「働いてるのに金ないのっておかしくないですか?」
──今作はもちろんポリティカルだけどサウンドはバラエティに富んでいる。なぜハードでシリアスな表現より今作のような表現になった?
DJ TASAKA:伝わるところには、もう伝わったかなって。
AKURYO:それはありますよね。3.11の後、反原発デモがあって、TwitNoNukesのデモとか敷居を下げようってデモをデザインしていて、実際、今までデモに行ってないような人も参加していた。その後、SEALDsが出てきて凄いフレッシュなデモをデザインして、安保法制の時期ってこともあり多くの人が集まった。あと何が足りないかって思ったら、アホなノリだなと(笑)。
DJ TASAKA:そうそう。柄の悪い連中でも来られるようなね。どうも勉強してなきゃダメみたいなイメージがあるけど、そうじゃないよと。
AKURYO:下世話なのにポリティカルなことやってるの、日本ではないですしね。コレをパッケージしたら面白いんじゃないかと思ったんですよ。でさ、今の社会ってもちろん問題は山積みだけど、安保法制みたいなエポックメイキングことが前に出てきてない時期だと思うんですよ。水面下で動いてる時期。そこでね、「○○反対!」とかハードに強く言うより、ま、今作でもハードに言っちゃってる曲はありますが、もっと生活の言葉のほうがいいんじゃねえかって。
DJ TASAKA:そうそう。SEALDsの最初の渋谷街宣で、「働いてるのに金ないのっておかしくないですか?」って言葉に通りすがりの若い子が振り返った瞬間を見て、コレだよなって。そういうことを思ってるのは1%の富裕層以外の99%のはずなのに、なかなか届いていかない。届く音楽を作りたいって欲求はあった。考えたらこのアルバム、金のこと言ってるの多いね(笑)。
AKURYO:だから俺思うんですけど、このアルバムはポリティカルではあるけど、政治のことじゃないなって。生活のことだし街のことだなって。
──確かに!ラップは街のお喋りでもありますもんね。
AKURYO:そうそう。そこには金や仕事、在日や外国人のツレがいて、その中には政治ネタや「Gumizaka Death Road」(※)もあるわけですよ。(※ぐみ坂/国家前の坂道)
──生活は厳しいけど楽しいことだってあるわけだし。厳しいことも楽しくしないとやってられないってこともあるわけだし。そう思ってる多くの人に響くアルバムだと思うし。
AKURYO:気負いはないですしね。例えば今はコレをやらなきゃって意識もない。
DJ TASAKA:ないない。もしかしたら僕らがデモやカウンターに行っていて、それが日常のひとつになってたからかもしれないけど、日常だからこそ、ことさら強く訴えるんじゃなく。「こんなもんだよ」っていう。
AKURYO:「こんなもんだよ」ですよね。デモとかカウンターに行くこともそうだけど、音楽でもこのアルバム聴いて、「こんなんでいいんだ!」って(笑)。「これがポリティカルなんだ!」って、コレをきっかけに下世話なポリティカルが増えたらいい(笑)。
DJ TASAKA:作ってる最中はホント楽しくて、迷いなく超短期間でできた。
──ガッツリとユニットにしたからこその発見は多かったでしょうね。
AKURYO:俺は人と組んでやるのはスゲェ久しぶりで。このごった煮感は一人じゃ出せなかっただろうな。
DJ TASAKA:AKURYOくんがこうくるなら、そこに割り込んでやれとか。なんかね、今のテクノはコレだとかいうんじゃなく、もっと温故知新というか、それこそごった煮感。南アフリカのダンスミュージックをお互い送り合ったりしてね。
AKURYO:南アフリカにOkmalumkoolkatってラッパーがいて、そいつとかそいつの周りのシーンとか、とにかく面白くて。何コレ感満載なんですよ。二人でゲラゲラ笑いながらそれを起点に作ったのが「L.E.F.T.」。
──南国的な。
AKURYO:そうそう。言ってること下世話でね。あそこで言ってる「サ~ハ」ってのは、行きつけの呑み屋で知り合いと呑んだとき、「新聞何読んでるの?」って聞いたら「俺は左派だから朝日新聞だよ」って(笑)。左派って響きが間抜けでいいなと(笑)。あとスキットの「LEFT ASS RADIO」に「レフトサイド」って言ってるんだけど、「レッフサ~イ~ッ」って。アレは実は大阪に韻踏合組合ってのがいて、「ウエストサイド」を「関西~」ってレペゼンしてて。俺らがレフトサイドをレペゼンするなら、そのノリをパクッた(笑)。
──「L.E.F.T.」から「嘘ばっかで慇懃無礼」の流れは笑えます(笑)。5曲目の「LEFT ASS RADIO」までがA面、次の「Trash Talk」からB面って感じがしました。
DJ TASAKA:そうそう。テープっぽいよね。46分テープ。
──最後の2曲はTASAKAさんならではの華やかさと鮮やかさで。宇宙っぽい。
DJ TASAKA:ドライブっぽいよね。
──そうそう。どこかへ向かう感じ。次の場所へ向かうっていう。
DJ TASAKA:そうそう。二人でドライブに行きたかったんだけど(笑)結局行けなくて、二人で、近所の池を眺めながらいろいろ話してね(笑)。
AKURYO:曲順とかはTASAKAさんで、サスガと思いましたよ。
DJ TASAKA:AKURYOくんのリリックがもともとそうなんだけど、居る場所がわかるというか。そこは街だったりクラブだったり、窓から見た風景とかね。だから宇宙っぽくてもそれはAKURYOくんが見てるものだっていう。そういうとこ、信頼できるリリックなんですよ。
AKURYO:俺、今回作ってみて思ったんですけど、パンクやニューウェイヴもそうだったんじゃないかなって。セックスピストルズのジョン・ライドンもこういうことやってたんじゃないかなって。俺の中でパンクやニューウェイヴって、今、世界中で流行ってるトラップミュージックとそんなに変わらない感覚で聴いてるんですよ。軽くて、ちゃかぽこしたうわものにベースがボーンと鳴ってる感じ、かつてのパンクやニューウェイヴと近いんじゃないかって。そこにポリティカルなものが乗って。
DJ TASAKA:初期衝動的っていうか、遠慮のない感じだよね。おっさんがコレをやるって渋さもあるよね(笑)。本来、20代の奴がやることじゃん。
AKURYO:それ言ったら石田のおやじさんとかもっとそうでしょ。
DJ TASAKA:確かに。ECDさん、遠慮ないもんね。
──あぁ、でも今作はことさらメッセージ性を特別視することなく生活観として出ていて、それってECDさんもそうかもしれないですよね。
AKURYO:そういう意味じゃ、石田のおやじさんにやっと近づいたかなって思いますね。