作業はバラバラでも安心して任せられる強み
──青さんの曲は毎回そういう短期集中型なんですか。
桜井:いつもはみんなの足を引っ張ってばかりなんですけど、今回は辛うじて僕のほうが早かったです。僕はなかなか思うように歌詞を書けないんですよ。石井さんも歌詞がないと唄えないじゃないですか。研次郎くんは曲を渡すと次の日にはベースが返ってくるんですけど、歌は僕が歌詞を書かないとどうしようもないですから。でも今回は比較的スムーズでしたね。…いや、最後の最後で抜かされたかな(笑)。「深夜、貨物ヤード裏の埠頭からコンビナートを眺めていた」の歌詞が書けなくて、マスタリングの2日前まで粘りました。アルバムの最後に入れる曲の歌詞は一番最後に書くことが多いんですよ。アルバム全体をまとめるような歌詞を書けないかなと思うので。まぁ、全然まとまってませんけど(笑)。
──「深夜、貨物ヤード裏の埠頭からコンビナートを眺めていた」も、川崎の埠頭の音が入った「0’13″ III」が効果的な役割を果たしていますね。
桜井:ちゃんと音を録りに行きましたよ。その証拠が狂信盤のBlu-rayに収められてますので。夜中にバイクで工場とかコンテナ埠頭へ行くのが好きなんです。イヤなことがあると気分転換で深夜に高速を走りたくなるんですよ。そういう時によく行くのが工場や火力発電所のある川崎の千鳥町なんですよね。
──「深夜、貨物ヤード裏の埠頭からコンビナートを眺めていた」は火を吹くようなギター・ソロが聴き所の一つですね。激情を叩きつけるような荒々しさだけど、何とも言えない余韻もあって。
桜井:単に音が激しいだけじゃないですかね。
石井:いや、あのギター・ソロは今回のアルバムの中で一番格好いいと思う。音もすごくいいし、アルバムの最後であの一箇所に全部を持っていかれる感じがある。…なんて言うと他人事みたいだけど(笑)。
村井:まぁ、実際に青さんが録ってるところを見てないですからね。
桜井:そこは僕が独りで編集したBlu-rayで確認してください。
村井:そのBlu-rayも僕らは見てないんですけど(笑)。
──そういうレコーディングのオフショットが収録される狂信盤のBlu-rayも楽しみですが、今回のレコーディングは特に滞ることもなく進んだんですか。
村井:どうなんだろう。なんせあまり会ってないですからね(笑)。
桜井:ドラムのいない時は必ず研次郎くんがスタジオにいるんですけど、僕がその段階からいても意味がないので。自分の曲の時はなるべく早く行くことにしてるんですけどね。それに僕は「あとやっといて」って言って別の場所で違う曲を作り始めたりしてたんで、作業はほぼバラバラだったんです。でもそうやって安心して任せられる、自分の作業に没頭できるのはいまのcali≠gariの強みなんですよね。
村井:レコーディング中のトピックを一つ挙げるとすれば、今回は新しいエンジニアさんに参加してもらったことですね。白石(元久)さんといういつもお世話になっている方と、上田(健一郎)さんという「魂のルフラン」とかを手がけた方の2人に参加してもらって。
桜井:上田さんはPlastic TreeとかD'ERLANGERとかも手がけられてる方なんですよ。ミックスもすごく良くて、基本的に何も言うことがなかったですね。僕は以前、ラボ(LAB. THE BASEMENT)でミックスをお願いしたことがあったのを思い出したんですけど。
村井:短時間の作業で音も綺麗に分離してて、すごいなと思いました。今回、上田さんとの出会いは大きかったですね。
──先ほど青さんが歌詞に煮詰まるという話が出ましたが、石井さんはどんな感じなんですか。
石井:時間はかかりますけど、すごく悩むこともないですね。青さんは一曲ごとにテーマがあったりしますけど、俺の場合、特に何を書こうって感じでもないので。その時々で思ったり感じたりすることを言い回しを変えて歌詞にしてるだけなんで、唄ってることはいつも同じと言えば同じなんです。
──でも、まるで英詞に聴こえる「トカゲのロミオ」の歌詞とか作風はユニークですよね。
石井:自分の中で歌詞の作り方が何パターンかあるんですよ。「最近、これやってないな」とか困った時に出てくるのが英詞のパターンなんです(笑)。最初に全部英詞で書いて、それを強引に日本語で当てはめてみるんですよ。
『第7実験室』との関連性を持たせた「トイレでGO!」
──「ゼロサムゲーム」で「正負」と書いて「政府」を連想させる青さんの言葉遊びも面白いですね。「ゼロサムゲーム」の前の「0’13″ I」には国会議事堂での政治家の怒号が入っていますが、いまの国家の中枢に対する憤りみたいなものが込められているんでしょうか。
桜井:政治的なことにはあまり言及しないようにしてるんですけど、それにしたって最近はちょっと目に余るよね、って言うか。レコーディングしてたのがちょうど森友学園問題の真っ最中で、いまそんなことを議論してる場合じゃないでしょ!? って思ったんです。「ゼロサムゲーム」というのは得点と失点の総和がゼロになるゲームのことですよね。片方が+10点なら、もう片方は−10点になる。その有り様がいまの政治みたいだなと思って。与党が上がれば野党も負けじと上がっていくはずなのに、どんどん下がっていく一方じゃないですか。そんな日本の現状を軽いタッチで曲にしてみたんです。
──「汚れた夜 ─暗夜行路篇─」はジャジーな音色とジャングルっぽいビートの組み合わせがユニークですね。
桜井:最初にあった音のイメージは配信シングルのほうではなく、このアルバムに入れたバージョンだったんですよ。シングルとアルバムで全然違う仕上がりにしたほうがいいと思ったので、シングルは僕でもアレンジができる感じにして、アルバムはギターを最小限にとどめてティンパニとかパーカッションで押し切る感じにしたんです。
──サスペンスドラマ仕立てのMVも話題の「トイレでGO!」は、戸川純とヤプーズの「電車でGO」を意識した部分もありますか。
桜井:いや、意識したとすればゲームのほうですね、タイトルで。cali≠gariは戸川純さんとかナゴムの影響下にあるんじゃないかとよく言われるんですけど、かじったくらいしか通ってないんですよ、実は(苦笑)。ミーハーなんで『ヤプーズ計画』しか持ってないし、ナゴムは何も持ってない(笑)。「バーバラ・セクサロイド」と「ロリータ108号」とかはカラオケでよく唄いますよ。
──MVまで作ったわけですから、「トイレでGO!」は本作のリード・チューンという位置づけなんですよね?
桜井:今年がメジャー・デビュー15周年なのもあったんですよ。15年前に出した『第7実験室』のジャケットが便器をあしらったものだったので、今回のアルバムではトイレをテーマにした曲を書いてみたかったんです。僕がトイレの曲を書くって言うと、野外のトイレで男性同士がいかがわしいことをする曲になると思われると思うんですよ。ウチのお客さんは僕からホモの英才教育を受けてますからね(笑)。そう思わせといて実は違うぞ、っていうのをやりたかったんです。
石井:でも、よくトイレをテーマに曲が書けたよね(笑)。
桜井:ヴィジュアル系のバンドの曲で「トイレでGO!」なんてタイトルはまずあり得ないだろうと思ったので、エイプリルフールに今回のアルバムのニセの曲名を発表したんですよ。でも「トイレでGO!」だけは本当のタイトルで、お客さんに「さすがにこのタイトルはないでしょ!?」って思わせるミスリードな遊びをしてみたんです。ニセの曲名を考えるのは楽しかったですね。
──ヴィジュアル系のバンドの曲に「ホームセンター」、「パイプの詰まり」、「ガスコンロ」という言葉はなかなか出てきませんよね(笑)。
桜井:メジャーデビュー・シングルの「マグロ」との関連性もあるんです。「マグロ」は線路に飛び散ったバラバラ死体のことを唄った曲で、ショッキングな出来事を小馬鹿にしたように書く作風がcali≠gariにはあったと思うんです。
──よく読み解くと凄まじくグロテスクな歌詞だという。
桜井:そういう歌詞を近年は全く書いてなかったし、書く必要もなかったし、復活してからのcali≠gariにはそういう要素がなくてもいいと思ってるんですけど、せっかくの15周年だから久々にやってみてもいいかなと思って。この15年の間に八王子のホスト殺人事件とか北九州の監禁殺人事件とかいろんな事件が起こったし、タイムリーだったのが埼玉の愛犬家連続殺人事件の死刑囚がこのあいだ獄中死したじゃないですか。これは絶対にそういう曲を書けという暗示だなと思って、その手の本を読み直して「トイレでGO!」を書き上げたんです。コミカルな曲調にすることも忘れずにね。
──そこはcali≠gariとして大切なバランスですよね。
桜井:そうなんです。あと、「あぶくたった にえたった/にえたか どうだか」というわらべ歌の引用もコミカルに聴こえますけど、歌詞をよく調べるとすごく怖かったりしますからね。
──実は食人の歌だという都市伝説がありますよね。MVを見ればそういったニュアンスも汲み取れると思いますけど。
桜井:撮影してくれたカメラマンの小松(陽祐)さんも僕も実相寺昭雄さんが好きで、MVは思いきり実相寺さんみたいな感じになりましたね。最初は野村芳太郎さんの『鬼畜』とか『震える舌』みたいなテイストを狙いたかったんですけど、結局は実相寺さんの『怪奇大作戦』みたいな仕上がりになりました。すごくいいMVになったと思いますよ。石井さんと研次郎くんの出番も少なくて済んだし(笑)。