シングル『第7実験室予告版〜マグロ〜』でメジャー・デビューを果たしてから今年で15周年を迎えるcali≠gariの最新作『13』は西洋における忌み数をタイトルにしたバンド史上最も意味(忌み)深かつダークな作品集であり、カニバリズムやネクロフィリアといったグロテスクなテーマをポップで明るい楽曲として表現するかつての作風が戻ってきた部分もある。だが確実に従来よりも新しく、着実に伸びしろを広げていることが珠玉の収録曲の数々から感じ取れるはずだ。どれだけ控えめに言っても第8期cali≠gariの現時点での最高傑作であるこの禁忌塔...もとい金字塔的作品集はいかにして産み落とされたのか。石井秀仁(vo)、桜井青(g, vo)、村井研次郎(b)の3人に話を訊いた。[interview:河西香織(新宿LOFT)+椎名宗之(Rooftop)]
曲作りのやり取りは顔も合わせずLINEで
──2003年に発表された『8』以降、フル・アルバムのタイトルには毎回数字が使われていますが、今回は『13』という忌み数が作品全体のテーマなんでしょうか。
桜井:基本的にいつもコンセプトを持たずにアルバムを作っているんですけど、今回はせっかく忌み数をタイトルにできるからそれに準じたものにしようと思ったんです。歌詞もちょっとネガティヴと言うか、前向きじゃない感じにしたくて。
──ただ、サウンド的には決してダーク一辺倒じゃないですよね。「cali≠gari史上最も忌み深かつダークな作品集」と謳われてはいるものの、「トカゲのロミオ」のようにポップでキャッチーな曲や「三文情事エキストラ」のようにジャジーで洗練された雰囲気のある曲もあるし、音楽性の幅広さ、多彩さが際立っていますし。
桜井:cali≠gariは結局そうなっちゃうんですよ。制作に入る前はゴスやポジパン、ハードコアな感じで全部を固めたいとか理想はあるんですけど、結果的にはどうしてもバラエティに富んだものになってしまうんです。
──理想よりも、いろんなタイプの曲を聴かせたいというサービス精神が勝ってしまうと?
桜井:なんせリハに入らないバンドですからね。結成してからプリプロというものを一回しかやったことがないんです。メンバー間で「こういう曲を作りました」ってLINEでやり取りをして、それをダウンロードしてギターやベースを入れてみたりするだけ。会話らしい会話をすることもない。「いや、ちょっとこの感じはcali≠gariじゃないでしょう」ってことにでもなれば会話もするんでしょうけど、デモの段階ですでにOKラインを超えているので。
──「0’13″」と題された効果音が冒頭と中盤と終盤に3曲挟み込まれているのがアルバム全体のフックになっていますね。
桜井:先にお断りしておきますけど、全部で13曲にするためにあの3曲の効果音を入れたわけじゃないんですよ。曲は他にもあったし、研次郎くんは「もっと入れたほうがいいんじゃない?」と言ってたくらいなんです。でも、どうしてもジョン・ケージの「4分33秒」みたいなことをやりたかったんですよ。「4分33秒」はその場の空間の無音がテーマでしたけど、「0’13″」はその次の曲につながる音を13秒切り取ってみたんです。
──「0’13″ II」に記してある住所を検索したら、モウリアートワークスというスタジオが引っかかったんですが。
桜井:研次郎くんの紹介で今回使わせてもらったスタジオですね。三本の矢の逸話で知られる毛利元就のご子孫がそのスタジオを経営されているんですよ。
村井:僕は誰に紹介されたんだろう?
石井:マニピュレーターの池田さんでしょ? 7年前に新宿ロフトでGOATBEDと池田さんがやってたTHE SODOM PROJECTの2マンをやって、それが縁でcali≠gariのマニピュレーターをやってくれることになったんです。その池田さんがモウリスタジオにいらっしゃったんですね。だからロフトつながりなんですよ。
──そうでしたか。デモの段階ですでにOKラインを超えているということは、完成に至るまでに大きく変わることはないんですか。
桜井:いや、完成形とデモは全くの別物ですね。今回のアルバムに入ってる曲の原曲を聴いたら「嘘でしょ!?」って感じになるんじゃないかな。
石井:でも、俺の曲はほぼそのままなんですよ。青さんの曲は大元を聴いてないし、構築されるまでにどんな経緯を経たのか分からない。
村井:たしかに青さんの曲の大元は分からない。
桜井:いやいや、ちゃんとLINEに上げてるから!(笑)
石井:でもさ、それでもすでに秦野(猛行)さんのキーボードが入ってたりするじゃない?
桜井:いやいやいや、入ってないのも全然あるよ!
村井:でも、元の元がどのバージョンのことを言ってるのか分からないよね。
桜井:それはあるね。思いつきで部分的に変えてLINEに上げ直すことがよくあるから。最終的な尺が決まったものがあれば研次郎くんは全然問題ないから、乱暴な言い方をすればそれまでの過程のものを聴かなくてもOKなんですよ(笑)。
石井:ただ、送られてくるデモがいくつもあるから、勘違いして別の曲にダビングしてしまう可能性もけっこうあるんだよね。
桜井:そうそう。「落花枝に帰らず破鏡再び照らさず」は、池田さんの手違いで僕が全然違う曲にダビングしてしまいそうになった。
村井:あまり早くダビングしても後でバージョンが変わるかもしれないし、遅くダビングして締め切りに間に合わなくなるのも困るし、どの段階でベースを弾くのがいいのか分からないところはありますね。
桜井:ベースを入れた次の日にギターが入ったり、それから間髪入れずにサックスだの何だのが入ったりする急激な作り方なんです。1月から3月いっぱいがレコーディング期間だとしたら、本腰を入れて制作に打ち込むのは3月15日から3月31日までだったりするんですよ。
──夏休みの宿題みたいですね(笑)。
桜井:ホントにそんな感じです。ドラムだけは2月の空いてる時間で中西(祐二)くんに録ってもらったりするんですけどね。あとで全然違うリズムになった時の保険として、組み合わせ可能なパーツもあらかじめ録っておいて。