コロナ禍の景色を切り取った“不思議な週末”
──全国流通盤としては久々の作品となる『MACKS ALIVE -Strange Weekend-』ですが、中止になってしまったキネマ倶楽部でのライブで先行販売する予定だったんですよね。
K:うん。本来の発売日より1カ月も前に先行発売するつもりだった。昭和の日のコンサートの一つの呼びものというか、それに合わせて練りに練って作ったんだけどね。最初は純粋にシングルを作ろうと思ってたんだけど、ライブに向けて作る作品だからライブ音源も入れたいよねという話になって。マックショウの醍醐味はライブにあるからさ。それにこの活動自粛中に未発表テイクもいろいろ見つかって、そういうのも盛り込みたいと。プロデューサーの川戸(良徳)に「この中からライブ音源を選んでくれよ」と頼んだら「いやあ、選びきれませんね。全部入れちゃいましょう」とか言われたんだけど(笑)。
──“Strange Weekend”というワードはこのコロナ禍を象徴したものにも思えますが、去年の春に延期したツアーのタイトルとしてすでにあったものなんですよね。
K:そう、3年くらい前からツアーのタイトルはずっと“Strange Weekend”のままなんだよ。その頃から“週末”をテーマにした曲を作るようになって、「Strange Weekend」という曲が実は4、5曲あってね。若い頃から週末になると夜の町へ繰り出して、そのときの楽しさや高揚感、かけがえのなさを身に染みて感じていたし、無茶してたけど生きてて良かったなみたいなことを、ライブが成功したときや楽しかった週末にはいつも必ず思ってた。実際、週末のためだけに生きてるみたいな時期もあったしね。そんなテーマの曲を書いて世に出さないままだったんだけど、その意味がコロナ禍以降にガラッと変わってしまった。昨年末だったか今年の頭だったか、土曜日の夜7時、8時くらいにバイクで都内を走っていたら、人っ子ひとりいないわけ。そんな光景、僕はここ何年も見たことがなかった。人はいない、タクシーもまばら、街灯も消えて暗くなってる。ちょっと怖くなるくらいの光景で、これはただごとじゃないぞと思ってね。若い頃から大好きだった週末の景色やウキウキした感覚がまるで違うものになったのを目の当たりにして、これはどうなっちゃうんだろう? とふと思ったんだよね。
──「ストレンジ・ウイークエンド」にはすでにスタンダード性の高い風格が漂っていて、これぞシングル曲の筆頭格と言うべき佇まいがありますよね。コージーさんの言う週末特有の高揚感みたいなものがイントロから盛り込まれているようにも思えますし。
K:元はテンポが全然違う曲だったんだけどね。メンバーに渡したデモも最初は全然違ったし、半分くらいしか今のフレーズがなくて。ちょっと待ってもらって、先に他の曲を録ることにしてね。
──カップリングの「ハートしびれて」と「ロンサム・カーボーイ」に取り掛かることにして。
K:「ロンサム・カーボーイ」のメロディは4、5分ほどでできたね。寝ながらでもできる曲だよ(笑)。
──「ロンサム・カーボーイ」は井上尭之バンドへのオマージュを感じるところがありますね。
K:ローランドの70年製のデカいエフェクターをたまたま手に入れてね。それが『傷だらけの天使』の主題歌のイントロで使われたエフェクターであることを知って、ずっと探してたんだけどようやく手に入れてさ。「ロンサム・カーボーイ」はそのエフェクターを使いたいがために作った曲だね。ちょっとしたドライブミュージック的な曲を作ろうと思って。
──ドライブミュージックと言えば、昭和50年代にパイオニアから「ロンサム・カーボーイ」というカーステレオが販売されていたとか。
K:そうそう。“カウボーイ”じゃなくて“カーボーイ”ね。井上尭之さんとは年代が違うけど、そういう感じのオマージュっていうか。僕も当時そのカーステを自分の車に付けてて、その車には三角窓があってね。
──それで「三角窓なら開けたまま」という歌詞があるわけですね。「悲しい歌など聞きたくないだろ/だからゴキゲンなヤツをかけてくれ」という歌詞はコロナ禍におけるマックショウなりのメッセージ、意思表示のようにも受け取れますが。
K:うん。今だから書けた歌詞みたいなところはあるかな。
──「ストレンジ・ウイークエンド」では「Don't worry」という言葉が繰り返されるし、コロナ禍を生きる聴き手の背中をそっと押してくれるような新曲群と言えそうな気もしますね。断定的な強いメッセージ性があるわけではなく、そんなふうにも受け取れるかなというマックショウらしい軽妙なニュアンスで伝わってくるというか。
K:何かと重くなりがちな昨今だけど、このコロナ禍を頑張って切り抜けようよみたいなことは唄いたくない、音楽にそういうことを持ち込みたくないっていうミュージシャンもいるだろうし、僕の師匠みたいにこんな状況だからこそ曲がたくさん書けたという人もいる。確かに今の僕らが置かれた状況は曲の題材になりやすいのかもしれない。だけど僕らマックショウの持ち味はこんなときでも楽しくやってるぜ、ロックンロール最高でしょ!? ってことで、それが信条だからね。僕の場合、新聞やネットに書いてあるようなことをわざわざ歌詞にする必要もないと思ってるし、そんなことはみんな知ってるわけでさ。自分としては今の時代なりのロックンロールになればいいっていうのが常にあるし、それをちゃんとした形で出せればいい。今回はシングルじゃなくアルバムでも良かったんだけど、またいい曲ができたよとサラッと出せるものとしてシングルというフォーマットがいいのかなと思ってね。とはいえ「ストレンジ・ウイークエンド」は今の時代を反映したような曲になったし、曲調やメンバーのテンポもだんだんゆっくりになってきて、僕の唄い方や歌詞の載せ方もそんなふうにじっくり聴かせる感じなって、結果的に今の心情を載せた曲になった。やっぱりどうしてもその時代の合わせ鏡みたいな曲が生まれちゃうんだね。