やりたいことは全部やってやろうと思っている
──ちなみに、その日下さんからはどんなアドバイスを受けたんですか。
尾形:「もっとメチャクチャにやれ!」と(笑)。
三橋:「まだ行ける! もっと行け!」みたいなノリで(笑)。
武田:今回はシリアスに格好いい感じだから「戯曲」を入れるかどうか悩んだんですけど、「絶対に入れたほうがいいでしょ! 『戯曲』がないとHEREじゃないよ!」って日下さんに言われたんですよ(笑)。
尾形:「悩むことじゃないでしょ!」って(笑)。その日下さんの一言に背中を押されて、「よし、やろう!」と。
──「戯曲」はかなりリハーサルをした上で録るんですか。
尾形:実はこれ、相当録り直してます(笑)。
武田:夜中にスタジオに入って、「そこの間が違う」とかお互いに指摘し合ったりして(笑)。話してることがおかしいから、どうしても笑っちゃうんですよ。それで一からやり直しになったり。
尾形:NG集もけっこう面白いから、いつか出したいんですけどね。
──武田さんがボソッとつぶやく「剃毛アモーレ」とか「円陣アモーレ」とかがバカバカしくていいですよね(笑)。
武田:「剃毛アモーレ」の後に入る「テモーレ」っていう三橋の合いの手が個人的にはツボなんですけど(笑)。台本の叩きは宮野が考えてくるんですよ。
宮野:最初は「こういうのやろうよ」とみんなに言っても否定的だったんですよ(笑)。
武田:本番直前のバックステージという設定を宮野が考えてきて、それなら面白そうだからやってもいいかなってことになったんです。
尾形:でも、いざ録ろうって時に3、4ヶ月ぶりに台本を読んだら、これは酷いなと思って(笑)。よく読んでみたら内容が全然なかったので(笑)。
──「戯曲」がなければ二枚目路線で行くのも可能なのに、そこをどうしても入れてしまうのがHEREのHEREたる所以と言いますか(笑)。
武田:次のアルバムは自分たちの格好いい部分だけを押し出したかったはずなのに、やっぱりいろいろとやりたくなっちゃうんですよね。
尾形:それも込みで“CHAOS”なんですよ。2年前まで『PHOENIX』というロックオペラを定期的にやっていて、その芝居の要素をアルバムに入れてみたかったんですよね。
──僕はスネークマンショーが好きだったので、こういう試みは個人的にも大好物です(笑)。
尾形:ああ、スネークマンショーは凄く意識してますね。
宮野:僕は『青春アドベンチャー』みたいなラジオドラマも好きだったし、嘉門達夫さんや筋肉少女帯、米米CLUBとか、寸劇が入る音楽がルーツにあるんですよね。
尾形:インビシブルマンズデスベッドは一点突破型のバンドでしたけど、HEREでは自分たちのやりたいことを全部やってやろうと思ってるんです。音楽的なジャンルもそうで、メタルもあればダンス・チューンもある、パンクも歌謡曲もあるみたいな感じにしたいんです。今のロック・フェスも普通にアイドルが出たりしてジャンルレスだし、ひとつのバンド自体がジャンルレスでもいいんじゃないかと思って。長く音楽活動を続けていくなら、ひとつのジャンルにこだわるよりもいくつか選択肢があったほうがいいですしね。そういうスタンスになってから曲作りの煮詰まりがだいぶ減ったんですよ。いずれはブルースやファンクの要素も取り入れていきたいとも思ってますし。
──今回のアルバムを聴いても、今のHEREが何の制約もなく音楽と向き合えている無邪気さがよく伝わってきますよね。
尾形:高1の頃、自宅でカセットのMTRを使って録音してた感覚に近いものが今はあるんですよ。それくらいの新鮮さがありますね。
──アルバムの内容に引けを取らずインパクトのあるジャケットについても伺いたいのですが、この日本画は?
尾形:ジャケットは自分たちの写真にするべきだと考えていたんですけど、今回はなかなかいいイメージが思い浮かばなかったんです。ライオンと一緒に撮るとか、山積みにしたマーシャルの前で撮るとか、いろいろアイディアはあったんですけどね。そんな頃に、僕の田舎(北海道石狩郡新篠津村)の同級生のお姉さんが絵を描き始めたという話を聞いて。どんな絵を描いてるの? ってその同級生に連絡したら、LINEで絵の写真が送られてきたんです。その絵は今回ジャケットに使わせてもらったのとは違ったんですけど、クオリティがもの凄く高かったんですよ。よくよく聞いたら、北海道で今最も注目されている日本画家だったんです。
宮野:蒼野甘夏さんという女性の方で。