3人のプレイには阿吽の呼吸以上のものがある
──決して現状に甘んじることなくハングリーさを失わないし、ファンクっぽい溜めの効いたリズムが特徴的な「シャクニサワル」でも理不尽なことや不条理なことに正しく怒っているじゃないですか。だから“円熟”と言うよりは“角熟”という言葉がしっくりくると思うんですよ。
K:そういう思考がデフォルト(初期設定)なのかもしれない。自分の思いを、自分の表現の仕方で描いてるだけなんだけどね。ただ、曲調はバラエティに富んだようにしたいから「遠吠え彼方に」みたいな曲もやる。ラモーンズやギターウルフみたいな「これしかやらない」みたいな音楽も好きだけど、自分たちがやるなら飽きないようにやりたいかな。カレーがいくら好きでも毎日は食えないって言うかさ(笑)。きっと俺たちは「好きなおかずばかりの幕の内弁当」が好きなんだと思う。メンバー全員そうだね。
──喜怒哀楽をありのままに表現する、現在進行形のグルーヴァーズのアンサンブルをそのまま音に焼きつけるのが本作のテーマと言ったところでしょうか。
K:音的にはそうだね。今の自分たちの持ち味をそのまま出して、それを録音できれば新鮮な気持ちで聴けるものになる自信は直感としてあった。新機軸みたいなものはないかもしれないけど、エンジニアは久しぶりに違う人にお願いしたんだよ。古屋(俊介)君という俺たちよりもひと回り以上若いエンジニアで、それは今までにないケースだったね。
──若い血を採り入れたことで化学反応は生まれましたか。
K:たとえばリバーブを使って壮大な感じを出すとか、そういうのは一旦横に置いておくことにして、もっと近めの音像を狙ったんだよね。それは前作くらいからやりたかったことでもあるんだけど、今回は古屋君とタッグを組むことでかなり理想的な形で具現化できた気がする。そもそもは藤井ヤスチカ(ds)が古屋君と知り合って、古屋君のスタジオ(FOFTOO Sound Lab.)でいい感じでやれそうだったからお願いしたんだけど、最初は俺たちの好きな60年代、70年代のロックが共通言語として伝わるかどうか心配だったんだよ。でもそれは全くの杞憂で、古屋君とのやり取りはびっくりするくらいスムーズだった。だから世代の違いは関係ないんだなと思ったね。
──おそらく古屋さんの世代は60年代、70年代の音楽が十代の頃にどんどん再発されて、当時の新譜と一緒に分け隔てなく聴けたことも大きいんでしょうね。
K:なるほどね。俺たちが若い頃よりもアーカイブが充実していたと言うか、古い音楽を掘り下げて聴くという感覚じゃなかったのかもしれないね。あと、アナログテープ時代からの叩き上げのエンジニアも俺は好きだし、尊敬もしてるけど、業界に足を踏み入れた頃からデジタルが主流だった古屋君みたいなエンジニアのほうが今日的なレコーディングには慣れてるかもしれないよね。
──グルーヴァーズはアナログとデジタルの過渡期を経験していますよね。
K:うん。4人編成の最初はまだアナログテープを回してた。途中からソニーのPCM-3348っていう48トラックのデジタル・レコーダーになって。でも、デジタルとはいえテープでね。2000年代の途中からプロツールスが台頭してきて、テープすら使わずにハードディスクで録るようになった。
──今回のアルバムはデジタル・レコーディングながらヴィンテージなアナログの質感がある、図太くて抜けのいい音をしていますよね。一彦さんが言うような“近めの音像”、臨場感溢れる音が冒頭の「無条件シンパシー」や「EL DIABLO」から存分に堪能できます。
K:そこを目指してたし、凄く気に留めていた部分だったから、そう言ってもらえると嬉しいね。今回使ったスタジオにはNeveの古いコンソールがあったりもしたけど、その他の部分はオール・デジタルだった。だから如何にデジタルっぽくならないようにするか、自分たちの耳を頼りにやるしかなかったんだよね。そういう俺の嗜好や志向を古屋君が汲んでくれた。EQ(イコライザー)の使い方ひとつを取っても、デジタルっぽい耳障りな音域をいくつもピンポイントでカットするために、何段にもプラグインをかけたりするわけ。デジタルはそれで劣化したりはしないから、デジタルの良さを最大限使いつつ、やろうとしていたことは凄くアナログな発想と言うか。それが今回は功を奏したんだと思う。
──なるほど。本作の収録曲の中では、突き抜ける青空を連想させる「PERFECT DAY」がリード・チューンにうってつけで、一番シングル・カットに向いていますよね。
K:自分でもリード・トラック向きだなと思ったね。ラジオとかで一曲だけかけてもらうならこの曲だなと思ったんで、アルバムのトレーラー映像には「PERFECT DAY」を使ってみた。曲が出来たのは割と後半のほうだったんだけどね。逆に「それが唯一の」とかは古くて、前のアルバムのツアーが終わってから最初に作った曲だったんだよ。
──「それが唯一の」やソウルフルな「YES or NO」、最後の「最果て急行」といったブルージーなロックンロールはグルーヴァーズの真骨頂ですが、音の瑞々しさも相まって、2015年に鳴らされるべき必然性みたいなものを感じますね。
K:そう聴こえるなら嬉しいね。何か奇をてらったり、無理して新機軸を持ってくることなく新しさを出せるのが理想だから。ただそれは、具体的に何をすればそうなるのか分からないから、自分たちの直感を信じてやるしかないんだけどね。
──しかも、ブルースやソウルといったルーツ・ミュージックを分母に置いたロックンロールは、定型から逃れられない宿命にありますからね。
K:うん。ましてや同じメンバーで20年以上やってきてるわけだから、新しさを出すのは簡単なことじゃない。でも、パッと見の新しさは出しづらいかもしれないけど、新鮮味はまだまだ出せると思うんだよね。単純な新鮮さで言えば、サポートで呼ばれてバック・バンドの一員として弾く時のほうが新鮮かもしれない。でも、グルーヴァーズでのプレイには阿吽の呼吸以上のものがある。自分たちで土台を作って、20年以上のキャリアを築いてきたパーマネントなバンドだし、この3人で奏でるアンサンブルはやっぱり格別なんだよ。
何もはばかることなく、やりたいことをどんどんやるべき
──グルーヴァーズという還る港があるからこそ、外部のサポート活動に心置きなく集中できる側面もありますよね。
K:きっと自分が思っている以上にそうなのかもね。自分にパーマネントなバンドがない状態でサポートで弾いてたら、まるでパンツを穿いてないような居心地の悪さがあると思う(笑)。
──ただ一彦さんの場合、SIONさんとのTHE MOGAMIでも、石橋凌さんのバンドでも、外部活動なのにパーマネントなバンドみたいになるのが面白いですよね。
K:確かにね。俺はいわゆる腕利きのセッションマンと言うか、ユーティリティー・プレイヤーみたいな感じじゃないと思うんだよ。必要としていただいて呼ばれるのはもの凄く有り難いし、そこで演奏するのも凄く楽しいし気持ちいいんだけど、職業的なミュージシャンの資質を求められてるわけじゃないかも。セッションマンじゃなくバンドマンみたいな匂いなんだよ、きっと。
──それはあるかもしれませんね。ただロック・バンドであり続けたい、バンドマンの一員として鳴らしたい音があるという一彦さんの心意気が本作にも通底していると思いますし。「ANOTHER VIRTUE BLUES」の中で唄われている「拭えないものだけが ただひとつ 偽りないもの」というフレーズは、一彦さんの中でバンドでありロックンロールのことを指しているんじゃないかと感じたのですが。
K:そういう思いが歌詞に出てくるのかな? ただ、ホントはあまりシリアスなことは書きたくないんだけどね。所詮はロックンロールなんだから、もっとちゃらけたことを唄ってもいいし、何なら全曲パーティー・チューンでもいいとすら俺は思うわけ。でも結局、自分の思いみたいなものがどうしても歌詞に出てしまうし、それが自分にとっての“拭えないもの”なのかなと思ったりする。
──バンドやロックンロールを続けていく決意表明みたいなものは本来盛り込みたくないと?
K:むしろそういうのは避けてるね。そっちの方向へ行くと過剰になってしまって、粋じゃないから。
──ロックンロールがポップ・ミュージックのひとつであるから、ですか?
K:だと思う。結局、気持ちがアガる音楽をやりたいんだよ。音を浴びていたら堪らなくなって、自然と踊り出しちゃうみたいなさ。理由や理屈を必要としない、メッセージとかも関係ない音楽を、ホントはもっとやりたい。無条件に腰にクるみたいな、身体が疼くような音楽を。
──ロックンロールはダンス・ミュージックだし、本来そういうものですからね。
K:本来はね。でもいざ自分で書こうとすると、「飛ばすぜハイウェイ」とか「朝まで踊ろうぜ」みたいな歌詞は出てこない。まぁ、そんなのは今まで一度も書いたことがないけどさ(笑)。
──「空白」の「捨てきれぬ憧れが 閉ざされたドアを蹴る」という歌詞は、「ANOTHER VIRTUE BLUES」の「拭えないものだけが ただひとつ 偽りないもの」という歌詞と相通ずるものがあると思うんです。今はロック・バンドが苦境に立たされる時代かもしれないけど、それでも鳴らすことをやめられないロックンロールという“捨てきれぬ憧れ”。それを携えながら蹴散らしていくんだ、と言うか。
K:20年以上同じメンバーで同じバンドを続けてきた、40代の半ばをとうに過ぎたオッサンが、そんな青くさいことをあえて唄うっていうのもいいかなと思ってね(笑)。
──いや、シビレますよ。だって、グルーヴァーズみたいに同じ顔ぶれ、同じ編成のまま活動を続けている二度目の成人越えのバンドも最近はなかなかいないじゃないですか。
K:確かに少ないよね。バンド名は同じでも、メンバーがほとんど違ったりとかさ。バンドって、できれば20歳くらいまでに始めて、なるべく長く続けるのが理想だよね。なおかつ、最低でも10年は同じメンバーでやり続けないとバンドとは言えない。それが俺の中の確たるバンド像だから、自分にとってパーマネントなバンドは後にも先にもグルーヴァーズ以外にないんだよ。
──ヤスチカさんと高橋ボブさん(b)以外の人とパーマネントなバンドをやる発想もないでしょうしね。
K:あの2人が付き合ってくれるなら必要ないね。特に何も言わなくてもこっちの意図を汲んでくれたり、長年バンドをやってきた仲ならではの良さ、ラクな部分があるしさ。最近はそれを遠慮せずに最大限使わせてもらうことにしてるよ(笑)。遠慮しないってことでは、曲作りもそうだね。もう何もはばかることなく、どんどんやりたいことをやっちゃっていいんじゃないかと思ってる。
──どんどんOK基準が下がってると言うか。
K:うん。前は「これはちょっとやりすぎだろ」みたいなリミッターがけっこうあったんだけど、最近はそういうのがなくなってきた。これだけ長くやってると、思考のサイクルが1周も2周もしてるからね。「この手の曲は前にもやったから、ちょっと別のアプローチにしてみようか」っていうのも、ヘタすりゃサイクルが3周目だったりするから、「別にそれでもいいんじゃないか」ってところに落ち着くようになった。それに、無理にアプローチを変えてもいい結果を生まないことが多いし。