ロックンロールはもはや時代遅れなものなのか? 気の合う仲間とバンドを組むのは流行らないことなのか? いや、ちょっと待て。ジャッジを下すのはグルーヴァーズの最新作『Groovism』を聴いてからにして欲しい。日本屈指のロック・トリニティが6年ぶりに放つ本作は、血湧き肉躍る音楽を仲間と奏でたいという衝動、バンドという集合体へのピュアな憧憬が20年以上のキャリアで培った至上のアンサンブルとしてトレースされている。熟成したロックのコクと旨味が存分に味わえる一方で、このバンドにしか鳴らせない音をどうしても残したいんだという純度の高いプリミティヴさが音の隙間からも窺える。そのブレンドの妙が素晴らしい。勝てば官軍、負ければ賊軍の時代にナニクソ!と唾棄する姿勢も含めて、ここまで真っ当にロックと対峙しながら娯楽性に富んだ作品があるだろうか。一度でもロックに淫した経験のある人なら無条件にシンパシーを覚えるであろう本作について、藤井一彦(vo, g)に話を聞いた。(interview:椎名宗之)
バンドとソロが対極にあるからこそ面白い
──ベスト・アルバム(『Nothin' But The Best』)と一彦さんのアコースティック・ソロ・アルバム(『GEMINI』)のリリースはあったものの、オリジナル作品としては6年ぶりになるんですね。
K:曲のストックは充分にあったから、もう1、2年早く出しても良かったし、ベスト・アルバムやソロ・アルバムと同時に新譜を出すのも格好いいかなとか思ってたんだけど、創作以外の作業も立て込んでたし、1枚のパッケージ作品を作り上げるのはなかなか大変なことだから。いろいろ交通整理をしていると、どうしてもね。
──渋滞にハマってしまうと。
K:まぁ、環七が混んでたってことで(笑)。
──今回の『Groovism』はとにかくロックンロールの旨味成分だけをギュッと凝縮させたようなアルバムだと思うんですが、歌詞のテーマは割と一貫しているのかなと思って。「空白」の歌詞が顕著で、あえて荒野を往く過程でゴールは未だ見えない、もしかしたらないのかもしれないけど、それでも閉ざされたドアを蹴り続けて突き進んでいくんだという覚悟を作品全体から感じます。
K:特に意識したつもりはないんだけどね。自分の中から素直に出たものがたまたまそんな感じになったと言うか。それを聴いてくれた人が共感してくれたらラッキー、くらいの感じで歌詞は書いてる。自分にはそれくらいがちょうどいい。意気込みすぎたり、いいことを言おうとか思うと良くない気がして。いや、いいことは常に言いたいんだけどさ(笑)。気をつけていたつもりでも青くさい部分は出ちゃうものだから、ちょっとはみ出しちゃったくらいがちょうどいいんだよ。
──『GEMINI』に収録されていた「UNDER THE FOGGY MOON」が今回バンド・バージョンとしてお色直しされていますが、このパターンは前作『ROUTE 09』でもありましたね。
K:前は「今を行け」がそんな感じだったね。最初のアコースティック・ソロ・アルバム(『LAZY FELLOW』)にはバンドのセルフカバー(「ウェイティング・マン」)を入れたり、逆のパターンもあったんだけど。そういうふうにバンドとソロの差を楽しめる曲があってもいいんじゃないかと思って。
──バンドとソロの違いやそれぞれの面白さはどのように捉えていますか。
K:俺の中ではバンドが主戦場であり、肩書きはバンドマンでありたい。ライブの本数やリリースの頻度がそんなに多くなかったとしても、自分のアイデンティティはバンドにあるからね。ただ、今はバンドとして全国をくまなく回るのが難しいし、ソロならギター1本担いで、ひとりで気軽にいろんな所へ行けるからさ。ソロをやるのはバンドの補足的な側面が最初にあったんだけど、やっていくうちにバンドとは別腹の面白さが出てきた。バンドとソロでレパートリーを分けるようにもなったし。
──曲の線引きは漠然とあるんですか。
K:そこは直感かな。ひらめきで分別していると言うか。途中で「これはバンド向きかな」と軌道修正することもあるけど。
──ソロでシンプルの極みを最大限まで引き出す面白さは当然あると思うんですけど、ソロをやることでバンドの良さを改めて実感する側面もあるのでは?
K:それはあるよね。弾き語りのソロがバンドの代わりじゃないし、バンドとソロが対極にあるからこそ面白味がある。唄って弾いてる人間は同じなんだけど、ソロのほうではエレキギターをなるべく弾かないようにしてるしね。逆に、今回のバンドのアルバムではアコギを弾いてない。アイリッシュ・ブズーキは弾いてるけどね。今はそうやってバンドとソロを意図的に分けるのが面白い。
──バンドとソロで曲を分けるほどレパートリーがあるというのは、創作意欲が全く衰えない証拠ですよね。
K:決して多作じゃないけど、意欲が枯れることはないね。実際に曲を仕上げていくのは大変だし、ハードルも上がっていたりするけど。技術も上がってるけどハードルも上がってる(笑)。でもそこは、力を抜くことでうまくやれたり。
──3ピースとして20年以上やっていると、力まないでやるほうが事態が好転することが多いですか。
K:うん。なんでだろうね? まぁ、力むことは今までさんざんやってきたからさ。メンバーも編成もずっと同じだし、アルバムごとに違うテーマを設けてやってきたわけじゃないし、音のアプローチがガラッと変わることは考えにくいからね。「次回作はテクノに挑戦します」とか、そういうのは全くないから(笑)。
──グルーヴァーズの音楽はしゃにむに尖ってもいないけど、萎える気配もさらさらないじゃないですか。今回のアルバムの曲でもじっくりと聴かせるのは、まどろみを誘う曲調の「UNDER THE FOGGY MOON」と物憂げな雰囲気の「遠吠え彼方に」くらいだし。
K:あとの曲は強いか速いか、ばかりだよね(笑)。
──だから何と言うか、今のエリック・クラプトンみたいな枯れた風情とは無縁ですよね。
K:ああいう枯れ方はしたくないんだろうね。クラプトンほどの地位と名誉とお金を手にしないと分からないこともあるとは思うけど(笑)。