どんなスタイルでもキノコホテルになるという強み
──パンキッシュな「茸大迷宮ノ悪夢」とグルーヴ感溢れる「女と女は回転木馬」はこれまでのキノコホテルらしさの延長線上にある、実演会映えしそうな攻めのナンバーですが、ここでもやはりどこか新しさを感じます。「茸大迷宮ノ悪夢」は雑然と混沌が入り混じりながらも過不足なく音が整理されているし、「女と女は回転木馬」は「roundin' roundabout」という英詞がサビに用いられているのが珍しいし。
マリアンヌ:サビに英詞が来るのは初ですが、もう二度とやらないでしょうね(笑)。サビに限らず英詞を取り入れること自体に抵抗があるし、それっていかにもJ-POP的じゃないですか。自分の流儀ではないと思っていました。でも「女と女は回転木馬」のサビは本当にあれしかなかった。日本語が何ひとつハマらなかったので。
──まだ発売前なので詳しいことは差し控えますが、最後の「秘密諜報員出動セヨ」はメタフィクション的手法を取ったユニークな楽曲ですね。これはインストゥルメンタルが出発点だったんですか。
マリアンヌ:最初はインストとして考えていたんですけど、歌ではない何かをのせたいという構想が芽生えたんです。レコーディングの終盤になってそれをどうしようかという話になって、別にインストでも構わないけど最後の締めとして何かしらの展開が欲しいということになりまして。それでどこからか逆再生というワードが出てきて、試してみることにしたんです。エフェクトで音を潰したりしながら。
──ケメさん、ファービーさん、ジュリエッタさんは「秘密諜報員出動セヨ」を聴いてどう感じました?
ファビエンヌ:やったー! と思いました(笑)。
ケメ:新しすぎますよね。
マリアンヌ:ケメさんのギターが入っていませんからね。
ケメ:その代わりにタイトルを決めました。
マリアンヌ:タイトルはマスタリングの日にみんなで決めたの。
──タイトルと言えば、本作の収録曲のタイトルを並べると三角形になりますよね。
マリアンヌ:そうなんですけど、これは偶然と言っておいたほうがいいかしら(笑)。正式なタイトルが決まっていた曲もあれば決まっていない曲もあった時点で曲目を並べてみて、これを何らかの形にしたいと思って眺めていたら三角形に見えてきて。レイアウト的にも綺麗でしたので、まだ決まっていない曲タイトルはそこに収まるよう字数制限を設けました。たとえば「ヌード」は最初から2曲目に置くことを決めていたので、2文字か3文字にする必要があったわけです。
──そういうちょっとしたお遊びも含めて、これまでにないゆとりが今回のレコーディングにはあったことが窺えますね。
マリアンヌ:今までは楽しむどころではなかったし、何とか間に合わせることに必死でしたからね。昔は歌入れの最中に喉を壊してしまったこともあったし、いろんなことに押し潰されそうになりながらレコーディングに臨んでいたんです。でも今回は作業を楽しむ余裕があったし、もの作りの過程とはこうあるべきだというひとつの答えが自分の中で出ましたね。
──実演会同様にレコーディングも4人の出す音だけで完結させるのではなく、レコーディングではレコーディングでしかやれないことをやるという風向きに変わってきたのは自然な流れのように思えますね。
マリアンヌ:それもキノコホテルが以前より自由になれたことのひとつなんです。「実演会でどうやるの?」という曲も確かにありますけど、実演会で再現することは一旦忘れてレコーディングならではのことを今はやりたい。4人でできることに固執するとどうしても窮屈になってしまう。シンプルで「いかにも」なキノコホテルを好きな方もたくさんいるでしょうけど、自分の中ではその枠にとらわれる時期はもう過ぎてしまったみたい。ワタクシの書く曲がいつしか4人で表現できる限界を超えてしまって、もはや普通のバンド・サウンドでは完結できないものになってきたのもあります。そんな楽曲なり方向性でもこの3人ならちゃんとついてきてくれると思っているので、この先どこへ向かうのかはわからないけど気が済むまで突きつめたい気持ちはあります。
──今のキノコホテルは、ビーチ・ボーイズで言えば『ペット・サウンズ』、ビートルズで言えば『サージェント・ペパーズ』みたいな時期に差し掛かっているのかもしれませんね。
マリアンヌ:面白い時期に来ていると思いますよ。次のアルバムでは全く違うことをやっている可能性も大いにありますし。でもそれでいいんじゃないかと思うんです。ひと昔前の自分ならそうは思えなかったでしょうけど、今はむしろアルバムを出すごとに全く毛色の違うものにしてもいいとすら思っているので。
ケメ:次はパンクのアルバムを作りたいと支配人は考えているんですよね?
マリアンヌ:そうなの。(遠藤)ミチロウさんを偲んで、最近スターリンしか聴いてないから(笑)。今までキノコホテルが構築してきたものを全部ぶっ壊してやりたいなと思って(笑)。なんて言いながら、いきなりアコースティックに目覚めたりとか…。
ジュリエッタ:それはヤバい(笑)。
ファビエンヌ:極端すぎますよ(笑)。
ケメ:まぁ、ここまで来たら何でもやりますけど(笑)。
──どれだけ振り幅が大きくても、どんなスタイルであろうともキノコホテルになるというのが今のキノコホテルにとって最大の強みなんでしょうね。
マリアンヌ:必然的にそうなったんだと思うし、そこに10年以上に及ぶ活動の成果があるんじゃないかしら。若手のバンドにそんな芸当はできないでしょうね。まだまだ面白いことをやっていきたいし、その時々のキノコホテルを一緒に楽しんでくださる胞子の方々と令和の時代を歩んでいけたらいいなと思いますね。