ストーリーと言うより小ネタ集に近い
花田:テテ子はちょっと痛々しいところがあると言うか、どこか勘違いしていたり、自意識過剰だったりしますよね。それは若かりし頃の能町さんが投影されているところもあるんですか?
能町:あんまりないですね…。むしろあの頃、テテ子くらい行動的だったらなぁ…という気持ちです。本にも少し書いたんですけど、テテ子が「ボーカル以外全部募集中」とメン募のチラシに書いたのは、スーパーカーのフルカワミキさんのエピソードを下敷きにしているんです。
花田:それは知らなかったのでびっくりしました。「全パート急募」と書いたチラシを八戸の楽器屋に貼ったんですよね。
能町:そうなんです。フルカワミキさんも最初は音楽的な知識が浅くて、半分ノリみたいな感じでバンドをやろうとしたと思うんです。それで「全パート急募」のチラシを貼ったら、ソニック・ユースとかが好きな人たちが偶然にも集まったという。そのエピソードがすごく好きだったので下敷きにさせてもらったんです。連載当初はそのエピソードを使いたかったのと、決してメジャーではないけど私の好きなキャラクターをガツガツ出していこうと思っていた程度だったんですよ。
花田:読んだ方はおわかりだと思うんですが、能町さんのキャラクター愛がすごいですよね。小ネタの応酬と言いますか。
能町:むしろ小ネタしかないですね。ストーリーと言うより小ネタ集ですから(笑)。
花田:わかる人だけわかればいいみたいな突き放したところもありますけど、わからなくても「これはきっとこういうことなんだろうな」と感じながら読めるじゃないですか。子どもの頃に読んでた漫画にはそういうテイストがありましたよね。よくわからないけど、これは何かのもじりなんだろうな…とか。その感覚も懐かしかったんですよ。
能町:きっとそういうことがやりたかったんでしょうね。今の時代にこんなことをやってどこまで通じるのかわかりませんけど(笑)。
花田:この懐かしい気持ちを久しぶりに味わえましたし、こういう漫画は今の時代になくなりかけているのかなと思ったんですが。
能町:たしかにあんまりないですよね。
花田:元ネタがわかった時も楽しいんですよ。50話で中島みゆきさんの「あの娘」に出てくる女の子の名前が使われていたりとか。
能町:毎回そういう小ネタをやるためだけに描いてますからね(笑)。だからただ話を進めるだけの回を描く時は申し訳ない気持ちになるんです。誰に対して申し訳ないのかよくわかりませんけど(笑)。
花田:読者の皆様に対して?
能町:読者の皆様が小ネタを求めているのかよくわかりませんけどね(笑)。
花田:私が登場キャラの中で特に印象的なのは号泣議員と、加藤綾菜さんと加藤紗里さんのW加藤なんですよ。こんな事件あったなと思って。
能町:やっぱり忘れちゃいけない事件ってあると思うんですよ(笑)。
花田:当時はあれだけ強烈な印象を残した加藤紗里さんのことも今やすっかり忘れてるし、こうして本の中で刻み込んでいただいて良かったなと(笑)。
能町:加藤紗里さんと号泣議員は私の中でわりとメジャーな存在だったんですけど、もっとマイナーが人が1人いまして。当時からすぐみんなに忘れられるだろうなと思いながら描いた人で、私だけは絶対に忘れないぞと思って描きました(笑)。58話に出てくる山本けいという元大阪府議会の議員なんですけど。
花田:私はこの人、全然知らなかったです。
能町:この人は地元で仲良くなった中学生のLINEグループから締め出されて、「お前ら絶対に許さない!」と脅迫メッセージを送って問題を起こしたんです。ゴルゴ松本さんにそっくりなんですけど(笑)。
花田:そういうマイナーな人ばかりかと思えば「源野星」みたいなメジャーなキャラもいるし、メジャーからどマイナーまで同列に使い倒しているのがいいですよね(笑)。
能町:そうですね。いつも行き当たりばったりで描いているので、まさかこのキャラがこんなに活躍して引っ込みがつかなくなるとは…というのがあるんですよ。(本をパラパラとめくりながら)こうして見ると、やっぱり私はイタい議員が好きなんですよ。65話も議員ネタですね。内山麿我という浜崎あゆみの元カレで、あゆと別れた後になぜか渋谷区議選に立候補した人です。こんなものを描いたところで誰も喜ばないと思うんですけど(笑)。
花田:いや、そういうのは大事です。
能町:ホントに私は議員が好きなんだな。69話も金銭トラブルと買春疑惑の武藤(貴也)議員を描いてますからね。
花田:その前の68話も浪速のエリカ様(上西小百合元衆議院議員)を描いてますね。
能町:オラオラ系の秘書(家城大心)と一緒に描いてます。この頃は豊作でしたね。最近の議員はネタにしても面白くない人たちばかりだから。