プロデューサー・吉村秀樹は“天井の高い人”
──アイゴン(曾田茂一)監修のライブ・コンピ『FLOWERS OF ERROR 1』(2003年11月発表)やDVDマガジン『GALACTiKA 05』(2004年9月発表)への参加はありましたけど、結成してすぐに単独音源を作ろうとは思わなかったんですか?
田渕:そうですね。自然な流れで行きたかったんですよね。なんて言うのかな、システムにのっとったふうにバンドをやりたくなかったんです。自然に始めて、曲ができてきたから「アルバムを作ろうか?」っていう当たり前のことを凄くしたかったんですよ。
小林:私はそういうシステム的なバンドをやったことがないし、他のバンドもこういう調子でやってますけど…。
安岡:うーん、まぁなんやろねぇ。普通にいいもんを作ってライブをやって、ごく当たり前の姿であればいいんじゃないかと。
──そして遂に、待ちに待った単独作がこのたび発表となるわけですが。
田渕:「そろそろ…そろそろ…」って言いつつ、今になったっていう感じですね(笑)。結成から3年弱で、ようやく。3年前は秀樹君がまだネクタイ締めてスタジオに来てましたから。
──収録曲はいずれもライブではお馴染みのナンバーですね。
田渕:はい。1曲(「oyster」)だけライブでやったことがないのがあるくらいで、あとは全部ライブでやってます。
──メンバー全員がソングライターという感じですか?
小林:曲によりますね。ほとんどの曲はちゃこちゃんが「こんな感じ」って作ってきて、他に何曲かは私と江崎君も作る感じです。詞はすべて“リーダー”が手掛けてます。
田渕:ははは(照笑)。作詞はそうですね。全部自分で。
──ひさ子さんは、このアルバム制作期間がブッチャーズのリハとかと重なって大変だったんじゃないですか?
田渕:演奏は2日、歌は1日半で録りましたからね。ミックスは2日間…2日というよりは48時間って感じで(笑)。
──プロデューサーにブッチャーズの吉村秀樹さんを迎えたのもリーダーの判断ですか?
田渕:いや…いやっていうか(笑)、そういうカチッとしたオファーではなかったです。気がついたら吉村さんが毎日スタジオに来てました(笑)。
安岡:来てもらって本当に良かったですよ。自分の発想にもリミットがあって、スネアひとつでもそうなんですけど、「こうやればこうじゃん」っていうのが吉村さんはパンっと出てくるんです。凄く的確なんですよ。録り方も斬新なんですけど、それがちゃんと曲に合ってましたから。
田渕:ライブもよく観に来てもらってたし、toddleというバンドがどういうものかを確実に理解してくれてはいると思うんですよね。それに、音楽的にも凄く信用の置けるブッチャーズのリーダーなので(笑)。音のことも凄いよく判る人で、私はリーダーでありながらよく判らなくて、大ざっぱなことしかあまりよく判らないんですよ。レコーディングの現場に一人はそういう客観的な人がいてほしいというところからもお願いしたというか。テイクを選ぶみたいなところで「こっちのほうがいいんじゃない?」って意見をどんどん言ってくれて、心強かったですよ。
小林:歌もちゃんとテイクを録ってる時に吉村さんは聴いてくれてて、こっちのほうが雰囲気はどうとか言ってくれたり。
田渕:うん。歌はガッチリちゃんとしてた。太平洋のような人ですね、こんな我々みたいなバンドのために…(笑)。天井の高い人ですよ。
江崎:開放感のある環境でやらせてくれたし、そこでバンドのいい部分を引っ張り出してくれたしね。天使みたいな人やねぇ(笑)。
安岡:マリア様みたいやねぇ(笑)。
──お酒の天使とかではないですよね?(笑)
田渕:ははは。エンジニアの植木清志さんはそれまでに何度も吉村さんとレコーディングをしたことがある方で、吉村さんの話す微妙なニュアンスまでちゃんと理解されてるっていうか。それも凄い大きかったですね。
──各パートのエッジがしっかりと立って確固たる存在感を放っているんですけど、真ん中に軸としてあるのはやはりひさ子さんの歌だと思うんですよ。ふわりとした浮遊感があって、瑞々しく透明感があって、聴いていてとにかく心地が好い。
田渕:やだなぁ、もう…なんて(笑)。まぁ要するにちょっとヘタクソってことですよ(笑)。
──いやいや。ここまで全面的に唄うのは初めてですよね?
田渕:そうですね。カラオケは好きなんですけど(笑)、バンドで唄うっていうのはまた違うものですね。バンドを始める時点で、自分で唄うのは“やるしかない!”って感じでしたね。
DのコードはGのように甘すぎず、Eのように重すぎない
──アルバム・タイトルは直訳すると“Dのコードを捧げる”となりますけど、これにはどんな意味が込められているんですか?
田渕:先に曲が出来て、曲名をどうしようって考えてる時にアルバムのタイトルにしようと思いついてですね、“コードのDを捧げる”って英語でどう言うのかなぁ? って小林さんに探してもらいました(笑)。自分の歌のキーがDっていうのもあるんですけど、私が例えばギターを部屋で手にしたり、リハーサルとかで最初に音を出す時に、Dのコードをチャラーンと鳴らすことが多いんですよ。だからEとかGじゃなくて、Dなのかもしれないです。自分が一番よく弾いてるコードで、一番好きなコードなのかもしれませんね。Gのように甘すぎず、Eのように重すぎず。
小林:私もDは好き。
安岡:僕も好き。
江崎:…じゃあ、俺も(笑)。
──ギターが2本ともなると、絡み具合とか結構考えますか?
田渕:うーん、この2人の間ではそんなに考えてないですねぇ。
小林:どっちかが曲を作ってくる時は2本のパートの絡みとかを考えて、リーダーが考えて「こう弾いて」って言う時はそれなりにそうなるんですけど、「ここは自由にやってみて」みたいな時はそんなに計算はしないよね?
田渕:うん。こっちがコード弾いてるから単音でいいんじゃない? みたいな(笑)、そのくらいのことしか考えてないかもしれないですね。音選びとかに関しては小林さんが主にフレーズを弾くんですけど…どうだろう、(小林に向かって小声で)考えてます?
小林:……うーん……。
安岡:こんなバンドです(笑)。
田渕:私は手癖みたいなのでフレーズとかも考えちゃうところがあるけど、小林さんはわりとドレミで考えたりするんですよ。だから私とは全然違った感じのフレーズを弾いてくれます。
──リーダーの頭の中にしっかりとした設計図があって、それを各人に伝えるわけでもなく…。
田渕:リーダーなんていっても立場の弱いもので(笑)。「こうして」って言っても「え〜」とか言われたり…。
安岡:なんで僕のほうを見るんだよ!(笑)
──安岡さんが実は影のリーダーだったりして。
田渕:あ、でもアレンジ・リーダーではあるかもしれないです。曲を仕上げる段階ではわりと安岡君が取り仕切ることが多いですし。
──2曲目の「a sight」はライブ・バージョンが『FLOWERS OF ERROR 1』に収められていましたけど、なんというか、個人的にレベッカとか'80年代に活躍した女性ボーカル・バンドの曲を連想したんですよ。
田渕:ああ、判ります。私の中のイメージでは3曲目の「hesitate to see」がレベッカなんですけど(笑)。「a sight」は一番最初にできた曲なんですよ。秀樹君をバンドに誘おうと思ってた時に、実家の四畳半でエレキ・ギターをチャカチャカチャカチャカ弾いてできた曲です。“あ、1曲できた〜”と思って電話しようって(笑)。この曲ができて、気分的にちょっとテンションが上がって“よし、今電話しよう!”と思ったんです。それまではいつお誘いをあげようかずっとモジモジしてましたから(笑)。
安岡:それで曲ができなかったら、今頃どうなってたんやろね?(笑)
──確かに「hesitate to see」はメランコリックで懐かしい感じのする曲ですね。
江崎:…それ、どんな曲やったっけ?
一同:ええ〜ッ!!
田渕:ダ〜ダ、ダダダ、ダ、ダ、ダ〜(と唄う)。
江崎:ああ、あれはいい曲(笑)。