直接的な表現を避けて本質を描く手法
──MVには殺傷行為を描写した直接的なシーンがないにも関わらず、そうした行為を想起させる作りが見事ですね。
桜井:血や内臓、バラバラ死体の画を出すと負けな気がしたんです。直接的な要素を何も出さずに背筋が凍る感じにしたかった。行間を読んで欲しかったと言うか。『エクソシスト3』の中で夜勤の看護師が背後から殺人鬼に襲われるロングショットがあるんですけど、直接首を斬るシーンはないんです。でもその後にいきなり首のない石像が出てきて、それで看護師が首を斬られたことが分かる。間接的な表現だけどすごくショッキングなんです。それに近いことを自分でもやりたかったんですね。
──石井さんが手がけた「落花枝に帰らず破鏡再び照らさず」も映像喚起力が高いと言うか、流麗なアレンジと耽美な歌によって咲き誇った花びらの宙を舞う画が浮かびますね。
石井:曲のイメージはまさにそんな感じです。舞うとか散るとかね。
桜井:だけど珍しい詞だよね。石井さんが「愛」という言葉を使ってるのにびっくりした。
石井:たやすくね。たやすく言い放つ方向に変わったんですよ(笑)。昔は愛だの夢だの唄うつもりは全然なかったし、歌詞がそこまで到達することもなかったんだけど、いまはそんな薄っぺらいことはいくらでも唄ってやるって感じに変わってきたんです。わざとらしく愛と夢を安売りするみたいな(笑)。愛と夢という言葉を使っていかに愛と夢じゃない歌詞を書くかがポイントなんです。そういう言葉が表面的に出てくるだけで、別にそのこと自体を唄ってるわけじゃないんですよ。
桜井:愛を歌詞にするのは難しいよね。これは決してディスってるわけじゃないんですけど、どの曲も愛がテーマみたいなバンドさんってロフトにも出てるじゃないですか。よくそこまで書けるなって感心するんですよ。僕には絶対書けないことなんで。
──愛をテーマにした曲をうかつに書けないというのは、それだけ自身の歌詞に対して責任を持っているからなのでは?
桜井:責任と言うか、自分にはリアリティがないんです。
村井:でも、cali≠gariって歌詞がちゃんとしてていいなと思いますよ。新作を出すたびにそう思います。だって、あまりに歌詞がサムいバンドはやれないじゃないですか。愛だの恋だのを唄うバンドでベースは弾けませんから(笑)。「君を抱きしめたい」とか唄うバンドをやったことは人生で一度もないですし。いや、ディスってるわけじゃないですよ?(笑) ただどういう顔をして弾いたらいいのか分からないだけなんです。
石井:弾くだけならまだいいよ。俺なんてどういう顔をして唄えばいいのか分からないからね(笑)。
村井:要するに、ラブソングよりも「トイレでGO!」とかを弾いてるほうがやりやすいってことですね。
石井:それも弾くだけでしょ? 「トイレでGO!」みたいな曲を唄うのもなかなかキツいよ(笑)。まぁ、長年やってると慣れてくる部分もあるんですけどね。「トイレでGO!」ってタイトルをいきなり見せられても全然ウェルカムなので。
桜井:15年前の話ですけど、「マグロ」を書き上げた時に石井さんが「まさかこの『まわる、まぐろ。』なんて歌を俺が唄わせられることはないよね?」みたいなことを言ってたのをよく覚えてるんです(笑)。でも実際に唄うことになって、そこで一つ飛び越えたものがあったんじゃないかと思うんですよ。
石井:cali≠gariで青さんの歌詞を唄うようになってから、格好良さの基準や価値観が大きく変わりましたよね。いまは「これ、どうなの?」みたいな歌詞を平気な顔してサラッと唄えるのが一番格好いいと思ってますから。
──その一方で「色悪」のように叙情性のある歌詞とのバランスがいいんじゃないですかね。
桜井:もし「色悪」を作り直せることがあれば、僕はシンセを外したいんですよ。ちょっと90年代っぽいサウンドみたいな気がして。
石井:そう? 俺は自分のアプローチとは全然違う味つけが面白いと思ったけど。
──あのシンセの音色が耽美で幻想的な匂いを醸し出しているんじゃないかと思いますが。
桜井:ああ、なるほど。
石井:いままでの作品はシンセの音がすごく入ってたんですけど、今回はほとんど入ってないんですよ。それがこの『13』のポイントなのかもしれない。『第7実験室』も岩瀬(聡志)さんが参加してかなりシンセが入ってましたから。俺がcali≠gariに入ってから一番少ないかもね。
桜井:そうだと思う。ただそれでも違和感がないのは、シンセの代わりに秦野さんのキーボードやYUKARIEさんのサックス、パーカッションとかが入ってるからだよね。
村井:生ピアノを入れた曲が4曲もありますからね。そういうのも新しい。
桜井:そうそう。バンド・サウンド以外にいろんな音が入ってるから違和感を感じないんじゃないかな。ただ、前作までとはサウンド面が明らかに違うんですよ。
村井:エンジニアも新しい人に参加してもらったし、その違いに気づいてくれたら嬉しいですね。
桜井:あと、今回のアルバムはトータル時間が40分もなくて、46分テープのA面とB面に収まるような作りをしてるんです。真ん中の「0’13″ II」からB面が始まるイメージなんですね。そういったこともちょっと気にして聴いていただければと思います。
満を持して依頼した魔夜峰央によるジャケット
──メジャー・デビューから15年経って、四六時中顔を突き合わせなくてもこれだけ充実した作品を生み出せるのはなぜだと思いますか。
村井:15年前と一番違うのはネット環境ですよね。いまのネット環境がcali≠gariに向いてるんじゃないですか? こっちがネットに合わせてるんじゃなくて、たまたまいまのバンドの状況が時代と合ってると言うか。
──LINEでやり取りするくらいの距離感がちょうどいいんでしょうか?
村井:でも、長く続いてるバンドっていまだに合宿とかやってる人たちもいますよね。
桜井:合宿なんて…耐えられない(笑)。去年出したミニ・アルバム(『憧憬、睡蓮と向日葵』)のツアーで6日間顔を合わせたことがあったんですけど、なかなかキツかったですね(笑)。
石井:そう? そんなこと初めて聞いたけど(笑)。
桜井:だって、ライブ当日と移動日の合間がすべてインストアで埋まったりしてたし。
石井:俺は楽しかったけどねぇ。そうなんだ?
桜井:すいません、楽しかったです(笑)。でも、石井さんと研次郎くんには「去年のミニ・アルバムがポップなものだったから次はダークなものにしよう」としか事前に言ってなかったのに、これだけのアルバムを作れるのは15年以上バンドを一緒にやってきたからこそですよね。
──必要以上の対話をしなくてもcali≠gariらしい作品が出来上がるのは、cali≠gariに対する3人のイメージをちゃんと共有できているからなんでしょうか。
石井:共通して思い描いているものはあるんでしょうね。でもそれも具体的に話すことはないし、少しずつズレたところがあるのも面白いんだと思います。
村井:そのズレが意外といい結果を生むこともありますしね。曲作りのイメージも昔に比べて具体的なバンド名が出てくることもなくなったし、自分たちらしさが自然と出るようになった気がします。
──アートワークについても触れておきたいのですが、狂信盤のジャケットにはあの魔夜峰央先生が描き下ろした『アスタロト』の主人公が起用されています。これは青さんたっての希望で実現したんですか。
桜井:もともと研次郎くんが魔夜先生の娘さんと懇意にしていらっしゃっていて、7年前に武道館でライブをやった時に魔夜先生と娘さんを研次郎くんが紹介してくれたんですよ。いつか自分たちのアルバム・ジャケットを魔夜先生にお願いしたいと思って、『11』の頃からタイミングを見ていたんです。で、せっかく描いていただけるなら先生の作品の中でも僕が特に好きな『アスタロト』がいいなと。と言うのも、『アスタロト』は90年代の半ばに未完で終わっているので、ワンカットでもいいからその続きを見てみたかったんです。それに『アスタロト』は魔界を舞台にした魔王たちの権力争いを描いた作品だし、悪魔を象徴する数字である『13』にはぴったりですよね。それで去年、ダメ元でオファーしたら快諾してくださいまして、非常に嬉しかったですね。あんなにきっちりと描いてくださったので、可能であればいつかアナログ盤も出したいです。何より自分が欲しいので。
──来月3日から始まるツアー『cali≠gari △15th Caliversary “2002-2017” TOUR 13 -Hell is other people-』ですが、青さんの誕生日である6月28日には我が新宿ロフトにも出演していただけるのが楽しみです。
桜井:ありがとうございます。ロフトでは毎年バースデイ・ライブをやらせてもらってるんですけど、去年(2016年7月31日、『45 SAKURAI』)はラボで出演して惨憺たる結果だったんですよ。200人くらいしか入らなくて。
石井:200人でも充分すごいよ。でも、せっかくのバースデイ・ライブなのに俺を呼んでくれないのが寂しいよね。声をかけてくれれば出るのに。
桜井:だって、なんか仲がいいみたいでイヤじゃん?(笑) それにラボはちょっとパンク寄りのヴィジュアル系じゃないですか。仮に2人に声をかけても石井さんのGOATBEDはテクノだし、研次郎くんのCYCLEはハードロックだし、お客さんが困惑しますよ(笑)。