水族館劇場の劇中歌で大陸へ踏み込めた
──「戦士のバラード」は去年の9月にLOFT9で開催した『暴走対談LOFT編』で初披露された時から屈指の名バラッドだなと思っていましたが、「疲れたら 休めばいい/倒れたら 夢をみればいい」という囁くような優しい歌詞はPANTAさんにしては珍しいですね。
PANTA:自分の中で2周、3周したのかもね。昔だったら気恥ずかしい、絶対に書かないような歌詞だと思う。そういうことを素直に唄えて、聴く人が素直に聴ける歌でもいいのかなと思うようになった。
──「愛してなんていないけど/君を抱きたい」(「夜明けまで離さない」)なんて唄っていた人が、どういう風の吹き回しでしょう?(笑)
PANTA:ホントだね。まぁ、「戦士のバラード」で「倒れたら 夢をみればいい」と唄っておきながら、「搖れる大地 II」では「いつまで夢をみてるつもりじゃ!」なんて言ってるんだから、何なんだよお前は! って感じだけど(笑)。
──「搖れる大地 I」と「搖れる大地 II」は、水族館劇場の桃山邑さんの作詞ありきだったんですか。
PANTA:そう。水族館劇場が花園神社の境内で『Nachleben 搖れる大地』というテント芝居をやるので主題歌を提供することになってね。「落葉のささやき」も劇団不連続線の芝居(『いえろうあんちごね 特別攻撃隊スターダスト』)の劇中歌で、作詞が菅孝行さんだったけど、芝居から音楽が生まれることが頭脳警察は昔から多かった。
──三文役者の「回転木馬」も作詞が花之木哲さんで、同じく芝居を系譜とする曲でした。
PANTA:そうそう。「ガラスの都会」や「あやつり人形」も芝居に関係した曲だしね。
──「搖れる大地 I」は「此の世の涯に銃をとれ」という歌詞にニヤリとしますね。
PANTA:桃山君が俺にそう唄わせたかったんだろうね。「どんな曲調がいいの?」って彼に訊いたら「『Blood Blood Blood』みたいなやつがいい」ってことだったので、「搖れる大地 I」は激しい感じにしてみた。
──「搖れる大地 II」は「I」と一転、おおくぼさんが奏でるメロトロンの郷愁を誘う音色がとても印象的ですね。
PANTA:曲を書いて、ビートルズの「Strawberry Fields Forever」が頭の中にあったのかな。俺なりのオマージュだね。『クリスタルナハト』を作った時は南京や大連といった大陸まで辿り着けなくて、「メール・ド・グラス」で「ヤバーナ(日本人)のニュースは聞いたかい/シノワ(中国)で途絶えたままでいるが」という歌詞を書いただけだった。だから水族館劇場が大陸をテーマにした舞台をやると聞いて、よし! と思ってさ。それで「アカシアの港を馬車がでる」という歌詞で大陸に踏み込めたわけ。満州のヤマトホテルが現代に蘇るのが物語の筋だったからね。
──結成50周年のファースト・ライブは水族館劇場の舞台セットをそのまま借りて行なわれましたが、初の野外テント劇場でのライブは如何でしたか。
PANTA:(澤に)どうだった?
澤:特殊な舞台セットの中でやらせてもらったので、めちゃくちゃ楽しかったですよ。お客さんもすし詰め状態で、前にあるプールに今にも倒れ込みそうな緊迫感があったし、開演前には酔っ払ったお客さん同士の小競り合いがあったりして、なんか新宿っぽいなぁ…と思ったし(笑)。すごくいい経験をさせてもらいました。
PANTA:設計ミスで、本来は閉まるはずのプールのフタが閉まらなかったんだよね。それに定員以上のお客さんを入れちゃったものだから、仮設の桟敷席が崩れるんじゃないかと冷や冷やしたよ。もし崩れたら大惨事だからさ。
──しかも、過去に花園神社でライブをやった上々颱風の数倍の音量だったそうですね。
PANTA:上々颱風なんて問題にならないくらいデカかったみたいだね。花園神社には「歌に素晴らしく力があるから大丈夫」と太鼓判を押されたそうだけど(笑)。
TOSHI:テント小屋でライブをやるなんて初めてだったから純粋に楽しかったよね。
PANTA:花園神社でライブをやることになって、桃山君も音量の面でだいぶナーバスになっていたみたいだね。いろんな所に根回しをしなきゃいけないし、ステージの後ろは吉本興業の東京本部だし。
──「R★E★D」の背後に“BLACK”がいたと(笑)。
PANTA:言うねぇ(笑)。吉本に話をしたら、「その日は日曜日で撮影もないので思いきり暴れてください」と言ってくれたみたいだけど。
──この「搖れる大地 I」と「搖れる大地 II」もそうですが、本作には随所にPANTAさんによる語りが挿入されていますね。
PANTA:誰も間奏を入れてくれないからさ(笑)。「搖れる大地」は特に、空いちゃった部分をセリフで穴埋めしなきゃいけなかったので。今後のライブでは、その部分は面白いことを考えられると思うけどね。
「紫のプリズムにのって」は符牒のような問題作
──憂いを帯びた曲調の「紫のプリズムにのって」もまた名曲ですが、これは深読みしようとすればどこまでも深読みできそうな、暗号解読のしがいのある曲と言えますね。
PANTA:ダブル・ミーニング、トリプル・ミーニングを詰め込んだ曲だからね。現代社会を動かしているのは武器なき情報戦、つまり諜報戦でしょう。エドワード・スノーデンや日本軍の暗号を調べたらいろんな言葉が出てくる。その辺を楽しんでもらえたらいいんだけど。
──なるほど。忍びもまた室町時代から江戸時代にかけての諜報員だし、そこは「乱破者」とリンクしてきますね。
PANTA:うん。そういうのも『R★E★D』の「クラブハウスで待つよ(Nuclear Club)」とつながってくるわけ。
──ああ、「ハープーンがシドラを舞う」という隠語のような歌詞がありましたからね。
PANTA:諜報員と言っても、歌詞に出てくる「007」はジェームズ・ボンドのことではないから。その辺はまぁ、推して知るべしということで。
TOSHI:宿題がいっぱい出たね(笑)。
──たとえば歌詞の中にある「テヘランの死神」は、V・E・フランクルの『夜と霧』に出てくる昔話ですよね。PANTAさんのソロの代表作である『クリスタルナハト』を語る上で『夜と霧』は決して欠くことのできない著作だし、「R★E★D」や「屋根の上の猫」同様、ここでもPANTAさんのソロ作とリンクしてくるのが面白いなと思って。
PANTA:「テヘランの死神」が意味するのは生と死の確率なんだけど、死ぬも生きるもちょっとしたタイミングで変わってくるよね。従軍看護婦だった俺の母親が乗り込んでいた氷川丸が帰国の途中でもし攻撃されていたら、俺はこの世にいなかったわけだしさ。そんなふうに誰もがみな何らかの幸運のもとに生を受けているわけで。まぁ、随所に施した掛け詞を楽しんでほしいよ。そういう隠語の意図は作者が提示するものではなく、聴いた人が感じたことが正解だからね。
──「紫のプリズム」という言葉自体がそもそも暗示的だし、PANTAさんが「サイロ」を家畜の飼料の貯蔵庫という文字通りの意味で使うわけもないでしょうしね。
PANTA:直接的な表現をすると、不買運動される前にテイチクから発売できなくなるからね(笑)。
澤:あと「紫のプリズムにのって」は、PANTAさんがイントロに12弦ギターを使いたいということで、たまたまスタッフが持っていた40年前の12弦ギターを急遽使わせてもらうことになったんですよ。
PANTA:12弦ギターを弾くのは相当難しいはずなんだけど、竜次はサラッと弾いてすごいと思ったな。
──「だからオレは笑ってる」は『頭脳警察セカンド』に収録予定だった未発表曲で、実に47年ぶりに陽の目を見たことになりますね。
PANTA:ソロ1作目の『PANTAX'S WORLD』に入れようと思ってレコーディングまでしたんだよ。だけど「マーラーズ・パーラー」が長すぎたせいで入れられなかった。『頭脳警察セカンド』に入れるのを見送ったのは、「暗闇の人生」と曲調が被っていたから。
──「アウトロ〜OUTRO」は切々と唄われるラブソングで、「恋と革命」というフレーズが詩的でとてもいいですね。
PANTA:それも昔だったら恥ずかしくて絶対に使わなかっただろうね。まぁ、今や人生のアウトロだからさ(笑)。言いたいことをそのまま言ってもいいんじゃないかと思って。とは言え、この「アウトロ〜OUTRO」が一番歌詞が変わったかな。『暴走対談LOFT編』で唄っていた時は、ダイレクトに「倉橋由美子」とか「大島弓子」とか唄っていたしね。
──ああ、歌詞にある「聖少女」は倉橋由美子の代表作ですよね。
PANTA:うん。たとえば処女作の『パルタイ』は日本共産党の暗喩でしょ? 当時、倉橋由美子の本を女の子が抱えているのが格好良かったんだよ。『聖少女』は、交通事故で記憶を失った女性が事故前に綴っていたノートに「パパ」と呼ばれる男性との肉体関係が綴られていたという物語だよね。歌詞の中に「聖少女」と一言出すだけで、身内からの性的虐待や配偶者暴力、パルタイに至るまでいろんな世界が表出してくるんだよ。あと、「そっとプレベを弾いてみた」という歌詞は、俺の中では「銃をとれ」のイントロなわけ。それで岳がわざわざプレべで弾いてくれたんだけど、竜次がそこを被せるように同じフレーズを弾いちゃって大笑いしたよ(笑)。
──今回、レコーディングで一番手間と時間がかかったのはどの曲だったんですか。
澤:やっぱり「紫のプリズムにのって」じゃないですかね。
PANTA:そうだね。ホントは歌に入る前に壮大なイントロをおおくぼ君に付けてほしかったんだよ。だから今後のライブではその形でやろうと思ってる。