カントリーやブルーグラスを基盤としたラスティック・ストンプとエモーショナルな歌で絶大な支持を集めてきたOLEDICKFOGGYのドキュメンタリー映画、『オールディックフォギー / 歯車にまどわされて』が8月11日(木・祝)より全国で順次公開される。彼らの日常生活や楽曲制作の現場、熱狂のライブ・パフォーマンスをフィルムに収めたのは、最新MV「シラフのうちに」の監督も務めた川口 潤。フィクションとノンフィクションをあえてぶつけ合うことでOLEDICKFOGGYの実像を浮かび上がらせる手法は実に見事で、ドキュメンタリーの枠組みには到底収まりきらない規格外のドキュメンタリー映画と言えるだろう。酒とバンドを愛するすべての人たちに捧げた大いなるボンクラ讃歌である本作をめぐって、OLEDICKFOGGYの伊藤雄和(Vo, Mandolin)、川口監督、映画にも出演している俳優の渋川清彦にたっぷりと語り合ってもらった。(interview:椎名宗之)
普通のドキュメンタリーにはしたくなかった
──OLEDICKFOGGYの映画を撮ると聞いて、伊藤さんは最初にどう思ったんですか。
伊藤:やった! とは思ったけど、どうせドキュメンタリーだろうなと思ったからちょっと面倒くせぇな、って(笑)。ずっと密着されるわけだから。
渋川:お前、密着されたいくせに。
伊藤:されたいんだけど、ホントの良さは絶対に伝わんないだろうなと思って。表に出せないことがいっぱいあるから(笑)。
渋川:川口さんがやりたいことの半分くらいしか出せないよな(笑)。
──ずっとカメラに追いかけ回されるのは勘弁だったと?
伊藤:最初はそうだったけど、始まってからはそういう感じは全然なかったですね。
川口:僕も全然面識がない状態でドキュメンタリー映画を撮るのは初めての経験だったんですけど、そういう出会いをイントロで軽く語っているのも演出的に面白いかなと思ったんです。最初はよく知らない間柄なのに、いきなり歯医者まで連れて行かれてるバカバカしさもアリかなと。
──全編、川口監督ならではの付きすぎず離れすぎずの絶妙な距離感が心地よくて、だからこそバンドもカメラの前で自然体でいられたんじゃないですかね。
伊藤:うん、そうだったんじゃないですか。
渋川:いい監督とかいいカメラマンとか、写真でもそうなんですけど、気配を消せるんですよね。こっちも、近くにいても意識しないでいられるんです。
伊藤:あと、川口さんは「○日に撮ろうと思うんだけど、どう? 別に無理ならいいんだけど」って言うんですよ。そう言われると、じゃあやりますよ、って気になる。
川口:え、そうなの? 全然煽ったつもりはなかったんだけど(笑)。
渋川:それは意図的じゃなかったんですね。
伊藤:「別にどっちでもいいけど」ってよく言いますよね?
川口:言ってた? 口癖なのかな。やりたくないならやらなくてもいいよ、っていう意味で言ってただけなんですけどね。
──最初は、練習スタジオ、レコーディング、ライブ、打ち上げの場と至る所に通い詰めて、まず距離を縮めるしかなかったわけですよね。
川口:バンドのことを全然知らなかったので、最初はそれしか手段がなかったんです。彼らの音楽と佇まいと資料だけで判断して「こういう企画をやろう」って枠組みをすぐに作るのは僕自身つまらないし、彼らのことをもっとよく知りたかったし、何よりも彼らのキャラクターが面白そうだった。偶然にも僕の家の近くでレコーディングしてたし、だったらカメラを担いで近づいてみようと思って。撮った素材をどう活かすのかは、最初は何も考えてなかったですね。なんとなく漠然と、普通のドキュメンタリーにしたくない気持ちはありましたけど。
──撮り始めてすぐに打ち解けられたんですか。
川口:レコーディングの初日の待ち時間にくだらない話をいっぱいしたんですけど、すごくフリーゲートな連中だなと思ったし、そこで波長が合ったのかもしれないですね。くだらない話でも一緒に面白がれる連中なんだなと思って。素行不良と言うよりも、ちょっとやんちゃな街のボンクラ不良みたいな感じが良かったですね。
──どの場面を見ても、メンバーがホントに仲がいいのを改めて感じますね。
渋川:仲はすごくいいよね。
川口:僕もこんなに仲がいいバンドは初めて会いました。
伊藤:いまでも週一で練習してて、週末はライブに行くから、週に3、4日は会ってるんですよ。
川口:気がつけば僕も撮影中は週に2、3日会ってたし、ということはメンバーもそれだけ会ってるわけですよね。すごい密度だなと思って。
──メンバーのキャラクターが明るくて飄々としているから、ツアーの収支報告や契約書のやり取りのシーンでも生々しさを感じませんね。
伊藤:ああいうのはみんな見せないっぽいけど、別に何とも思わなかったですね。見せてすごいものとも思ってなかったし、密着だったらそういう場面が映ってないのもヘンだから。
──たとえば川口監督が撮ったbloodthirsty butchersのドキュメンタリー映画『kocorono』にもメンバーが居酒屋で契約書にサインをするシーンがありましたけど、異様に生々しかったじゃないですか。それに比べるとOLEDICKFOGGYはすごく淡々としているなと思って。
川口:それは、その時代ごとのバンドが置かれた境遇の違いもあるのかもしれませんね。ブッチャーズはメジャーと契約していたし、どっかしらで一度はいい思いを経験していたと思うんです。それに比べて、OLEDICKFOGGYはまだ時代的にいい思いをしてないじゃないですか。彼らはいまゆっくりと坂道を登ってるし、時代に惑わされずに活動しているのは、いい意味で地に足が着いているように思えますね。そんな彼らをマネージャーの広中(利彦)さんが信用して面倒を見ているのもいい。ホントは、広中さんと伊藤くんの仲が悪くなったら面白いなと思ってたんですけどね(笑)。