失うものもないし、自分たちの色を薄める必要なんてない
尾形:甘夏さんの絵はちょっと浮世離れした感じがあると言うか、現実からはみ出た印象があって、それが今回のアルバムのイメージに近かったんですよ。“CHAOS”、“感情超常現象”、“触覚”といった言葉と甘夏さんの絵が僕のなかでつながったので、もし良ければ絵を使わせてもらえませんかとお願いしたんです。そしたら快諾していただいて、「もしかしたら今描いてる絵がイメージに合うかもしれません」とジャケットの絵の下描きが送られてきたんです。
──ほぼ描き下ろしなんですね。
尾形:その下描きの絵を見た時に「これしかない!」と思ったんですよ。甘夏さんは音楽を聴きながら絵を描くらしくて、作品のタイトルも曲名から引用することがあるそうなんです。ジャケットの絵はロックをイメージして描いたと仰ってましたね。まぁ、破格の扱いですよね。僕の父親(尾形香三夫)が陶芸家で、そことのつながりもあったみたいで。
宮野:ジャケットの絵は『雪舞天狗』という作品なんですけど、完成した途端に台湾の美術館へ渡ったそうなんですよ。日本ではほぼ未公開の作品になるから、CDのジャケットという形でいろんな人たちの目に触れるのは嬉しいと言って下さったんです。
──アルバムの内容もいいし、ジャケット制作の裏にはそんないいエピソードもあったり、そこまでちゃんとしてると逆にHEREっぽくない気がしてきました(笑)。
武田:言われてみれば、確かに(笑)。
尾形:いろんな人たちの力を借りて、こうして初の全国流通盤を世に放てたので、その借りをちゃんと返さなきゃいけないんですよね。こうして『Rooftop』の表紙を飾らせてもらうのも大きな自信につながりますし。
武田:そのためにも、それ相応の結果を出していきたいですね。
──そんな謙虚な話しぶりを聞くと、インビシブルマンズデスベッドの頃のビッグマウスっぷりが恋しくなりますね(笑)。
宮野:昔の『Rooftop』のインタビューで、「今は他に大したバンドがいないからね!」ってデスベッド時代の尾形が断言してましたからね(笑)。
武田:身の程知らずだったよね。そりゃ敵も増えるわけだよ(笑)。
三橋:僕はHEREに入る前、インビシブルマンズデスベッドのイメージがあったので、バンド内が凄く殺伐とした雰囲気だと思ってたんですよ。お互いを罵り合うような感じなのかな? と思って(笑)。そしたらメンバー間は凄くハッピーな感じで意外だったんです。スタジオも和やかだし。
尾形:インビシブルマンズデスベッドの時は、曲作りに煮詰まると殺伐とした雰囲気になった記憶がある(笑)。
武田:でも、それ以外は仲のいいバンドでしたよ。今も仲がいいですしね。
──今回の資料には“数々のバンドマンたちにも愛され、伝説になりかけたバンド”とインビシブルマンズデスベッドのことが記載されていますが、当事者としてはどう捉えているんですか。
尾形:たとえば、武田がサポートしてるmudy on the 昨晩のメンバーも好きで聴いてくれてたそうなんですよ。
武田:部室に僕たちのポスターが貼ってあって、それを見ながら練習していたとフルサワ(ヒロカズ)君が言ってたんです。あと、[Alexandros]のドラムの方(庄村聡泰)がインビシブルマンズデスベッドのコピーをしていたと、たまたまお会いした時に話を聞いたり。
尾形:けっこうそういうケースが多いんです。一般のお客さんにはほとんど響かなかったんですけど(笑)、そんな話を聞くとやってて良かったなと思いますね。
武田:ただ、自分たちとしてはもう前のバンドを超えてると思ってるので、今のHEREへの評価につなげたいですよね。
尾形:バンドとしてやりたいことがたくさんありすぎて、どうしようかと思ってるくらいですからね。もっと音にこだわったレコーディングを突き詰めたいし、ストリングスやホーン隊を入れた曲もやってみたいし、9mmやアルカラみたいに刺激をくれるバンドとコラボレートした作品も作ってみたい。こうしてスーパー・インディーズとしてバンドを続けている以上、自分たちの色を薄める必要はないんですよ。何にも縛られてないんだから、好きなことをやれるだけやってみるべきなんです。
──「失うモノも貯蓄もない/あるのはむきだしの“魂”」という「絶望をブッ飛ばせ」の歌詞の通りですね。
尾形:僕らも人間だから時に日和ったりすることもあるけど、せっかくDIYでやってるんだから、自分たちのやる意味のあることだけをやってやろうと思うんですよ。僕は過剰な表現が好きだし、ライブでもCDでも過剰にはみ出た生命の爆発みたいなものを受け取ってほしいんです。僕自身そういうロックに今まで生かされてきたし、生きる力をもらえる、与えられるのがロックの醍醐味ですからね。