絶え間ない好奇心、探求心、向上心
──おおくぼさんはアーバンギャルドはもとより戸川純さんとのユニットでもその才能を如才なく発揮していますが、頭脳警察でも大活躍だったんですね。
PANTA:プリプロも最初に全部おおくぼ君がやってくれたしね。
澤:ベーシックなデモが緻密に作られていたので、最初から世界観がきっちりとありましたね。事前に音の被せのやり取りもできてたし、スタジオに入ってからの作業はスムーズにやれました。
──そんなおおくぼさんが準メンバーというのも不思議ですけど。
PANTA:まぁ、彼の所属はあくまでもアーバンギャルドだからね。
──ローリング・ストーンズとイアン・スチュワートの関係みたいなものですか。
PANTA:言ってみれば派遣かな(笑)。もしくは出向(笑)。
──CD帯の裏写真で、派遣メンバーであるおおくぼさんだけ一人分身しているのがおかしいんですよね(笑)。
PANTA:いいんじゃないの? スパイダースの『フリフリ』のジャケットに作詞・作曲をしたムッシュ(かまやつひろし)が写ってない例もあるしさ(笑)。
──若手ミュージシャンを迎え入れたことで新陳代謝が図られて、頭脳警察というバンドのイメージがだいぶしなやかになった感がありますね。プライドとパッションは保ちつつも良い意味で軽やかになったのを『乱破』からも感じますし。
PANTA:TOSHIは頭脳警察に対するイメージが最初にやり始めた頃とはだいぶ変わったんじゃないの?
TOSHI:だんだん身軽にはなってるかな。俺個人としてはね。身軽と言うか気軽と言うか、そんな感覚が強いね。
PANTA:確かに、重しをどんどん吐き出している感じはあるね。だから軽快なロックンロールのメドレーも自然にやれるんだと思う。頭脳警察はロックンロール・バンドだったんだなという感覚を俺たちも忘れてた。吉祥寺のGBでライブをやった時、「昔はロックンロールで名を馳せた頭脳警察です!」と冗談で言ったら全然ウケなかったけど(笑)。
TOSHI:PANTAと二人でやってた頃はとにかく尖ってたからね。そういう時代だったんだろうし、若さもあったんだろうけど。
──澤さんら若手にある程度主導権を任せることでヘンな気負いがなくなったことも大きいんでしょうね。
PANTA:全部お任せだよ(笑)。この間もアーバンギャルドの『鬱フェス』で唄い出しを間違えちゃったんだけど、みんながうまいこと合わせてくれてね。これからもっとライブをやれば絡みが面白くなってくると思う。この顔ぶれはとにかくライブがいいので、この先もずっと続けていくつもりだよ。
TOSHI:みんな性格もいいしね。1990年の再結成の時はまだどこか尖っていたけど、今は和やかな雰囲気でやれてるのがいい。
PANTA:最初の再結成は絶対に恥ずかしいことはできないと思ったし、進化した頭脳警察でなくちゃいけないとすごく肩肘を張ってたんだよ。今はそういう気負いがないし、楽しくやれてるね。
──結成50周年を迎えられるバンドなんてそうはいないし、今後ますます前例のない境地へと足を踏み入れることになりますね。
PANTA:昔から前例のないことしかやってこなかったからね。そもそも既成のものをぶっ壊すつもりでバンドを始めたから、最初からお手本がいなかった。いつだって手探り状態で、50年経った今もそれが続いてるだけでさ。前の走者がいないから先頭を走るしかない。
──それでもこの50周年は、頭脳警察にとって“RELAY POINT”(中継地点)でしかないわけですよね。
PANTA:もちろん。やりたいことがまだいっぱいあるからね。この間、有頂天のKERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)が「あるドラマが『伏線回収できてない』とか『伏線回収が雑すぎる』とか言われてるけど、伏線なんか回収してもしなくてもいいのだ」とツイートして、それに対する賛否がいろいろあったけど、俺はいま人生の伏線回収をしている感覚があるんだよ。『乱破』の中でもかなり伏線回収してるしね。TOSHIがバンドをやめてた時期の曲を強制的にやらせたりして(笑)。
──「ロックとは偉大なるアマチュアリズムだ」というPANTAさんの持論を体現すべく、頭脳警察は今日まで走り続けてきたと言えますね。
PANTA:そうだね。コマーシャルに走ったり、ヘンにプロ意識があったらここまでやってこれなかったと思う。音楽に対する好奇心から始まって、そこからいろんな知識を得たいという探求心が芽生えて、昨日より少しは上手く演奏したいという向上心が生まれる。そうやって少しずつ自分なりに向上してきて今がある。
TOSHI:好奇心、探求心、向上心は今もいっぱいあるよ。いろんなことをちょっとずつ積み重ねていくのが楽しいし、やりがいもあるしね。今の頭脳警察は腕も性格もいい顔ぶれだから、これからは俺が派遣メンバーにならないように頑張るよ(笑)。
モノクロ写真:寺坂ジョニー/本文カラー写真:シギー吉田