やりたいことが溢れて満足できないからゴールがない
──私も観ていて、SHINOBUさんの言葉でthe原爆オナニーズが多面的で立体的になっていった感じで、いろいろ発見がありました。あとSHINOBUさん個人の葛藤も、観た人が自分に当てはめられるものだと思うし。でね、“バンドと生活・仕事”っていうのが、『MOTHER FUCKER』からのテーマだと思うんですが。
大石:はい。
──『MOTHER FUCKER』はホントに生活に入ってるし、自宅の部屋にも入ってる(笑)。『JUST ANOTHER』は本人たち以外は、家族などはほとんど出てこない。でも出てこないからこその存在感があるんですよね。たとえばTAYLOWさんが最後のほうで奥さんのことをチラリと話すとこに愛情を感じるし、あとレコード部屋で奥さんがスミスのファンだってことも分かる(笑)。
大石:はい(笑)。
──JOHNNYさんが、奥さんが出かける日だから留守番するって言ったりして、家族を想う気持ちが伝わってくる。
大石:家族がいるから、支えてくれてる人がいるから、バンドを続けることができたっていうのはあるはずで。でもそれをあからさまに出すのはthe原爆オナニーズのスタンスとは違うなと思ったので、チラリと家族が感じられる編集になっています。実際、家族を巻き込んでまでバンドはやらないだろうし、バンドをやるなら家族は巻き込まないという考えだと思うんです。それは尊重しているからこそであり、だからこそメンバー個々が持つ家族の時間を第一に考える。そしてそれぞれの家族が一緒にいるときはその時間を大切にする。the原爆オナニーズはメンバー間でもそうですよね。個々を尊重していて距離感があるけど、それは尊重し合っているからだと感じました。
──私がthe原爆オナニーズから教わったのは、パンクロックって生活に根付いたものなんだってことで。音楽で食っていくって言う人がいるけど、仕事をしながらバンドをやることは恥ずかしいことでは全然ないっていう。大石さんは好きなことをやることと仕事や生活、そのバランスなど、思うことはありますか?
大石:たぶん私たちの世代より上、30代半ばより上の世代って、仕事をしている中で好きなことをすることが悪みたいな感覚を植え付けられている人がいるんじゃないかとは思いました。仕事だけ真面目にやっているのが美しいというか、何十時間も働いているから、“休みます”“遊んでます”ということを大っぴらに言えない空気といいますか。
──仕事とは苦労するものだって感覚は、世代が上なほどあるとは思います。自分が苦労したら下の世代も苦労するべきって。しょうもない感覚。
大石:バンドにしても、30代になったら続けるかやめるか考えなきゃいけないとか。好きなことはいつまでも続けられないとか。現実問題としてそういうことはあるかもしれないけど、でも、実は世間から刷り込まれてることなんじゃないかと思うんです。
──確かに。
大石:私も、仕事と生活のバランスを考えなきゃいけないとか、何かに迫られるみたいな時期があったんですけど、それって自分自身の考えというより、世間によって刷り込まれちゃってただけなんじゃないかと思いました。
──確かに、何かを諦めなきゃいけないっていうのは、実は世間の刷り込みからが大きいのかもしれない。
大石:そうだと思います。たぶんTAYLOWさんも、(『MOTHER FUCKER』の)谷さんもYUKARIさんも、めちゃくちゃ欲張りだと思うんですよ。欲張りでいいと思うんです。好きなことをやりたい、音楽をやりたい、仕事もしたい。諦めない気持ちを常に持っている人たちで、なおかつ友達や知り合った人たちのことを大事にする。だから常にやりたいことに溢れていて、満足していないんだと思うんです。ゴールがない。だから諦めるってことがないんです。the原爆オナニーズが38年間も続けていても完成されてないって感じたのは、そういうことなんだと思います。諦めていないんですよ。
──the原爆オナニーズのそういうところ、映画でもバッチリ出てます。
大石:良かったです。前回の『MOTHER FUCKER』でバンドと仕事を両方全力で突き進む人たちに会って、良い意味でショックを受けました(笑)。今回の『JUST ANOTHER』では、the原爆オナニーズと会って、前回と全く違うやり方で両立し続けているメンバーを見て、わがままでいいんだなと教えてもらいました。2作作らせてもらい、そんな出会いや、自分にとって得ることがたくさんあるので、まだまだ面白い人たちと映像を通して出会えたらいいなと思っています。
──楽しみです! 最後に、the原爆オナニーズのライブも含めて『今池まつり』が出てきますが、最高の祭りですね。
大石:至る所から音楽が流れてきて、プロレスもやってるし、結婚式もやってたんですよ、リングの上で(笑)。道端では大道芸をやっていたりする中、駐車場に設置されたステージで、the原爆オナニーズのライブが行なわれ、子どもからお年寄りまでが自然に見ている。お客さんの中には、年に一度の『今池まつり』でしかthe原爆オナニーズは見ないと言っている人もいましたが、TAYLOWさんはそれがいいと言っていました。これをきっかけにライブにも来てほしいではなくて、生活の中でたまたま見たというのでいいと言っていました。まさに生活の一部になった音楽と祭りです。
──うんうん。いいですよね~。『今池まつり』でのthe原爆オナニーズのライブの映像の、躍動感と迫力もすごいですね。
大石:ありがとうございます。グッと迫りました(笑)。