実は手が込んでいるカバーと表紙
花田:読ませていただいて、私は二重の懐かしさを感じたんですね。ひとつは号泣議員(野々村竜太郎元兵庫県議)や加藤紗里さんといった今ではすっかり忘れ去られている人の時事ネタ、もうひとつはメン募というカルチャー自体の懐かしさ。今の若い人たちはメン募を知ってるんですかね?
能町:最近は減ってきて、壁に貼らずにファイル形式になっているという話をさっき楽屋で編集さんから聞きましたけどね。この本の作りの話なんですけど、カバーの帯を取るとメン募になってるんです。バンドをやるためにスタジオに入ったことがある人はわかると思うんですが、あらかじめ切り込みが入っているのをちぎって持ち帰るんです。そこに書いてある電話番号を後からかけて連絡するわけですね。まだメールすらメジャーじゃない頃はそういう連絡方法でした。
花田:お客さんの中でこういうメン募を見たことがないって方はどれくらいいますか?(と挙手を求めると、手を挙げる人がちらほらいる) ああ、やっぱりそうなのか…。メン募も「お母さんが若い頃はね…」みたいな話になってきたんですかね。
能町:私が大学の頃は一応ケータイがありましたけど、まだスタジオとかにちぎれるメン募があったんですよ。メールはすでにあったけど、誰もがメールでやり取りする感じでもなかった。個人でパソコンを持つ時代じゃなかったので。
花田:メールアドレスはメン募に書いてあったような気もしますが。
能町:あったかもしれないですね。ネットの掲示板なりSNSなりで募集するのはずっと後の話ですけど。
花田:2000年くらいはまだそんな時代じゃなかった。
能町:その当時はこの本のカバーみたいな感じでした。だけど、そもそもこの物語は2008年に始まっているんですけどね。
花田:連載当初からすでに時代遅れだったと(笑)。テテ子がそういう昔のカルチャーを引きずっているのが面白いですね。
能町:私がそういうものを描きたかったと言ったらそれまでなんですけどね。
花田:このカバーにもありますけど、当時のメン募には「完全プロ志向」ってよく書いてありましたよね。
能町:そうそう、スタジオあるあるなんですよ。ヘタな人ほどそう書いてあるんです。
花田:あと、「ボーカル以外全部募集」という文言は、能町さんはこれが書きたかったんだろうなと思って。
能町:そうなんですよ。「ボーカル以外全部募集」って、自分は何もできないと言っているようなものですからね(笑)。楽器の上手い人に助けてもらって、いいとこ取りしたいってだけなので。
花田:だいぶ上から目線ですよね(笑)。
能町:メン募に関しては、カバーをめくって表紙にニセのメン募チラシがたくさん載ってるのに注目してほしいんですよ。ロフトブックスのみなさんがすごい頑張ってくれて、この本のためにわざわざ作ってくれたんです。昔はこういうチラシがたくさんスタジオに貼ってあったんですよ。ペンタとかの貸しスタジオに。
花田:ニセのメン募チラシとは芸が細かいですね。
能町:…そうだ、思い出した。このあいだ姫路に行った時、雑居ビルの地下に喫茶店やスタジオが入っていて、そこの廊下にメン募チラシがいまだにありましたよ。今年の話なので、まだメン募文化は滅亡してないですね。皆さんももし街角でメン募チラシを見かけたら、貴重なものだと思って写真を撮ったほうがいいと思います(笑)。まぁそれはともかく、この『中野の森BAND』の本作りはけっこう頑張ってやってもらったんですよ。
花田:裏表紙のチラシもすごくいいですよね。「プロを目指し真剣にバンドを考えて」いるのに「音楽のジャンルは得に問いません」っていう。「特に」が「得に」になってるし(笑)。
能町:私が描いたカバーのメン募もよく見ると誤字だらけなんですよ。ちゃんとした出版社なら赤字が入ると思うんですけど、「メンバー募集」の「募」の字も「集」の字も間違ってるんです。
花田:うわ、ホントだ。細かいですね。
能町:「ボーカル以外全部募集中」の「募」も違うし、「楽器の得意な」の「得意」もわざと「特意」にしてあるし。テテ子はこういうメン募チラシを書き慣れてない子という設定なので、わざとそうしたんです。「クラムボン」も「クラムボンん」になってますしね。私がやりたいことをここで全部やってます。