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INTERVIEW

トップインタビューキノコホテル「創業12周年にして魅惑のディスコティーク・ラウンジ竣工! グルーヴィーなリズムが躍動する悦楽乱舞に狂喜せよ!」

創業12周年にして魅惑のディスコティーク・ラウンジ竣工!
グルーヴィーなリズムが躍動する悦楽乱舞に狂喜せよ!

2019.06.03

 令和元年の今年、創業12周年を迎えるキノコホテルが放つ通算7作目となるオリジナル・フルアルバム『マリアンヌの奥儀』のテーマは〈踊れるキノコ〉である。SMAPやAKB48などへの楽曲提供、サウンド・プロデュースで知られる島崎貴光が共同プロデューサーとして伯楽ぶりを発揮した結果、キノコホテルの従来の持ち味を損なうことなく全く新たな側面を引き出すことに成功したバンド史上随一の傑作と相成った。
 キノコホテルとは鬼才・マリアンヌ東雲がバンドのコンセプトから楽曲制作のディレクション、実演会の在り方に至るまで仔細なジャッジを独断で下す特異な集合体であり、その非客観的姿勢が唯一無二の個性にもなっていたわけだが、ヒット至上主義のJ-POPの最前線で活躍する島崎の慧眼がキノコホテルの優れた楽曲を丹念に磨き上げ、研ぎ澄ませた結果、誰も聴いたことのなかった鮮烈かつ新鮮なキノコホテルが表出した。プラスチック・ソウルならではの良さは残しつつも身体性を帯びたダンス・ミュージックに昇華させたリード曲「ヌード」はその好例で、エキセントリックな存在感はそのままに音楽性はポップでカラフルでポピュラリティがあるというキノコホテル本来の志向と嗜好を見事に具象化している。キノコホテルをキノコホテルたらしめる極意が存分に盛り込まれた本作の制作過程について、支配人および全従業員に話を聞いた。(interview:椎名宗之)

想定内の結果が退屈で外的刺激を求めた

──外部プロデューサーを迎え入れてアルバムを共同制作するという初の試みは、どんな経緯で決まったんですか。

マリアンヌ東雲(歌と電気オルガン):キノコホテルはバンドのコンセプトから楽曲の世界観、音作りに至るまですべてワタクシが采配を振るのが基本で、誰にも邪魔されずにあらゆることを独断でやらせてもらうことに最初は喜びも感じていたんです。ところがある時から、ワタクシの独壇場を続けていく先に一体何があるのだろう? と思い始めてしまった。自分の想定内の楽曲やステージングしか生まれてこないのはすごくつまらないことだし、このままでは自分自身がキノコホテルを全然楽しめていないことが周囲に伝わってしまうのではないかという危惧もありました。自分の思い通りにやれていたことが逆に退屈になってしまって、外的刺激を求めるようになったんですね。では誰とならタッグを組めるか? と考えた時に、なかなか思いつく人がいなかったんです。「この人の言うことなら聞ける」という人がまずいない(笑)。

──支配人の場合、だいぶ限られてくるでしょうね(笑)。

マリアンヌ:ワタクシがまずその人に懐くかどうか? はすごく大きなハードルだし、合わない人とは徹底的に合いませんから。さてどうしましょうと思い悩んでいたところ、旧知の友人だった島崎貴光さんのことがふと頭に浮かんだの。と言うのも、数年前に島崎さんと偶然再会するタイミングがあって、向こうもワタクシがバンドをやり続けていることをご存知だったんです。それで赤坂ブリッツの創業10周年記念実演会も観に来てくれて、後日、2人で呑みながらいろいろと話を聞いてもらいまして。その時から「次にアルバムを作る時はこの人を呼ぼう」と決めていました。島崎さんはSMAPやAKB48といったJ-POPの第一線でヒットを飛ばし続けてきた音楽プロデューサーで、キノコホテルが歩んできた道とは正反対なんだけど、それくらい畑が違ったほうが組み合わせとしては面白いと思ったの。彼はヒットメイカーとしての経験値がすごく高いし、自分としてはとにかく劇的な変化を求めていたので。

──創業10周年を迎えたキノコホテルの次なる一手として、新たな仕掛けを欲していた部分もあったのでは?

マリアンヌ:そうですね。前作『プレイガール大魔境』は世間で言うところのセルフカバー兼ベスト・アルバム的意味合いの作品だったし、10周年以降の初のオリジナル・アルバムでは何か新しい、鮮烈な印象を残したい気持ちがありました。

──支配人が達観されてきたと言うか、第三者にジャッジを委ねられるゆとりが生まれてきたことも大きいのではないでしょうか。

マリアンヌ:何から何まで自分一人でジャッジを下すことにこだわりすぎていた気はしますね。時間や予算的な問題で、それが叶わない時のフラストレーションはとにかく辛いし。それらを共有できる当事者が欲しかった。作品づくりにせよ実演会にせよ、クオリティを追求していく上で第三者的な視点でアリかナシかが気になるようになったのもあります。それに恐ろしいことに、メジャー・デビューしてから来年の2月で10周年なんですよ。10年も経ってこの先また同じ感じでやっていくのかと考えた時、希望よりも失望のほうが大きかった。自分自身を飽きさせないためにも外的刺激が不可欠でした。

──ケメさん、ファービーさん、ジュリエッタさんは今回の外部プロデューサーの起用をどう思ったのですか。

マリアンヌ:いきなり何のことやらって感じだったんじゃないかしら。

イザベル=ケメ鴨川(電気ギター)ジュリエッタ霧島(電気ベース)ファビエンヌ猪苗代(ドラムス):(頷く)

マリアンヌ:「ワタクシの知り合いのプロデューサーを入れるから」としか言わなかったし、毎度のことながら従業員とは密な話をせずに進めましたからね(笑)。

ファビエンヌ:最初はエッ!? と思いましたけど、もともとの知り合いということで信頼関係が成り立っている感じだったので、これはいいものができるんじゃないかと思いました。島崎さんに提出するデータをまとめる作業で支配人も大変そうだったけど、意外と楽しそうに見えましたし。

──提出するというのはデモのことですか?

マリアンヌ:デモもそうだし、レコーディングのためにパラのデータを書き出して一本ずつ送ったり、緻密な準備作業がいろいろとあったんです。

 

従来にないデモ段階での緻密なやり取り

──島崎さんはデモ制作の段階から参加していたわけですね。

マリアンヌ:そうですね。自分一人で作ったデモが数曲あって、それをそのままレコーディングに活用したケースもあれば、島崎さんにデモを聴いてもらってから練り上げていくケースもありました。その曲をより良くするためのアドバイスと言うのかしらね。たとえばAメロとサビのメロディが違ってもコード進行が同じ展開というのはワタクシがやりがちな手法で、よく手抜きだなんて言われてしまうんですけど(笑)、それに対して島崎さんが「サビは思いきって変えたほうが絶対にいいよ」とアドバイスしてくれるわけです。「変えたほうがいい」と言うだけで「こう変えろ」とは言ってこない。彼もワタクシのことを尊重してくれているので、ポジティブな指摘を的確にしてくれるんです。そういうアドバイスを受けること自体、ワタクシの音楽人生において初めてのことで、作曲教室に通っているような気分でした。

──島崎さんの一言がきっかけで劇的に変化した曲もあったんですか。

マリアンヌ:リード曲の「ヌード」はそのケースでしたね。

ケメ:最初はサビがAメロと同じだったんですよ。

マリアンヌ:サビのメロディは多少サビらしくしていたんだけど、Aメロと進行が同じだったので今ひとつ盛り上がりに欠けていたの。それに対して島崎さんが「ここは転調してみたらどう?」とアドバイスをくれて、そもそもワタクシは転調と移調の違いすらよくわかっていないレベルなので、「転調ねぇ…」とか言いながらもサビをサビらしく作り変えたんです。結果的に今回のリード曲になるほど見違えて良くなりましたね。

──なるほど。今回はレコーディング前のデモ制作の段階から前例のない経験をしたというわけですね。

マリアンヌ:これまではワタクシが作った楽曲を3人に聴かせて4人で練習をして、ある程度形になったらろくに打ち合わせもせずにエンジニアさんの所へ行ってただ黙々と録るだけのことが多かった。いま思えば随分とぞんざいなやり方だけど、島崎さんにはまずそれを変えようと言われました。そのほうが絶対にワタクシがラクになるからって。キーボードなりシーケンスなりを事前にちゃんとデータにしておいて、それをワタクシと島崎さんとエンジニアの清水裕貴さんの3人で共有しておけば、スタジオでデータの抜き差しが容易にできる。確かにそうしておけば、自分のやりたいことがエンジニアさんになかなか伝わらないもどかしさや面倒な過程を省くことができて効率的でした。レコーディングを開始したのは3月の頭だったけど、デモ段階の緻密なやり取りは1月末から始めていたんです。

──年始に行なわれた『スナック東雲 新年会』では、今年中にアルバムが出るかどうかはまだわからないという微妙な感じでしたよね?

マリアンヌ:そうだったかしら。だとすればそれからすごく頑張ったわ(笑)。島崎さんのように自分のお尻に火をつけてくれる人がいたおかげで、あらかじめ用意しておくべきデータ量の多さ、事前に自分がやっておかなければならないことのあまりの多さに気がついたの。島崎さんが「お嬢(マリアンヌのこと)、そろそろマズいよ」とやんわりプレッシャーをかけてきたので、今年の1月、2月はほとんど家から出ずにずっと作業に没頭していました。そういうちょっとした圧があると自分はやる気を発揮できる人間なんだなと思いましたね。今までそんな経験は全然してこなかったし、レコーディング全体の帳尻さえ合えばOKみたいな感じだったので。

──ちなみに島崎さんはどんな方なんですか。

マリアンヌ:物腰の柔らかい方ですよ。問題点を指摘するにしてもアドバイスするにしても言い方がソフト。彼が間に入ってくれたことでワタクシ以外の3人もやりやすかったと思います。褒めるところはちゃんと褒めてくれましたしね。

 

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マリアンヌの奥儀

KING RECORDS KIZC-541〜2(CD+DVD)
¥3,200+税
2019年6月26日(水)発売

作詞・作曲:マリアンヌ東雲
エンジニア:清水裕貴
プロデュース:マリアンヌ東雲・島崎貴光
アート・ディレクター:常盤響

amazonで購入

【CD収録曲】
01. 天窓
02. ヌード
03. 愛の泡
04. 東京百怪
05. レクイエム
06. 雪待エレジィ
07. 華麗なる追撃
08. 茸大迷宮ノ悪夢
09. 女と女は回転木馬
10. 秘密諜報員出動セヨ
【DVD】
PV「ヌード」+メイキングなど

LIVE INFOライブ情報

サロン・ド・キノコ 〜13年目のウ・ワ・キ〜
創業12周年記念実演会

出演:キノコホテル(ワンマン)
2019年6月24日(月)新宿ロフト
OPEN 19:00 / START 19:30
前売¥3,500(ドリンク代別¥600)
チケットはぴあ(Pコード:146-985)、ローソン(Lコード:70915)、イープラス、新宿ロフト店頭にて発売中
問い合わせ:新宿ロフト 03-5272-0382

アルバム発売記念ツアー
サロン・ド・キノコ 〜奥儀大回転〜

6月29日(土)札幌SOUND LAB MOLE
7月06日(土)梅田Shangri-La
7月13日(土)福岡 BEAT STATION
7月14日(日)別府 Copper Ravens
7月15日(月・祝)小倉FUSE
8月04日(日)仙台FLYING SON
8月30日(金)名古屋クラブクアトロ
8月31日(土)広島クラブクアトロ
9月13日(金)東京キネマ倶楽部
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