THE GROOVERSの4年ぶりとなるオリジナル・アルバムのタイトルは『RAMBLE』。希望を抱けず混迷の出口を見出せない情況を"さまよう"時代を象徴するような言葉だが、その内容も現代の闇と病みの中で一条の光を求めて"さまよう"歌に焦点を絞っているように感じる。表層的にはブルースやソウルといったルーツ・ミュージックを分母に置いた骨太のロックンロールなので無条件に楽しめるが、時代の気分を反映した苛辣な言葉が小気味好い音のフックになっているのは間違いない。闇が深いほど光は眩しい。現実を直視して絶望の闇の深さを知る人ほど強く輝く光を周囲に照らす。だからGROOVERSのロックンロールは四半世紀以上にわたり無垢の輝きを煌々と放ち続ける。光と影を絶妙なバランス感覚で表現へと昇華させる藤井一彦(vo, g)に『RAMBLE』の制作秘話を聞いた。(interview:椎名宗之)
ざらつきや刺々しさのある言葉を選んだ
──前作『Groovism』から4年のタームを置いてのリリースは、わりと理想的なのでは?
K:前々作『ROUTE 09』から『Groovism』まで、べストやソロを挟んだとは言え6年空いたので、ジリジリと詰めてきたね(笑)。バンドと弾き語りをやりつつ、サポートやマネジメント業務(笑)を入れると、どうしてもこれくらいの時間はかかっちゃうかなぁ。
──この4年の間にソロ・ライブも精力的に行なってきましたが、その活動の成果が今回の作品づくりにフィードバックした部分はありますか。
K:あるね。ソロは気がつけばもう10年以上やってて、サイドワークだけどライフワークでもあって。バンドとは別腹的な部分もありつつうまく並行してやれればいいと思ってるんだけど、切り離すこともできないからね。だからフィードバックはしてると思う。
──ここ何年かは一枚入魂と言うよりも一曲入魂でアルバムづくりをしているようにお見受けしますが。
K:メジャーの最初のアルバムからずっとそんな感じだよ。俺たちがやってるのはオーソドックスなロックだし、最少編成でずっとメンバーも一緒だから、たまには何か変えたいとなっても、一体どこを? って話なわけで(笑)。だから目新しさを出すために、前作ではエンジニアを変えてみた。今回は音的には前作の延長線上で行こうと思いつつ、前作ではやらなかったゲスト・ミュージシャンを招いて数曲やることを漠然と考えてた。いつもコンセプチュアルにやることは考えてないし、テーマみたいなものもないしね。
──そこをあえてテーマらしきものを挙げるとすれば、未来に対して希望を持てない時代を抗うロックンロール・アルバムと言えませんか。暗いトンネルの中をさまよって閉塞感や絶望ばかりを感じながら、それでも光を求めて出口を探していると言うか。今回はそんな歌が多い気がするんです。
K:言葉にすると野暮になるからあまり口にはしないけど、そういうことはどこかで思ってるかもしれないね。
──と言うのも、「魔法など とっくにもう/夜明け前に 解けちまった」と唄われる「自由と闇」、「立ち尽くしているうちに/虚しさに苛まれて」と唄われる「警鐘スキッフル」、「ぼう然とするしかない」「釈然とするはずがない」と唄われる「FANG」など、本作の歌詞はいつになく内向的なものが多いなと思って。
K:現実を直視したり、社会に対して少し批判的なワードを使うだけでそういうふうに取られてしまうかもしれないけど、言葉が与えるインパクトほど強くものを言いたいわけでもないんだよ。ギターの音色を選ぶのと同じように言葉のざらつきや刺々しさを選んでるところがあるんで。だから自分の偽らざる思いを必ずしもそのまんま歌詞にしてるわけでもない。
──とは言え、「THE OTHER SIDE OF THE END」のように聴き手の背中を押してくれるような明るく前向きな曲でも、終止符の向こう側へ果敢に跳び越えようとする、困難な時代に抗う気概みたいなものを感じるんですよね。
K:そういう感じは多分、自然と出たのかな。ここ数年の間に自分の感じていたことが。
──今回も非常に洗練された粒揃いの楽曲群ですが、アルバムづくりに向けて一気に書き上げたんですか。
K:いや、前作を出してツアーをひとしきりやった後に、1曲ずつ溜めていった感じ。新規のツアーやワンマンをやるたびに新曲をなるべくやるようにしていてね。
──8月から9月にかけて本作の先行発売ツアーを敢行されましたが、今回の新曲群もライブでの反応が良かったんじゃないですか。
K:お陰様でね。8割の曲は最低でも一度はライブでやってたけど、馴染みの薄い曲も多いし、2曲は書き下ろしで。リリース前にそれらを聴いてもらうのはなかなかスリリングだけど(笑)、楽しんでやれたよ。
──本作は全体の構成もよく練られてあるなと思って。ドライブ感溢れるヒリヒリしたナンバーの「MOJO FIRE」をコンパクトに聴かせてから雄大で包容力のある「THE OTHER SIDE OF THE END」をじっくり聴かせるなど、導入部からして一気に引き込まれますし。
K:こうしてアルバムを何枚も出してきて気づいたんだけど、俺はわりとバランスを取るタイプなんだよね。たとえばラモーンズ的に偏った方向へ振り切る潔さに憧れたりもするけど、自分がやるとなるといろんなタイプの曲を集めたものをつくりたくなる。だからつい全体のバランスや流れを考えてしまう。
──アナログ盤のA面、B面のような構成のようにも感じますね。本作の目玉のひとつである「自由と闇」はA面の最後のほうに入れたみたいな。
K:普段からアナログ・レコードばっかり聴いてるから、自然とそういう流れを学んでいるのかもしれない。
オルガンで参加したメンフィス・ソウルの重鎮
──その「自由と闇」ですが、あのハイ・リズム・セクション(メンフィス・ソウルの名門レーベル〈ハイ・レコード〉のサウンドを支えた黄金のリズム・セクション)のチャールズ・ホッジスにオルガンを弾いてもらうことになった経緯を聞かせてください。
K:「自由と闇」はメンフィス・ソウルのマナーに則った曲なので、オルガンを入れたいなと思って。たとえば細海魚さんやエマーソン北村さんに頼めば最高なのは目に見えてるけど、その部分もいつもの感じから一歩踏み込みたくてね。ちょっと夢を追ってみようと思って、a flood of circleの佐々木亮介に軽く相談したんだよ。彼はソロのミニ・アルバム(『LEO』)をメンフィスのロイヤル・スタジオでレコーディングしたことがあるから。今は大きな音源データでもネットを介せばやり取りできるから物理的には可能だけど、メンフィスの重鎮にデータのやり取りでダビングなんてことをやってもらえるかどうか、ちょっと酔ってる日に(笑)亮介にLINEで探りを入れたわけ。そしたら「絶対にやってくれますよ」と言ってくれた上に、すぐにコーディネーターさんと繋いでくれてね。
──実際、二つ返事でOKが出たんですか。
K:曲のラフ音源と譜面を送ってくれと言うから送って聴いてもらったんだけど、次の日にはもう「やるよ」とOKの返事が来た。
──亮介さんが絶妙なトスを上げてトントン拍子で話が進んだと。
K:うん。最高のキラーパスを出してくれた(笑)。
──亮介さんのアルバムでもエンジニアを務めたローレンス・ブー・ミッチェルが録音に参加したそうですね。
K:うん。〈ハイ・レコード〉という〈スタックス〉と双璧を成すレーベルでプロデューサー、エンジニア、オーナーを務めたウィリー・ミッチェルというメンフィス・ソウルの重要人物がいて、アル・グリーンやアン・ピーブルス、オーティス・クレイといった人たちの名盤を生み出した人なんだけど、そのウィリーの息子さんがブーで、父親からロイヤル・スタジオを受け継いでオーナーをやってるわけ。彼自身、グラミーで年間最優秀レコード賞を取ったこともある腕利きのエンジニア/プロデューサーなんだよ。チャールズ・ホッジスは御年71歳のレジェンドだし、宅録したデータをギガファイル便で送るなんてことはさすがにおやりにならないから(笑)、どうしてもスタジオは使わなくちゃいけない、と。それでどこかリーズナブルなスタジオででもやってくれるのかなと思ったら、なんとロイヤル・スタジオで録る、と。チャールズのハモンド・オルガンが常設されてるから、そこで録るしかないってことみたいで。ロイヤル・スタジオは映画(『約束の地、メンフィス〜テイク・ミー・トゥ・ザ・リヴァー』)でも映っていたけど、誰が来て録音する時でも、ドラム、オルガン、ベースアンプの位置を変えないらしいんだよ。
──アル・グリーンが70年代に数々のグラミー受賞ヒット曲を世に送り出す拠点だった頃からずっと変わっていないと。
K:そういうこと。で、最初は誰かアシスタントみたいな人が隙間で録音してくれるのかな? と思ったんだよ。実際、それで充分だし。そしたらブーが録ってくれててさ。コーディネーターさんが証拠動画みたいなのも送ってくれて、チャールズが演奏してるのをブーがノリながら録る姿が映ってて、あれは感激したね。
──オーソドックスなロックンロール・バンドであるGROOVERSが、データのやり取りという文明の利器を活用するとは面白いですね。
K:それができる世の中なんだから、そこは恩恵にあずかろうと思って。これがバンドを始めた20数年前なら、マルチ・テープを送らなきゃいけなかったり、実際に行かなきゃいけなかった。もちろん今だってバンドでメンフィスに行って一緒に録音できたら最高だろうけど、旅費だけでレコーディング総費用の半分は飛ぶだろうから(笑)。
──ゲストを迎えたのはもう一曲、ピアノの伊東ミキオさんとハープのKOTEZさんが参加した「警鐘スキッフル」がありますが、これは軽快で楽しいロックンロールに徹していますね。
K:お飾り程度の鍵盤は自分でも少し弾けるけど、あんなに速いR&Rピアノは弾けないから上手い人にお願いしたくて。ハープも自分ではあんなふうに吹けないし、ここはぜひKOTEZ君に、と。スキッフル・ビートのロッキン・ブルーズをビシっとキメたかったから、思いっきり得意分野の人たちに協力してもらった。適材適所(笑)。
──その一曲前の気怠くブルージーなナンバー「LOST STORY」とは対照的ですね。
K:そうかもね。部分的にはそうやって振り切ったほうがいいと思って。
──ゲスト勢に全面的に参加してもらうのではなく、2曲限定で参加してもらうのがGROOVERSらしいと言うか、一彦さんなりのバランス感覚と言うか。
K:全部の曲にゲストを入れるのも可能だし、それはそれでいい感じに仕上げられるとは思うけど、そこまでは考えなかったね。それもバランスを考慮してなのかな。意図的にバランスを取ろうと思ってるわけじゃないけど、自然とそうなるんだろうね。