社会性のある映像をあえて挿入した理由
──映画の話に戻りますが、国会前のデモや戦後70年を迎えた広島の映像が挿入されているのは、音楽が社会性と切り離せないというメッセージなんでしょうか。
川口:彼らを追ってるなかでの出来事だったし、このバンドの映画にはそういう画を入れてもいいかなと思ったんです。ポリティカルなバンドだとは思ってないけど、そういうところを通ってきたバンドだなっていう気がしたので。
渋川:そうですね。最初の頃は歌詞にそういうのがちょっとあったと思うし。「パレード」とかもそうだし。
川口:彼らも成長してるので、最新作の『グッド・バイ』ではそういう部分を飛び越えた曲を発表してますけど、社会的な側面を分かりやすく出して知ってもらうのもいいんじゃないかと思ったし、いまの時代にハマるかなと思って。僕自身、そういうメッセージを発したい気持ちもありましたしね。政治運動をしている人たちの傍らでおばさんたちが太極拳の練習をしているシーンがありますけど、僕はそこにOLEDICKFOGGYと同じものを感じたんです。何と言うか、ちょっとズレた運動を楽しそうにやってるみたいな(笑)。真剣に練習してるんだけど、どこか間抜けに見えるって言うか。そこがすごく粋だなと思ったんです。
伊藤:それはすごくいい話ですね。
川口:ホントにそう思ったんだよ。伊藤くんたちが「カンフー映画をやりたい」って言ってたのと、太極拳の練習をしてるおばさんたちの姿が僕のなかでダブったんです。
伊藤:カンフー映画をやりたい気持ちはいまもあるんですよ。
渋川:大好きだもんな、ジャッキー・チェンとか。
川口:伊藤くんの家のトイレにはジャッキー・チェンのポスターが貼ってありますからね。ジャッキー・チェンに見られながら用を足すっていう(笑)。それはともかく、デモの映像とかが入るのは、キナくさいいまの世の中なら不思議じゃないと思ったからなんですよね。そういうニュアンスを持ってるバンドなので。
渋川:伊藤はこんなんですけど、歌詞が抜群にいいですからね。すごく詩的で。俺がOLEDICKFOGGYを好きになったのも歌詞の部分が大きくて、ポリティカルなことでも隠すのが上手いんですよね。
川口:そうなんですよ。あまり持ち上げると調子に乗るから言いたくないんだけど(笑)。
──伊藤さんは褒められて伸びるタイプですか。
伊藤:そうですね。だから撮影の時に「お前、何やってんだよ!」とか言われたら、すごくやる気をなくすと思うんです。「じゃあいいよ」とか思っちゃうんで。「すごくいい。全然問題ないよ」って言われたら、「もうちょっとやっていいっすか?」ってなるタイプなんですよ。
──怒髪天の増子直純さんとSAのNAOKIさんが出てくるシーンで、伊藤さんが「武道館でライブをやるのってホントにいいですか?」って訊くじゃないですか。それに対する2人の返答を聞いた時の伊藤さんのこわばった表情がすごくいいなと思ったんです。「いまに見てろよ」みたいな感じが言葉に出さずとも伝わってきて。
伊藤:役者にとっては一番の褒め言葉ですね。表情ですべてを語るっていう。
川口:僕もすごくいい顔をしてると思ったから使ったんです。そういう表情をしてくれと自分から指示を出したわけじゃないんですけど、あの武道館ネタは急にあの場で思いついたんですよ。カメラが向いた瞬間を伊藤くんが本能的にキャッチして、その時にすごくいい顔をしてたんですよね。KEEくんとのやり取りも、決して馴れ合いじゃないのが良かった。
伊藤:真面目に演技しただけですよ。運転もしなきゃいけないし。KEEくんがゲストの最後のほうはだいぶ運転に慣れたけど、最初のほうの(仲野)茂さんの時とかはスネがつりそうでヤバかった。ブレーキ・ランプをパチパチやらないといけなかったから。
川口:茂さんは茂さんで、「この辺で止めらんないの?」とか言うしね(笑)。
伊藤:「早くここで止めてよ」って言われても、渋滞で止められなかったんですよ。
──ゲストの人選は川口監督と伊藤さんで決めたんですか。
川口:広中さんを入れて3人で決めました。バランスを考えて、役者はやっぱりKEEくんにお願いしたいとか考えながら。奇跡的に全員のスケジュールが一発OKだったんですよ。
伊藤:ちゃんとした本物の役者が一人いないとダメだと思ったんです。
川口:KEEくんがいるといないじゃ全然違って、もしいなければ単なる役者ごっこで終わってたんじゃないかな。
伊藤:我ながらいい人選だったと思いますよ。これがBATTLE OF NINJAMANZの柳家(睦)さんとか雷矢のヤスオくんだったら、もっとムチャクチャになってたと思うし(笑)。
渋川:でも、現場に入ったら意外と真面目にやると思うよ。睦さんもヤスオさんも真面目だから。
川口:まぁ、NAOKIさんと増子さんは全然セリフを覚えてくれなかったですけどね(笑)。だからセリフと口の動きが合ってるシーンがほぼないんですよ。