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INTERVIEW

トップインタビュー大石規湖(the原爆オナニーズ ドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』監督)- ベテラン・パンクバンドの日常が伝える〈やりたいこと〉と〈生活・仕事〉の理想的共存

ベテラン・パンクバンドの日常が伝える〈やりたいこと〉と〈生活・仕事〉の理想的共存

2020.10.21

 結成から38年。自らの道を自らで作り、誰にも媚びることなどもちろんなく、やりたいことだけを研ぎ澄まし、止まることなく走り続けるパンクバンド、the原爆オナニーズ。結成以来、地元名古屋を拠点とし、仕事をしながらバンドを続けてきたスタンスと、彼らの「今」を撮った『JUST ANOTHER』。大石規湖監督は『MOTHER FUCKER』に続く劇場公開2作目で、1年間にわたりこのベテラン・パンクバンドと向き合った。ヒストリーにではなく、the原爆オナニーズの現在と向き合った。大石監督はカメラの先に何を見たのか。
 the原爆オナニーズにとって初となるドキュメンタリー映画。この映画はthe原爆オナニーズと大石規湖監督からの、バンドを、パンクロックを、音楽を、カルチャーを愛する人たちへのプレゼントかもしれない。(interview:遠藤妙子)

バンドを続ける困難さが映画を撮る原動力に

──『JUST ANOTHER』、公開おめでとうございます。the原爆オナニーズそのものの映画だなって思いました。the原爆オナニーズってストレートだしパンクロックの基本という感じで、初めて聴く人でも入りやすいと思うんです。でも一度入るととても深いことに気づく。サウンドはハードロックやノイズ的な音もあるし、歌詞も二重三重の意味がある。シンプルなのに実は様々なものを含んでいる。『JUST ANOTHER』はそんなthe原爆オナニーズが出ているし、映画自体もそんな感じがして。シンプルなドキュメンタリー映画なんだけど実はいろんな要素を含んでいる。the原爆オナニーズというバンドのドキュメンタリーであり、地方都市の在り方を提示しているし、もちろんカッコいいライブを見せていて、あと世代間のコミュニケーションだったり、何より人間の生き方を撮っている。実は様々なものを撮っていて、the原爆オナニーズと一緒じゃん! って。

大石:とてもありがたいです。

──大石さんはthe原爆オナニーズをどんなバンドだと思って?

大石:TAYLOWさんと最初にお話ししたときに、海外と日本の音楽カルチャーの違いについて話をしたんです。TAYLOWさんは日本の音楽カルチャーの現状に思っていることがあって、でも文句とか指示するような言い方はせず、自分はどうするか、自分の姿勢として表明している人なんだなと思ったんです。具体的に言葉にはしない分、私には見えてないところがすごいあるんだろうな、それも含めて撮れたらいいなとは思いました。

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──じゃ、最初からthe原爆オナニーズが持つ波乱万丈な面を撮ろうと?

大石:いや、失礼な言い方になるかもしれませんが、正直最初は波乱万丈な面を持っているとは気づかなかったんです。バンドとしてのスタイルとか活動の仕方とか考え方とか、完璧にできているから長く続けられるんだなと思っていました。そもそも、the原爆オナニーズを撮りたいと思ったのは……、日本はアメリカやヨーロッパに比べて、芸術活動、音楽活動をしていくことが難しいなと感じる経験があったからです。海外へ撮影に行くとライブを行なっている場所は、気軽に入れるパブのようなところで、パブの一角にステージがある。お客さんは仕事帰りに呑みに来たついでにライブを観るという感じで。若い人だけじゃなくおばさんやおじさんもいる。ライブが良かったら物販で買い物して、「良かったよ」ってバンドに声をかけて。すごくナチュラル。生活の中に音楽があるっていうのをすごく感じてました。日本だと「バンドやってるの!?」と眉をひそめられたりすることが何度かありましたが、そんな偏見もない。

──何歳になったらバンドは卒業、みたいなね。

大石:そうですね。学生時代だけとか、いくつになったら終わりとか、やるか/やらないかっていう選択を迫られる。バンドをやること自体が難しい社会があると感じました。the原爆オナニーズはそういう問題点がある中で長く続けているバンドですよね、しかも東京ではなく地元である名古屋で。その理由を知りたい、また何かを教えてくれるんじゃないかと思ったんです。私と同世代のバンドや若いバンドの指針になるんじゃないかと思い、the原爆オナニーズを撮りたいと決心しました。

──道しるべとなる先生のような。

大石:そうです。ある意味、教科書のような。それくらい完璧なバンドだと思っていました。そしたら撮り進めていくとそうではないことに気づきました。問題も滞りもなくやってるわけではありませんでした。38年間やっていても完璧ではなく、ライブの波も正直ありますし、完成されないままずっとやっているのが見えてきました。仕事をやりながらバンドをやるバランスもそうですし、年齢的なことや、社会の中でどんな位置でやっているかとか、そこで出てくる葛藤などがまだまだあり、当初撮影したいと思っていた完璧さとは違ったことに気づきました。その気づきと共に、撮りたい要素が出てきました。だから“様々な面がある映画”って言っていただけたのはとてもありがたいです。

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──前作『MOTHER FUCKER』もバンドのドキュメンタリーであり家族のドキュメンタリーであり、多面性のある作品だったけど、今作もそうですよね。大石さんの中で前作と今作は地続きになっているんだなって感じました。

大石:the原爆オナニーズに辿り着くまでの流れは…、『MOTHER FUCKER』でLess than TVのライブを撮りに、岡山や名古屋、北海道など各地を廻ったんです。そのときに、地方には独自で面白いことをやってるバンドが多いと知りました。それでその後、VICEで札幌の3バンドを撮った『THE BANDMEN – Sound of Sapporo –』(2018年)というドキュメントを発表して、地方で頑張っている同世代かちょっと下の世代のドキュメンタリーをシリーズ化してやりたいと思ったのですが、どこに企画を出しても通らない。企画を作っている途中で活動停止をしたというバンドの知らせも届いたり、企画を通せない自分への悔しさもありました。

──時期的にはコロナ禍の前でしょうけど、そういうことがこれからさらに出てくるかもしれない。

大石:かもしれませんね。HIPHOPのシーンのドキュメンタリーは多くありますが、アンダーグラウンドの音楽を取材するメディアはなかなか見つからず、こんな面白いことをやってる人たちがいるのになんで取り上げないんだ!? と、どこにぶつけていいか分からない悔しさと腹立たしさがありました。それが映画を撮る原動力にもなっていき、なんとしてでも映画を作ろうと思いました。でも、結局映画にするってなると、それ相応の人じゃないと企画は通らない、そんな流れもあり、そんな時期に出会えたのがレジェンドでもあるthe原爆オナニーズでした。the原爆オナニーズの音楽はとてもかっこいいことは知っていましたが、昔からライブなどを観れているわけでもなく、深く知っているわけでもないので、力を借りる気持ちもありました。

 

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the原爆オナニーズ ドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』

出演:the原爆オナニーズ(TAYLOW、EDDIE、JOHNNY、SHINOBU)、JOJO広重、DJ ISHIKAWA、森田裕、黒崎栄介、リンコ 他
ライブ出演:eastern youth、GAUZE、GASOLINE、Killerpass、THE GUAYS、横山健
企画・制作・撮影・編集・監督:大石規湖
1.78:1 | カラー | ステレオ | 90分 | 2020年 | 日本 | 配給:SPACE SHOWER FILMS
©2020 SPACE SHOWER FILMS
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