往年のロックの名曲を今の時代の解釈で
──ちなみに、モッズの音楽も幼児期の情操教育の一環として組み込まれていたんですか。
AKIRA:生まれて初めて行ったライブがモッズの野音でしたからね。生後6カ月とかでしたけど。小さい頃からモッズのライブにはよく行かせてもらってたんですけど、最近またじっくりと聴き込むようになりました。
──赤坂BLITZでもモッズのデビュー前のナンバー「熱いKISS」を堂々と披露されていましたね。
AKIRA:子どもの頃はロックスターの森山さんというより、眉毛にピアスをしてる格好いいオジさんって感じでしたね(笑)。今はミュージシャンの大先輩として尊敬していますけど。
──今回のアルバムは森山さんのほかにKOZZY IWAKAWAさんも共同プロデューサーとして名を連ねていますね。
AKIRA:B.A.Dのコンピに参加させてもらった流れですね。森山さんとKOZZYさんは師弟関係でもあり、歳の離れた親友同士みたいでもあるのが面白いんですよ。仲良く一緒に呑んでる時でも音楽的なディスカッションが突然始まったりするんです。あまり見たことのない関係性ですね。アメリカではビジネス・パートナーが友人関係になるのは稀ですし。
──アルバムを全編ロック・クラシックのカバーで固めるのは森山さんのアイディアだったんですか。
AKIRA:そうです。そもそもは「スキーター・デイヴィスの『The End of the World』を唄ってみたら?」と森山さんに勧められたところから始まったんですよ。森山さんが昔からずっと好きな曲みたいで、私の声に合っているんじゃないかということで。そこから往年のロックの名曲を今の時代の解釈でカバーするアルバムにしようという話になったんです。それで自分が好きな曲、これは押さえておくべきでしょっていう曲を森山さんとKOZZYさんと話し合いながら30曲くらい候補を挙げて、そこから自分に合う曲を選んでいった感じです。当時のロックって圧倒的に男性目線の曲が多いので、歌詞を読んで「これはちょっと唄えないかな」っていうのは外したんですけど。
──具体的に言うと?
AKIRA:たとえばビートルズなら、男性目線で女性に向けた「I Saw Her Standing There」とか。とは言いつつ、残した曲もあるんですけどね。ラモーンズの「The KKK Took My Baby Away」も男性目線の曲で、自分の彼女がKKKに連れ去られたという歌詞ですけど、彼氏がKKKに連れ去られたという女性目線で一度唄ってみたものの、ちょっと違うなと思って。あと、キャット・スティーヴンスの曲とかビートルズの「A Hard Day's Night」とか、録ってみたけど今回は収録を見送った曲もあります。
──誰もが知るロックのスタンダード・ナンバーをカバーするにしても、ただ忠実に再現しても面白くありませんよね。原曲との違いをどう出そうとしたんですか。
AKIRA:そのままやっても古くさくなると思ったし、それはそれで好きなんですけど、ラヴェンダーズとしてはもっと現代っぽくやったほうが私たちの世代には入っていきやすいと思ったんです。
──だからどの曲もとてもポップでビートの効いたパンチのあるアレンジが施されているわけですね。その趣向が原曲の良さとポピュラリティを一層広げているように感じましたが。
AKIRA:ポップなアレンジでまとめたほうが私の声に合ってるというプロデューサー陣の判断なんです。それに、ポップに奏でたほうが古い曲を新しく聴かせられるという意図もあって。
──自分の歌声をご自身ではどう分析していますか。
AKIRA:唄ってる時に聴こえる自分の声はすごく好きなんですけど、録った声を聴くとなんかヘンな感じがしますね。友人や知人に今回のアルバムを聴かせると歌を褒めてもらったりもするんですけど、自分では特に特徴のある声だとも思わないですし、もうちょっとハスキーな声だったら良かったのになと思うこともあります。
──でも、飾ることなく素朴でまっすぐな歌声なのがいいような気がしますね。たとえばストーンズの「Tell Me」も、原曲のミック・ジャガーのクセのある歌にはどうしたって勝てっこないし、AKIRAさんのように小手先に頼らず、ありのままで唄っているのが逆に新鮮でいいなと思ったんですよ。
AKIRA:「Tell Me」は唄うのに苦労したんです。最初はリストになかったんですけど、ストーンズはやっぱり外せないだろうという話になって。だけど自分の歌にするまでにすごく時間がかかりましたね。仕上がったのを聴くとすんなりやれてるように思えますけど。
技巧的なことは後の話、まず何よりハートが大事
──逆にすんなり歌録りができたのはどの曲なんですか。
AKIRA:「Lightnin' Bar Blues」とかはわりとすんなり唄えました。ハノイ・ロックスのカバーで知ってからオリジナルを聴いたんですけど、お手本にしたのはハノイ・ロックスのほうなんです。
──ハープを吹いているのは誰なんですか。
AKIRA:森山さんです。KOZZYさんと話して、せっかくだから何かやってくれませんかとお願いしたんですよ。
──CCRの「Up Around the Bend」で締めるセンスもなかなか渋いなと思ったのですが。
AKIRA:それもCCRというよりハノイ・ロックスのカバーが好きだったんです。歌詞もいいし、ハノイっぽい縦ノリを活かして自分たちでもできるんじゃないかと思って。去年、ウィスキー・ア・ゴーゴーでマイケル・モンローのライブを観たのも大きいですね。
──ウィスキー・ア・ゴーゴーには入れたんですね。
AKIRA:ホントはダメだったみたいなんですけど(笑)、客の入りが悪かったからなのか、なぜか入れたんですよ。
──CCRではなくハノイ・ロックスのカバーで「Up Around the Bend」を知った極東の弱冠21歳の女性がそれを唄い継ぐのがロックンロールの面白さですよね。
AKIRA:そういう家庭環境で育ちましたからね(笑)。だいたいのロック・クラシックは聴いたことがあるし、自分でも唄えるんですよ。
──考えてみれば、デビュー曲は「The End of the World」で「世界の終わり」だし、アルバムの一曲目は「Misery」で「悲惨」だし、なんだか不穏な曲が多いですよね。
AKIRA:そう、「The KKK Took My Baby Away」も物騒な曲だし、不吉な感じの曲が多いんです。「彼女はもう二度と戻ってこない、彼女がいないと僕は惨めだ」みたいな。その辺は自分の声とポップなアレンジで明るく演出できてるとは思うんですけどね。
──プロデューサー陣からはどんなアドバイスをもらってレコーディングを進めていったんですか。
AKIRA:「流すように唄うな、もっと大事にメロディを唄え」と森山さんに言われましたね。上手く唄おうとするとダメで、何も考えずに唄った時のほうがいいねと言ってもらえて。あと、もっと女の子らしい感情を出せみたいなことも言われました。森山さんがよく言っていたのは「AKIRAのおきゃんな感じをもっと出してくれ」ということで。「Up Around the Bend」は特に女性のかわいらしさをもっと出してほしいと言われましたね。キュートでおきゃんな感じっていうか。
──おきゃんという言葉も今日日なかなか聞かなくなりましたけど(笑)。KOZZYさんからはどんな指摘を受けましたか。
AKIRA:「もっと気持ちを込めて唄え」とか、森山さんと同じようなことを言われました。カバーだけど自分の言葉にしろ、みたいなことですね。技巧的なことは後の話で、まず何よりハートが大事っていう。あと、ギターのTAKERUと一緒に私もギターを弾いたんですけど、二人のテンションがぜんぜん違うからちゃんと合わせろ、とか。だいぶしごかれながらやったのでビクビクしてました(笑)。
──英語を習得して自分で唄うようになると、リスナーだった頃と違った捉え方ができる曲もあるんでしょうね。
AKIRA:ありますね。今回のアルバムのなかで私がいちばん好きなのは、スモール・フェイセスの「My Mind's Eye」なんですよ。このアルバムを出す前にライブ会場限定で「The End of the World」と「Because」を入れたシングルをリリースしたんですけど、ホントは「Because」ではなく「My Mind's Eye」にしたかったくらいなんです。今回のアルバムでも「My Mind's Eye」が霞まないような曲順にしたかったので真ん中に置いたんですけど、とにかく歌詞がすごくいいんですよ。「周りの人たちが『お前は変わったな』と言うけど、彼らには自分の心の瞳に映るものは見えやしない」みたいな歌詞なんですけどね。マインド=心のなかに瞳があるって発想は日本人っぽい気がするんです。
──言われてみればたしかに。欧米の人は心よりも脳に重きを置きそうですし。実際に唄ってみて好きになった曲はありますか。
AKIRA:キンクスの「Till the End of the Day」ですかね。キンクス自体はもちろん好きでしたけど、歌がちょっとひねくれてて暗いよなぁって思ってて(笑)。歌詞も言いたいことを詰め込みすぎて唄いにくいんですよ。レコーディングでも唄いづらくて難しかったんですけど、ライブでもダンサブルな見せ場の曲になってきたし、今はすごく好きになりましたね。