Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューアーバンギャルド(Rooftop2015年12月)

殺すな、殺すな、言葉を殺すな──
平成二十七年のパラレルな世界、戦時下の昭和九十年が提示する現代の闇と病み

2015.12.01

世界の見え方が変わった1995年という分岐点

──昭和九十年的世界の闇と病みの根源は90年代後半にある、という発想もありますか。
松永:ありますね。90年代っていうのも今回のアルバムの裏テーマとしてあったんです。今回のアイコンであるガスマスクにも地下鉄サリン事件のイメージがあったかもしれない。阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起こった1995年から今年でちょうど20年経つんですね。その2つのエポックメイキングな出来事が日本人の精神性を大きく変えたと思うし、95年以前、95年以後だと世界の見え方も価値観も全然違うんですよ。
──「地震」と「地下鉄」のくだりは「平成死亡遊戯」の歌詞にもありますね。1995年と言えばインターネット元年であり、ウチで言えば世界初のトークライブハウスと言われるロフトプラスワンがオープンした年でもあるんですよ。
松永:そう、それも象徴的な出来事ですよね。オーナーの平野(悠)さん自身、語りたい人だと思うし、95年を起点に言葉の時代になっていったと思うんです。己の内面を語ることで人間の精神性もより内面的なものになって、中には宗教に走る人もいればネットの世界に浸る人も出てくるようになった。その分岐点が1995年だったのではないかと。
──そうやって細部に至るまでコンセプチュアルに世界観が統一されている一方で、いや、だからこそなのか、どの楽曲も凄まじくポップで親しみやすいですね。それでいて一筋縄ではいかないアーバンギャルドらしさがしっかりと貫かれている。たとえば瀬々さんが作曲した「箱男に訊け」は北欧メタルを意識しながらも、エレクトロ風味のアレンジ配合と演劇的な歌の掛け合いが加わることでアーバンギャルドらしいユニークな味わい深さが醸し出されています。
瀬々信(g):アーバンギャルドとして、ちゃんとしたメタルをまだやったことないよね? って話が出て、じゃあこれはメタルの曲にしようってところから始まりましたね。でも当然、純然たるメタルになるわけもなくて。そのままメタルをやっても面白くないし、そんなのはメタル・バンドにやらせておけばいいわけで。
松永:「箱男に訊け」はもうライブでもやってるんですけど、箱だけにBOXジャンプっていうのがあるんですよ。「五里霧中の箱男、BOX!」って唄うのに合わせてみんなでジャンプするっていう(笑)。
──X JAPANのXジャンプ、筋肉少女帯のダメジャンプに続けと(笑)。箱男というのは安部公房の長編小説からインスパイアされたものですか。
松永:それもあるし、酒鬼薔薇事件を始めとする犯罪者の自意識をテーマにしてるんです。ちなみに、僕は元少年Aと同じ年齢なんですよ。
浜崎:「キレる17歳」と呼ばれる1982年生まれだよね。
 

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──秋葉原通り魔事件の犯人も1982年生まれで、彼を思わせる歌詞も出てきますね。
松永:そうなんです。彼らのような犯罪者に共通するのは承認欲求だと思うんですよ。自分のことを知って欲しい、分かって欲しい、自分はこんなに苦しい思いをしてきたんだという気持ちから犯罪を起こしてしまう。「箱男」の箱とはテレビのことで、罪を犯して有名になることでテレビの箱の中へ入りたいと。でも結果的に、その箱の中に閉じ込められてしまうわけです。僕らの世代というのは、ネットがなかった時代とネットが普及して以降の時代の狭間なんですよ。どっちの時代も知ってはいるけど、どっちの世代にもなりきれない。僕より下の世代になるとメディアに対する諦念やバカにした感じがあるんですけど、僕らの世代はメディアに対する憧れがある一方で無力感もあったりする。さっきも話に出たリアルとリアルじゃないものの間でもがき苦しんでる世代なのかなと思うんです。
──そんな世代だからこそ、虚構と現実が浸蝕し合う本作のようなコンセプトが思いつくのかもしれませんね。
松永:そうですね。90年代の後半に援助交際が社会問題になったけど、今の若い世代には90年代後半の女の子たちが援助交際をした気持ちは全く分からないと思うんですよ。90年代後半の女の子たちは自分の価値をお金に換えたり、ブランド物で自分を武装することでアイデンティティを高めていったけど、今の若い女の子たちは自分を経済的なものに置き換えることもないし、経済的なものに対する憧れもない。不景気が久しくなったこともありますよね。その一方で、今の若い女の子たちはとにかくたくさんの友達から「いいね!」を押してもらいたい。「3万円あげるよ」と「1,000リツイートしてあげるよ」だったら、前者になびくのが90年代後半の女の子たち、後者になびくのが今の若い女の子たちだと思うんです。金銭価値に換えることも周囲への承認欲求も、どちらもその先には何もないんだけど、90年代後半の女の子たちはまだリアルなものとギリギリつながっていたのかもしれない。
──「あなたも十五分間スターになれる」というアンディ・ウォーホルの名言を連想させる歌詞は犯罪者に向けられたものだとすると、なんとも皮肉ですね。
松永:たとえば元少年Aも、時代が違えば生主みたいになってたと思うんですよ。今ならスーパーで菓子パンに爪楊枝を混入させたり、コンビニのアイスケースに入ってツイートしてた気がするんです。元少年Aが最近立ち上げた個人サイトはまさに自意識の賜物だけど、そこに載せたアート写真とやらは意外と凡作だったじゃないですか。至って普通なんですよ。普通の人が「これってちょっと変わってない?」って見せてるだけ。
浜崎:ロフトプラスワンに出てる人たちからすれば、ケッ! て言いたくなるような普通以下の人間ですよ(笑)。
松永:犯罪者に限らず、今の時代は誰もが承認欲求を抱えてますけど、それだけで僕らは作品を作れないんです。もちろん承認欲求もなくはないけど、自分を客観視する目、あるいは自分を完全に無化したところから生まれてくるものがあるので。自分を認めたもらった先に何があるんだ? ってことが大事で、結局は自分が自分を認めないことにはどうにもならないんですよ。
 
 
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昭和九十年

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発売・販売:株式会社KADOKAWA

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【収録曲】
01. くちびるデモクラシー
02. ラブレター燃ゆ
03. コインロッカーベイビーズ
04. シンジュク・モナムール
05. 詩人狩り
06. 箱男に訊け
07. 昭和九十年十二月
08. あいこん哀歌
09. ゾンビパウダー
10. 平成死亡遊戯
11. オールダウトニッポン
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LIVE INFOライブ情報

アーバンギャルド 2015 XMAS SPECIAL HALL LIVE
『昭和九十年十二月』
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『昭和九十年』発売前夜PARTY“ガスマスク会”
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昭和九十年十二月九日! アーバンギャルドの渋谷に死す
2015年12月9日(水)19:30〜 ヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川店
 
アーバンギャルドの公開処刑10
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2015年12月12日(土)19:00〜 タワーレコード梅田NU茶屋町店
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