昨年の8月から11月にかけて予定していたツアーも全公演中止という決断を下されましたよね。
K:それはかなり早い段階で決めてたんだけど、発表をギリギリまで待ってみた。もしできるのなら1本でもやりたかったから。だけどまず東京ができない、移動もできないということになって、これは全公演中止だなと。たとえば名古屋とかでもいいから1本だけやって、それを配信してみるプランも考えたけど、外出移動ができないのならこれは全部ダメだなと思った。
──昨年の7月4日には南青山MANDALAで初の配信ライブ(『ザ・マックショウ 俺たちの独立記念日“STRANGE WEEKEND” 土曜スペシャル生配信ライブ』)を敢行されましたが、これは配信でもいいからライブをやってほしいという声に応えた形ですか。
K:まずは元気な顔をみんなに見せたかった。当時の東京と地方ではコロナに対する温度差がだいぶあって、僕の田舎の広島では感染者が全然出てなかったし、東京がどれだけ大変な状況かなんて地方は分からない。だから「今はこういう状況だからツアーができないんだよ」というのを配信で伝えて、こうしたライブの形が今後スタンダードになると残念だけど、それでもこういうことをこれからやっていくよというのをまず見せるにはやったほうがいいのかなと思って。その頃はこのコロナ禍が長くかかるなと肌で感じてたし、全国のライブハウスを回れるようになるのはだいぶ先だぞと感じてたしね。一時期は感染者数が減ったりもしたけど、コロナ禍が落ち着くってことには当分ならないんじゃないかと思ったし。
──ライブ配信については演者によって賛否両論ありますが、コージーさん自身はやってみてどう感じましたか。
K:生配信ならごまかしも効かないし、ラインの音がそのまま画面から流れちゃうからちょっと待ってよと最初は思ったけど、良くも悪くもやるしかないっていうか。いいカメラやいい音響を使って良く見せる方法はいくらでもあるだろうし、今は技術的に何でもできるから不本意な部分をカットしたり編集し直したりもできるんだけど、僕らの場合はそこまで突き詰めなくてもいいかなと。ライブで歌詞を間違えたり演奏をミスするのは当たり前のことだし、ロックンロールのライブってそういうものだから。決して完璧なものじゃないし、間違えたらごめんと謝ってやり直せばいい。
──マックショウはそもそもレコーディングでも一発録りを流儀としていますからね。
K:うん。だから配信ライブでも一発でやるのを見せるしかない。その姿をお客さんに楽しんでもらうっていうか。