ムダなことがもっといっぱいあってもいい
──そう言えば、今回は一度終えていたマスタリングに納得が行かず、先行販売を遅らせてまでマスタリングをし直したんですよね。
M:音のバランスがどうしても納得できなくて、作品として発表するレベルじゃなかったんですよ。いつも100%納得できることはないんですけど、僕の場合、レコーディングをするのが凄い好きで、好きだからこそこだわってしまう。年々実験するのも凝ってきたし、メンバーにもお客さんにも分からない自分だけのこだわりがあるんですよ。まぁ、音楽好きなんでね。たとえばビートルズを何千回と聴いてきても、聴くたびに「こんな音が入ってたのか!?」みたいな新たな発見がある。その一方で、初めて聴いた人でも「いいな」と思えるところが必ずあるでしょう。僕もそんなミュージシャンになりたい。自分が作る音楽も、パッと聴いて「いいな」と思ってくれるだけでもいいし、何千回と聴いてもらって自分のこだわったところに気づいてくれるのも嬉しい。だから細かいところまで徹底してこだわるんです。それは自分しか分からないこだわりだけど、いつか伝わることがあれば最高ですよね。
──いろんなこだわりがあると思いますが、今のマモルさんが一番こだわっているのはどんな部分ですか。
M:メロディとか、気持ち良く聴けることかな。レコーディングのかなりこまかい部分にはこだわるんだけど、ライブはその反動で、割とアバウトにやりたいんですよ。自由にやれるのが一番って言うか、パンク・ロックや粗削りなロックンロールが好きなのが出ちゃう。その両方のバランスが自分ではけっこう大事なんです。
──レコーディングにこだわる上で、お手本となるレコードはどんなものでしょう?
M:いつもよく参考にするのは、洋楽だとウイングス、邦楽だとキャロルとかですね。70年代のあの時期のレコードって、音が凄くいいんですよ。
──ウイングスやキャロルのレコードにはあって、今の時代にないものとは何でしょうね。
M:アナログのテープレコーダーじゃないですかね、大雑把に言っちゃえば。あとは演奏力かな。今みたいにオートチューンやパンチインとかができなかったはずなのに、永ちゃんもジョニーも抜群に歌が上手いんです。ギターも音がいいしね。当時にあって今にないものって、それに尽きるんじゃないかな。昔は今よりもレコーディングに懸ける熱意があったって言うと語弊があるかもしれないけど、音楽で何か大きなことをしてやろう! ってエネルギーが作り手に凄くあったと思うんです。レコーディングにはバンド以外にたくさんのスタッフも関わるから簡単なことじゃなかったし、作業も一発録りでやり直しが利かないから大変だし、手間隙かけた割には儲からない。でも、それだけの労力をかけられたこと自体が平和な時代の象徴だし、ムダな労力を使えるのが平和な時代なんです。僕らがバンドを始めた80年代もそうでしたよね。みんなお金はなかったけど自由だけはあったし、自分の想像力と行動力次第でなるようになった。僕は20代の頃にそんなふうに育ってきたし、ムダなことがいっぱいあってもいい、そんなに儲からなくたっていい、それよりも「楽しくやろうぜ!」っていうのが、ロックンロールを通じて僕が伝えたいことなんですよ。今の時代、このまま行くとムダなことがどんどんなくなって、ロックンロールまでギスギスしたものになったら悲しいじゃないですか。
──誤解を恐れずに言えば、文化とは本来ムダなものだし、「スキだらけで行こう」みたいな歌を唄ってきたマモルさんのようなバンドマンがツイッターで社会的な発言をすること自体、今のギスギスした時代を象徴していると思うんですよ。
M:まぁ、僕みたいなのがああだこうだ言うことで、みんなが「これはヤバい」と感じてくれたらいいけどね。最初に「ヤバい」と感じた頃よりもどんどんヤバくなってるから。ただ、SEALDsみたいに若い人たちが率先してデモをやったり、今の状況を盛り返してきてるのは素晴らしいことですよ。ホントに凄い力だと思う。だから少しずつだけど明るい材料は増えてきてますよね。
──ソングライターとして、昔みたいに能天気な歌は書きづらい気持ちがありますか。
M:今はね。だけど能天気なところは自分の中にずっとあるし、能天気な歌は単純に唄うのが楽しいし、世の中がまたそんな空気になれば能天気な歌も書けるんじゃないかな。さっきも言ったけど、自分というフィルターを通したものを歌にする、それでロックンロールをやるのが大事なんです。社会的な歌もその一環に過ぎない。人によっては、僕の表現は軽いとかふざけてるとか思われるかもしれないけど。
いつの時代も心の中にゆとりや笑いがなくちゃいけない
──今までマモルさんが発表してきた社会的な歌と言えば、「夢の原子力」や「へいわのHEY!!」くらいだと思うんですが、どちらも直接的な表現は避けているし、単純にノリの良いロックンロールとして楽しめますよね。
M:全部が全部、「政府、FUCK!」みたいな歌だとつまらないじゃないですか。少なくとも僕はそうなんです。いつの時代も、平和な時代でもそうでなくても、心の中にゆとりや笑いがなくちゃいけないんですよ。それは僕の持論で、ユーモアというオブラートに包んで唄うのが性に合ってるんです。
──マモルさんは「ロックンロールヒーロー」の歌詞で名前を出すほどジョン・レノンのことが大好きですけど、『Sometime in New York City』のように政治色の濃い作品は作らないと思うんですよね。
M:音楽として聴くには、たまにキツいアルバムもありますからね、ジョン・レノンは。昔はポール・マッカートニーが苦手だったけど、ポールのほうが楽曲はポップで、スタンスも軽くて、聴いてて楽しいんですよ。特にソロになってからのジョンは楽曲が重くなりがちになる時があるんだけど、あれも厚いエコーを取ったり、アレンジを変えれば全然違うふうに聴こえると思うんです。まぁでも、表現や嗜好は人それぞれですからね。僕は重い表現ができないって言うか、重いものになったら自分がつまらなくなる。去年、ロッキンレボリューションの活動で熱くなりすぎた時は、一瞬そんな感じに陥りそうになって、凄くヘヴィだったんですよ。やっぱり何事も自分のできる範囲でやらないとダメですね。
──タイトルトラックの「SWINGING ROCK'N ROLL」の歌詞がマモルさんの音楽性を見事に言い当てていますよね。“イェーとかグー、ワォーとかフー、そんだけあれば充分だ”、“感じた時こそすべてさ”っていう。小難しいことは何ひとつ唄ってないし、他愛もない言葉が多いから軽快なロックンロールに乗ると余計に重さもなくなる。言葉の意味から解放されるから、ちょっと洋楽みたいに聴こえる感覚がある。“言文一致”ならぬ“言音一致”と言うか。
M:それはよく言われますよ。この間も対バンしたあんちゃんから「言葉とメロディが一致してる」って言われたんですけど、そう言われるのは最高に嬉しいです。それを目標にしてやってますからね。
──歌詞の意味があるようでない。でも、ないようである。そのどちらにも取れて、耳に残るのはノリの良いロックンロール。そういう言葉を選ぶのはセンスが要るし、誰でも書けるような簡単な言葉の羅列に思われるかもしれないけど、実は凄く難しいと思うんですよ。
M:まぁ、日常会話にちょっとふざけた言葉を選んでるだけなんですけどね。ただロックンロールっていうのは誤解されがちで、確かに単純な音楽ではあるけど、ホントはそんなに単純じゃないんだぜ、っていう気持ちが口には出さないけどあるんです。コードにしてもリズムにしてもね。でもそれを、「実は単純じゃないんだよ」なんて前面に押し出したくはない。むしろ「ロックンロールなんて簡単だよ、テキトーにやれよ!」みたいに言いたい。その辺もあまのじゃくでね、若いあんちゃんたちには「簡単だからやってみなよ」って言うけど、「ロックンロールなんて簡単な音楽だよね?」なんて言う面倒くさそうなおっさんどもには「簡単じゃねぇよ、このヤロー!」って言いたくなる(笑)。
──実はそう簡単ではないロックンロールをいとも簡単そうにやるのが粋だし、それが“スウィングしてる”ってことなんじゃないですかね?
M:何なんでしょうね、“スウィング”って。『SWiNGiNG ROCK'N ROLL』なんてタイトルを付けておきながら、自分でも今いちよく分かってない。
──さっきマモルさんが話していたように、心の中にゆとりや笑いがなければ“スウィング”できないのは確かですよね。
M:ホントにね。今は大変な時代だけれども、気持ちにゆとりを持てるようにして、戦争が起こるかもしれない社会の現実に目を向けて、そこから逃避しないようにして欲しいですね。逃避したい気持ちは凄くよく分かるしさ、僕もツイッターで社会的なこととふざけたことを使い分けてつぶやくのが大変ですよ。だけどこれは実際に起こっている紛れもない現実だし、目を背けずにいたいんです。みんながロックンロールを聴いてゆとりを持って、今の現実を見据えた上で、それでも「楽しくやろうぜ!」って思えるようになるのが今の僕の希望ですね。大変だけど、実現できますよ、人間ならね。一休さんの気分でとんちをきかせればさ(笑)。