Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューアーバンギャルド(Rooftop2015年12月)

殺すな、殺すな、言葉を殺すな──
平成二十七年のパラレルな世界、戦時下の昭和九十年が提示する現代の闇と病み

2015.12.01

遊び心に溢れたレコーディングの実験性

──浜崎さんが作曲した曲で言うと、「昭和九十年十二月」のような超大作の後に「あいこん哀歌」という愛らしい小品が連なる構成も良いバランスだなと思って。
浜崎:「昭和九十年十二月」は誰がどう聴いても大作だから、その後にみんな考えたいだろうなと思ったんですよ。「あの曲はいったい何だったんだろう?」って。だから映画で言うところのエンドロールみたいな曲が欲しくて、「あいこん哀歌」は何も考えなくてもスッと入ってくる曲をイメージして作ったんです。肩肘張って聴く曲じゃなく、流して聴いてもらえるようなものを狙ったんですね。
松永:あえてコンパクトにしたところはありますね。
──でも、エンドロールだと思ったら「ゾンビパウダー」、「平成死亡遊戯」、「オールダウトニッポン」とだいぶ濃い曲が連発されますよね(笑)。
浜崎:これで終わったと思うなよ! みたいな(笑)。
──あと、浜崎さんの曲では何と言っても1曲目の「くちびるデモクラシー」が圧倒的にポップで、クセになりますね。
浜崎:ああ、そんなにポップに聴こえますか?
──最強にポップですよ。僕らの世代だと、『昭和享年』の頃の戸川純さんを思い起こす部分もあるんですけど。
松永:はいはい、分かります。
浜崎:実を言うと、浜崎はアーバンギャルドに入るまで戸川純さんを知らなかったんです。椎名林檎さんも聴いたことがなかったし。私は浅倉大介さんが凄く好きだったんですよね。天馬も私もお互いポップなものが好きだけど、天馬はアングラでサブカルなポップなもの、私はメジャーなポップなものが好きで、タイプは真逆なんです。私はメロディがキャッチーかどうかって部分に凄く敏感で、それは十代の頃に一番聴いてた浅倉さんの影響が大きいですね。最近、自分で曲を作ってるとそれを実感します。浅倉さんの曲も一度聴いたら忘れないメロディですから。
──「くちびるデモクラシー」は「殺すな、殺すな、言葉を殺すな」という天馬さんのインパクトのある歌詞と浜崎さんのキャッチーなメロディが良い相乗効果を生んだ好例だと思うんですよね。
松永:「くちびるデモクラシー」は、シニカルにインダストリアルで軍歌をやろうと考えたんです。浜崎さんが最初にヘッドアレンジしたものを、元アーバンダンスの成田(忍)さんがゴージャスにして戻してくれたんですよ。
浜崎:『昭和九十年』というコンセプトが最初に出て、アルバムの1曲目をお願いしますと天馬に言われた時に、私としては軍歌を作りたかったんです。軍服と着物にガスマスクというヴィジュアルもイメージして、それしかないと思ったんですよ。
松永:それに、サイレンの音から始まるアルバムにしたいって話もしてたしね。
浜崎:そうそう。でもいろいろ調べてみると、サイレンの音から始まる曲ってけっこうあって。それと同じになるのはイヤだなと思ったし、それよりも「いったい何が始まるんだろう?」と思わせるような混沌とした始まり方にしたくて、成田さんといろいろ話し合ったんです。あの最初の導入部分は完全に成田さんにお任せしたんですけどね。
松永:電子音だとは思うんですけど、どうやって作ってるのかよく分からない音がけっこう入ってるんですよ。
浜崎:成田さんに「この間、よこたんが言ってた混沌とした始まり方ってさぁ…」って言われて、何かツッコミが入るのかなと思ったら、「…どうやって作るんだろうねぇ?」って言われたのはおかしかったですけどね(笑)。それでもあれだけパンチのある導入部分を作ってくださったのだから、成田さんは凄いです。
松永:「くちびるデモクラシー」に限らずですけど、今回はSE(効果音)とサウンドの間の音作りに気を留めたんです。メロダインというソフトを使ってSEを楽器化したり、逆に楽器の音をSEのように使ったりして。昭和九十年という世界を表現する上でSEが多くなるのは仕方ないんですけど、それを如何にSEのままにしないかに気を遣いましたね。
浜崎:それがSEと分かると興醒めすると言うか、それを音楽に換えないとサントラっぽくなっちゃうんですよ。
松永:たとえば僕の演説を逆回転させたらなぜかドイツ語っぽく聴こえて、ちょっと政治的なニュアンスが出たりして。そういう遊びも加えてみたんです。
──「ラブレター燃ゆ」で、爆撃音をシンセで再現していたりとか。
松永:そうですね。あと、「ラブレター燃ゆ」の大サビに入る所でマッチを擦って火がつく音が入ってるんですけど、それもSEを使えばいいものを、わざわざボーカルブースでマッチを擦ったんですよ(笑)。そしたら凄く生々しい音が録れたんですよね。
浜崎:マッチを大量に並べて、「さぁどれを使う?」なんて言ってね(笑)。「平成死亡遊戯」の頭の雑踏の音も天馬が渋谷に行って録ったんです。
おおくぼ:でも、一度録ったのは良くなかったんだよね。渋谷の街は音楽が溢れてるから、余計な音が入っちゃって。
松永:そう、なるべく雑踏だけの音が良かった。
浜崎:そのスポットを探すのが大変だったんですよ。時間帯もありますし。
松永:あと、「ゾンビパウダー」では一度作ったホーン・セクションをCD-Rに焼いて、それをスクラッチしたんですよ。
浜崎:DJおおくぼがね(笑)。
おおくぼ:(笑)今は打ち込みで何でもできちゃうんですけど、一度出来たものを壊してアナログにしちゃうって言うか。
松永:「箱男に訊け」でも一瞬出てくる0.01秒くらいの音があって、それはアーバンギャルドの他のアルバムから引っ張ってきて、爆音で一瞬だけ入れたりしたんです。全体的にはポップにしているつもりなんですけど、そういう実験と言うか、遊びは所々に入れてあるんですよ。
 
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自由に表現ができなくなる世の中がイヤなだけ

──実験性に富んだレコーディングでもあったと。「オールダウトニッポン」でも終盤にカオティックなミュージック・コンクレートの手法が取り入れられていますね。
おおくぼ:あれはとことんまで混沌とした世界を作るのが目的だったんです。ホラー映画に使われるようなもの凄く気持ち悪いサウンドが実は後ろでめちゃくちゃ鳴ってるんですよ。
浜崎:あれだけ聴いたらホントに怖いよね(笑)。
おおくぼ:うん。それを聴こえづらく加工してあるんです。で、最後の肝になるフレーズに入る前にグワーッていう爆発音が鳴ってるんですけど、あれは全部ギターの音なんです。最後のノイズはギターを5本鳴らして再現してるんですよ。
瀬々:ギターをカーン!カーン!カーン! と叩いたりして(笑)。
松永:で、昭和と平成というパラレルな世界が最後に一体化していく様をLRに振ってあるんです。口で説明するよりも音で表現したかったので。
──昭和九十年と平成二十七年が重なり合う瞬間ですね。そこで聴いている僕らも現世に引き戻されます。その後に「いまって平成 それとも昭和/それって戦後 それとも戦前」という「平成死亡遊戯」の歌詞を反芻すると、今や抜き差しならぬこの世の現実を改めて突きつけられる思いがしますね。
松永:もうそういう段階に来ているのかもしれません。今の日本はもはや戦前になっているのかもしれない。どう受け取るかは聴いてくれる人の自由ですけど。
──でも、危機感は拭えませんね。アーバンギャルドのように大衆性の高いポップ・バンドがこれほどまでに生々しく現代の日本に肉薄した作品を生み出したとなると。
浜崎:「ひょっとして今の時代、ヤバいんじゃない?」ってことを音楽で表現してるミュージシャンって意外と少ないですよね。
松永:そうなんですよ。ミュージシャンが「デモに行こう」とか「選挙に行こう」とか言うのも確かに分かるし、僕も一個人としてはそれもアリだとは思うんだけど、僕らはクリエイターである以上、そういう意思をなるべく作品として提示したいんです。作品を通じてどこのセクトを支持する、支持しないってことではなく、作品を通じて今の社会における問題提起をしたい。ただし、問題提起をする上でユーモアは不可欠です。自分なりに古今東西のプロテスト・ソングを検証していくと、一番圧倒的なのは高田渡さんの「自衛隊に入ろう」なんですよ。何が圧倒的かと言うと、自衛隊を風刺する皮肉が込められているにも関わらず、防衛省から自衛隊員募集のPRに使いたいという申し出があったから(笑)。そうやってメッセージ性はありながらも、ユーモアやブラック・ジョークをちゃんと忘れていないのが大事だし、ユーモアやブラック・ジョークが欠落すると単なる政治声明になってしまう。僕はそれとは一線を画したいし、作品としての余裕と外連味、粋でクールな部分がなくちゃいけないと思うんです。
浜崎:私たちはあくまでミュージシャンだから、運動家や活動家にはなっちゃいけないなっていう思いが凄くありますね。
松永:よく勘違いされるんですけど、僕は政治的な方向へ行きたいと思ったことがないし、自分が将来、政治家や活動家になりたいなんてことも微塵も思わないんですよ。政治家になるということは、何らかのセクトに入るってことじゃないですか。それはつまり、自由に表現ができなくなるわけです。僕はただ自由に表現がしたいだけだし、自由に表現ができなくなる世の中がイヤなだけなんです。たとえば会田誠さんの『檄』という作品を撤去した東京都現代美術館に対して憤りを覚えるけれども、その一方で、椎名林檎さんがフジロックで旭日旗を振ってたことに対してディスってたお客さんにも違和感がある。どんな表現があってもいいじゃないかと思うし、社会的なことを作品で表現する上でアイロニーが含まれることもあるし、椎名林檎さんがどんな気持ちでお客さんに旗を振らせたかなんて真意は分かりませんよね。だけど、そこまで考えない一般の人たちは作品やパフォーマンスを愚直なまでにそのまま受け止めるから、「あの人は右なんだ」と決めつけてしまう。そんなのつまらないですよ。

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昭和九十年

平成二十七年十二月九日(水)発売
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発売・販売:株式会社KADOKAWA

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【収録曲】
01. くちびるデモクラシー
02. ラブレター燃ゆ
03. コインロッカーベイビーズ
04. シンジュク・モナムール
05. 詩人狩り
06. 箱男に訊け
07. 昭和九十年十二月
08. あいこん哀歌
09. ゾンビパウダー
10. 平成死亡遊戯
11. オールダウトニッポン
【初回限定盤DVD】
ミュージック・ビデオ4曲+<アーバンギャルド2015 春を売れ!SPRING SALE TOUR>ファイナル公演(東京・新宿ReNY)のライブ映像10曲=全14曲収録

LIVE INFOライブ情報

アーバンギャルド 2015 XMAS SPECIAL HALL LIVE
『昭和九十年十二月』
【大阪】2015年12月17日(木)大阪BIGCAT
開場18:30/開演19:00 4,999円(ドリンク代600円)
【東京】2015年12月22日(火)渋谷区文化総合センター大和田・さくらホール
開場17:30/開演18:30 4,999円(ドリンク無し)
 
『昭和九十年』発売前夜PARTY“ガスマスク会”
2015年12月8日(火)20:00〜 池袋LIVE INN ROSA
 
昭和九十年十二月九日! アーバンギャルドの渋谷に死す
2015年12月9日(水)19:30〜 ヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川店
 
アーバンギャルドの公開処刑10
タワーレコードミニライブ&ランダム生写真サイン会
2015年12月10日(木)19:00〜 タワーレコード渋谷店
2015年12月12日(土)12:00〜 タワーレコード名古屋近鉄パッセ店
2015年12月12日(土)19:00〜 タワーレコード梅田NU茶屋町店
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