独自の世界観で名作を世に送り出し多くのファンを持つアニメーション監督"幾原邦彦"さん。大正ロマンの儚さを音楽で表現する"少女式ヱリス"のボーカル"帝子"さん。お二人がどのようにして出会い、魅力を感じ、一緒に作品をつくっていかれているのかを語っていただきました。(interview:柏木 聡 / LOFT/PLUS ONE)
全く違う幅が欲しかった
──バンドをされている帝子さんとアニメ・映像監督の幾原邦彦さん、エンタメとはいえ分野が違いますがお二人が出会われた経緯を伺えますか。
幾原:(J・A・)シーザーさんのライブにお伺いした時にゲストボーカルで彼女が出ていたんです。その時の歌が耳に残ったんです。上手だなと。
帝子:嬉しい。2016年ですから、3年前ですね。
幾原:楽屋でご挨拶させていただいて、“少女式ヱリス(以下、ヱリス)”というバンドのボーカルをやっていることも伺いました。そのあと曲を聞いてみたのですが、バンドの楽曲も面白かったんです。スタッフにも聞かせてみたところスタッフの評判も良く、最初は楽曲を1曲お借りしようというのが『さらざんまい』に参加していただくきっかけでした。
──帝子さんは幾原監督をご存じだったのですか。
帝子:もちろんです。大好きでした。
幾原:さらに制作が進んでいくにつれて、“吾妻サラ”というキャラクターの声を頼んでみるのはあるだろうかと考えたんです。そのことをスタッフに話したところ、1度テストを受けてもらおうということになり声をとってみたんですが、それもスタッフにも評判がよかったのでキャストもお願いすることになりました。
──キャストのオファーが来たときはいかがでしたか。
帝子:最初は死ぬのかなと思うくらいびっくりしました。死亡フラグが立ったんだなと(笑)。
幾原:(笑)
帝子:嬉しすぎてよくわからなくなっていました。メールでお話をいただいたんですけど、間違いじゃないか何度も見返しました。
幾原:ほかが男性キャラばかりでキャストの方もキャリアのある人が多かったので、異物感が欲しいなと思っていたんです。声優の芝居じゃない芝居がほしかったんです。そこを今回は帝子さんにやってもらいました。今作は女性にアプローチする形になるんだろうなと感じてはいたんですけど、偏りすぎるのはよくないなと思ったので、全く違う幅が欲しかったんです。誰もコッチ側が来るとは予想していないだろうなと(笑)。
──情報を見て私もびっくりしました。
幾原:それが作品の幅になっていいなと思ったんです。あとヱリスの楽曲が女の子の生死感を扱っているのがいいなと感じたのもお願いした理由の1つです。
──『さらざんまい』のキービジュアルが男性メインで明るいので、ヱリスのもつ儚い世界観はギャップも出ていていいですね。「放課後カッパー」のMVも公開されましたがいかがですか。
帝子:再生回数がすごいことになっているのでドギマギしました。
──幾原監督のツイートでは、ここからすごい展開になっているとのことですが。
幾原:公開されているのは1番のみですが2番の歌詞がまたすごいんです。終わりまで聞くと1つの物語になっています。
──わらべ歌のようですよね。誰しも聞いたことがある懐かしいメロディーや歌詞で、その中に新しさもあって。
幾原:耳に残るところがありますよね。僕は耳に残る歌が好きなので。
帝子:嬉しいです。また、フラグが立っていますね(笑)。
──幾原監督からはヱリス・帝子さんの魅力を伺えましたが、帝子さんから見た幾原監督作品の魅力は何ですか。
帝子:唯一無二なところです。あと、セリフがまっすぐ胸に刺さってくるんですよね。この気持ち知っているなって、感情移入できるところが魅力です。
──そこはボーカルとして、言葉に対しての意識なのかもしれないですね。幾原監督がさきほどおっしゃられた耳に残るという部分とリンクしていますね。
帝子:そうですね。
幾原:言葉は凄く意識します。僕は寺山(修司)さんの仕事が好きでした。寺山さんの言葉は時代を切り取るような強烈なものが多くて。だから僕も言葉を探すことが身についたんだと思います。帝子ちゃんはシーザーさんとの付き合いもあってそういった文化に触れていて詳しいので、そこも意外で面白いなと感じています。
──今回、帝子さんは言葉といっても歌詞ではなくセリフということで新しいことに挑戦する形ですが、アフレコの際はどのようなことを意識されていましたか。
帝子:私を選んでくれたということはちょっと普通じゃない方がいいんだろうなとは思いながらやりました。自分にできることを最大限したつもりです。
──幾原監督からみて帝子さんの演技はどうでしたか。
幾原:単純にかわいい女の子をやって欲しいということであればプロの声優に頼んだ方がいいんです。彼女に頼む理由は浮いてるところかな、良く言うとなんだろう…。
帝子:良く言えないですか? がんばって、良く言ってください(笑)。
幾原:(笑)。特別感がありますね、聞いたことがない感じでよかったです。
──帝子さんが演じた“吾妻サラ”というキャラクターはどんなキャラクターですか。
帝子:アイドルなんですけど、秘密があって、一筋縄ではいかない、なんだかわからない存在ですね。そういうキャラクターでありたいと思って演じました。自分も音楽活動はしているのでその経験からアドリブを入れたりしました。
──アドリブも。
帝子:すごくよく聞かないとわからないと思うんです。メインで話しているキャラクターがいる場所で流れている裏にTVにサラが出ていて。
幾原:TVアイドルなので作中の番組内で出ているというシチュエーションなんです。そこのセリフを自分で考えてもらいました。
帝子:頑張った、頑張った。
幾原:メインで話している主人公たちの会話の後にTV画面のサラに戻るんですけど、そこが繋がるようにしゃべってもらってます。
──難易度の高いことに挑戦されてますね。
帝子:大変でしたけど、すごく楽しかったです。みなさんすごくやさしくて、自由にやらせてもらえました。
──逆に最初だからよかったのかもしれないですね。
帝子:確かに、経験がないから型を気にすることもできませんでした。
幾原:狙い通りです。
──帝子さんから見た『さらざんまい』はどんな作品ですか。
帝子:一言でいうと衝撃に満ちた作品です。こうなんだろうなと予測はするんですけど、それが全部裏切られて、ほかのキャストさんともずっと予想と違ったって話をしています。物語をほとんど知らされずにやっているので、演技も逆にリアルになっています。
──衝撃だらけだということですが。
幾原:最初の視聴者ですから、そう感じてくれているということはコチラの狙いどころが上手くはまってくれているのかなと感じています。
──PVでは「つながる」というキーワードが前面に出ていますが、作品のテーマになるのですか。
幾原:そうですね。ただ、その言葉をいろんなものに置き換えています。
帝子:最初のPVで「君はつながっているけど一人なんだ」って言うんですよ。本当のことを言われたと思って、それも心に刺さりました。あと「欲望を手放すな」と言うじゃないですか。それを聞いて手放さなくてもいいんだと自分を承認された、許された気持ちになりました。