Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュークマシノとロフトプラスワン(Rooftop2017年10月号)

映画『パーフェクト・レボリューション』のモデルであり、常人をしのぐエネルギーで幾多のハードルを越え続ける熊篠慶彦の人間性を紐解く!

2017.10.01

『たった5センチのハードル』出版記念トークライブ

 ここで一旦、熊篠とロフトプラスワンの巡り会わせを記しておきたい。

 過去のスケジュールを調べると、2001年7月12日のトークライブは衝撃的なタイトルと著名な出演者によって告知されていた。

 

 『たった5センチのハードル』出版記念

 「誰も語らなかった身体障害者のセックス」

 生きているからには、恋愛したいし、セックスだって楽しみたい!

 【出演】熊篠慶彦(著者)、宮台真司(社会学者)、酒井あゆみ(作家)

 

 正直、私は2001年の時点で熊篠やその著作本の存在についてまったく認識していなかったどころか、このトークライブに関しても、そんなイベントがあったのかすら覚えていなかった。

 その前後に開催されている、7月9日の『プラスワン6周年祭!』と、13日に開催された『どーする! どーなる? 参議院選 〜突破者・宮崎学、当選せよ〜』は、確実に店にいた記憶がある。

 ここで悔しむべきは、当時からそのフィールドワークや著作のファンであり、さまざまな場面で交流を重ねていた宮台真司と酒井あゆみが出演していたことだった。この二人が身体障害者のセックスというテーマについて、個別の問題意識からタブーにふれるであろうことは容易に予想できるだけに、当時の私ならば決して見逃すはずもなかっただろう。

 にも関わらず、月間スケジュールを確認した時点で明らかに見落としてしまっていた。

 

 この2001年の夏は、平野からの依頼もあってさまざまな抗議デモのドキュメンタリー映像を手探りで撮り始めた年でもあり、その完成作の上映が『プラスワン6周年祭!』に組み込まれていたり、新宿駅東口で宮崎学候補の大々的な選挙演説会を平野がプロデュースすることになり、その手伝いに追われていたこともあって、完全に意識がそちら側へと傾いていたことを、今になって改めて思い知らされたのだった。

 

 「最初の出演が2001年の夏。その次が2002年の4月、映画『ナショナルセブン』の公開記念イベントかな」

 ──この日は忘れもしませんよ。当初、僕の監督作の上映日だったんだよね。まず、友人のKさんから突然、24日を『ナショナルセブン』の公開記念トークに差し替えてもらえませんかって言われたんだ。で、ちょっと待ってくださいよと、もうゲストにも声をかけちゃってるし無理ですよって突っぱねたんだ。

 「何それ? そうだったの」

 ──でも、そこをどうしてもって食い下がるんで、せめて出演者と直接会って話さないと納得できませんよと告げたところ、出演する身体障害者とヘルパーさんの都合もあって、当日じゃないと店に来られないって。

 「僕だって、ゲストで頼まれて…」

 ──たぶん、Kさんたちがそういう流れにしたんでしょ。障害者の都合と言えば、日程を譲ると最初から考えていたんだろうな。結局、こちらが折れて上映日を変更した後、改めてKさんから熊篠を紹介してもらったんだよね。

 「そうだったね。でも、当時の交渉事は、すべて著作の担当編集や友人にお任せだったんで」

 ──自身のトークライブ企画をレギュラー化させる以前は、いろいろなトークライブにゲスト出演してたよね。それはどちらかと言うと、僕なんかでいいんですかっていうスタンスだったの? それとも、自ら売り込んで出演させてほしいと…。

 「自らは一度もないと思う、自分の記憶が確かなら」

 

ロフトオーナー・平野悠との出会い

 ワゴン車は東京湾アクアラインを抜けて木更津市内へと入っていった。

 ロフトプラスワンでの出会いを振り返り、さまざまな思い出話で盛り上がりつつも閑話休題となったので、改めて映画『パーフェクト・レボリューション』の南房総ロケに関する何枚かの資料を入念にチェックした。

 「松本組予定表 3月10日木曜日」と表記された、映画関係者のあいだでは香盤表と呼ばれる日々の撮影スケジュール表に目を通した。撮影予定時間と撮影場所、脚本のシーンナンバーや指定事項、撮影する場面、内容、脚本の分量、そして登場人物の役名と配役された演技者名等の情報が詳細に記載されていた。また、別紙の南房総ロケのしおりや、色分けされた周辺地図にも細かく視線を走らせておいた。

 この日、私たちは13時30分から撮影を予定している、シーン48の南房総・千倉白間津でのロケーション撮影に合流させていただく段取りを、制作側に組んでもらっていたのだった。

 

 ──引き続き当時のことを聞かせてくれるかな。

 「気になるテーマはいっぱいあったんで、当時は毎月のように通ってましたね。右翼系からエロイベントまで、手当たり次第に」

 ──ロフトプラスワンは、各プロデューサーの担当制で月間スケジュールを組んでいたので、鈴木邦男さんや木村三浩さんたちが主催する言論系のトークは仲の良い梅造さんの担当。梅造さんから引き継いだ石井一昌さんや高須基仁さんは僕の担当だったから、熊篠とも店で頻繁に会うようになったよね。

 「やっぱりさ、当時はタブーなき言論空間って言われていただけあって、過激だったよね」

 ──言論系のトークライブで襲撃予告や乱闘があった翌日でも、高須さんのSMイベントや、ストリッパーの女体盛りショーなんかを何事もなかったかのようにやってたから、混沌としていたよな。その手のイベントを企画すると、熊篠は必ず店に来てたもんな。

 「僕は最前列の車椅子専用席なんで、いつもかぶりつきで見させてもらいましたよ」

 ──梅造さんが革新的なスローライフ企画を商売抜きでブッキングして、僕は儲けの少ないインディーズ映画の上映なんかを企画していたんで、商売的にもおいしいエロ系イベントは絶対にスケジュールから外せなかったんだよね。ところで、平野さんとの出会いはいつ頃だったのかな?

 「確か2002年の年末だったと思う。月刊『創』のトークライブで、宮台さんと鈴木邦男さんが出演者で。もうとにかく、店に入ったらお客さんがいっぱいで、無理やりエレベーターの正面通路まで小さな丸椅子を並べて。入口もふさがってて入れないから、店員さんに『この辺でいいです』って言って」

 ──冬は寒いんだよな、あそこの場所は。

 「それでエレベーターの前にいたら、突然現れた平野さんから声をかけられて。そんなところにいたんじゃトークが聞けないからって、控室になってる事務所に入ってこいって言われて。でも、電動車椅子は狭くて入れなかったんで、車椅子は置いたままで控室のソファーに座らせてもらって、そこのテレビモニターでトークを聞いていた。でも、途中でなんだか車椅子が気になったんで店員さんに聞いてみたところ、エレベーター前のお客さんから声しか聞こえないって苦情があったんで、車椅子の上に小さなブラウン管のテレビを置いちゃったみたいで。終演までは動かせませんとか言われちゃって」

 ──本当に電動車椅子の上にブラウン管のモニターを置いていたの? 入口の通路にモニターを置いてまで、客からオーダーを取ろうとする商売人根性がすごいよね。障害者に優しいロフトプラスワンというふうに見せかけておきながらも、電動車椅子をテレビ台に使ってしまうなんて本当にしたたかだよね。

 「そうそう、その時に『おまえが熊篠なのか』って感じで言われたんだよ」

 ──以前から、平野さんには熊篠という男が店によく来ていて、何だか発想が変わってるんですよとは話していたんだ。でも、最初はあまり興味がなかったみたいで、よくそんな車椅子で歌舞伎町まで来るよなって感じだったんだよ。でも、平野さんと一緒に控室に入ったんなら、いろいろと話ができたんじゃないのか。

 「いや、それが挨拶だけしたらすぐに出ていっちゃった。でも、一部の時は出番待ちの宮台さんと話せて良かったんだけど、二部の出番待ちの人が上祐史浩さんでさぁ…」

 ──目の前に上祐さんがいた? まだ、2002年のことなんだよね。

 「目の前に、はっきりとあの上祐さんがいる。事務所の控室に二人っきりで」

 ──お付きの人はいなかった?

 「もう上祐さんの強烈な印象しかないんで、隣に誰かもう一人…。でも、隣にいた男性がいなくなると上祐さんと二人っきり、もう会話なんて何もないよ。向こうも話しかけてこないんで、こじんまりと座ってた。それに控室って、モニターがあって音声も聞こえてくるから、そんな中じゃ話しかけられないよ」

 

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たった5センチのハードル 1969-2017

熊篠慶彦 著
四六判 / 並製 / 248ページ
本体1,600円+税
2017年10月13日(金)発売
発行・販売 ロフトブックス

身体に障害があってもセックスや恋愛を楽しみたい!!
脳性麻痺を抱えながら身体障害者の「性」と「生」への支援活動を続け、リリー・フランキー主演映画『パーフェクト・レボリューション』の企画原案もつとめた熊篠慶彦の常識を覆すライフストーリーが新章を加えて堂々の復刊!

映画『パーフェクト・レボリューション』

出演:リリー・フランキー 清野菜名 小池栄子 岡山天音 / 余 貴美子 ほか
監督・脚本:松本准平 企画・原案:熊篠慶彦
TOHOシネマズ新宿ほか全国劇場にて絶賛公開中
©2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

自身も脳性マヒを抱え、障がい者の性への理解を訴え続ける活動家・熊篠慶彦の実話に基づく物語を、リリー・フランキー主演で映画化。
幼少期に脳性マヒを患い、重度の身体障がいがあるクマ。自身もセックスが大好きなクマは、障がい者にとっての性への理解を訴えるための活動を、車椅子生活を送りながら続けていた。
そんなある日、クマは人格障がいを抱えた風俗嬢のミツと出会う。恋に落ちた2人は、幸せになるために究極の愛に挑んでいく。
主人公のクマ役をリリー、ミツ役を『TOKYO TRIBE』の清野菜名が演じ、小池栄子、岡山天音、余貴美子らが脇を固める。
監督は柳楽優弥主演の『最後の命』などを手がけた松本准平。

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