燃え盛る夏のようなハートで生きたい
──本作の白眉はやはり叙情性に溢れた大作「終わらない夏を生きて」だと思うのですが、これは人生を季節にたとえるならば、いつまでも燃え滾る夏の盛りのようでありたいというのが主題なんでしょうか。
OKI:まさにそういうことですね。この「終わらない夏を生きて」というワード自体は自分のなかで5、6年前からあったんですよ。ライブのMCでも「終わらない夏を生き続けるような人でありたい」と言ってみたり。自分の人生、まだまだ枯れ葉舞う秋みたいにはなりたくないし、燃え盛る夏のようなハートで生きたい。その思いをアニバーサリーのタイミングでやっと形にできたんです。
──OKIさん自身、夏は一番好きな季節なんですか。
OKI:好きですね。バイタリティに富んだ季節だし、ギラついた太陽が好きなんです。太陽を浴びるとパワーをもらえるので。それと、自分が広島生まれなのも大きいんじゃないですかね。広島と言えば夏のイメージがありますから。
──広島の夏と言えば、平和記念式典を即座に連想しますね。
OKI:そういうのが身近だったから、自分が生きていることの意識が子どもの頃から高かったと思うんですよ。青春というティーンエイジャーの青い春を生き続けたいわけではなくて、自分はその後の焼けつく夏を生き続けたいんですよね。ずっと現役のまま、ポックリ逝くまで夏のままで生きたいわけですよ。
──「今を刻み熱く生きろと響く」(「蒼き魂の詩」)、「悪くもないさ 生きてればこそ/何度でも笑える」(「WORLD IS NOT VAIN」)といった歌詞にも生への渇望が見て取れますね。
OKI:リスナーも自分たちと同世代で、みんないい大人になっているじゃないですか。家族や仕事、抱えるものがたくさんある。それは俺たちバンドマンも同じで、立場は違えど分かち合えるものがあると思うんですよね。そういう意味で普遍性のある楽曲を作りたかったんです。
──この30年のあいだにバンドにとってのターニング・ポイントがいくつもあったと思うのですが、そのなかでとりわけ大きな転機はどんなことでしたか。
OKI:ひとつ挙げるとするならば、やっぱり震災でしょうね。あれ以降、物事の価値観や人生観が大きく変わったし、生きることの意味、被災された人たちのために何ができるかを真剣に考えるようになりましたから。そういったことがビーツの音楽に凄く反映されるようになったし、音楽を通して何が伝えられるかを改めて考えるようになりましたね。
──そこでビーツが取った選択は、ロックンロールという力の沸き立つ音楽をやることだったと。
OKI:元気になれる音楽、なにがしかの力になれる音楽をやりたいということですね。
──去年も岩手県大槌町のロック・フェスティバルに参加したり、東北のライブハウスを精力的に回ったりするなかで、復興には程遠い被災地の現状を目の当たりにしていると思うのですが。
OKI:全くもって復興は進んでいないし、やるせない気持ちでいっぱいですね。大槌もやっと更地になって、盛り土が所々にある程度なんです。“もう3年”じゃなく、“まだ3年”なんですよ。被災地のみんなと交流していて感じるのは、心が疲れてきているなってことです。人間だから、ずっと気を張っていられないじゃないですか。最初の1、2年は極限状態だったからエネルギーをフルに燃え盛らせていたけど、3年が過ぎて、いろんな面において結果が出ていませんよね。いつまでこんな状態が続くんだ? という疲弊感は否めない。だから今は心を奮い立たせる音楽も大事だけど、心に寄り添うような音楽をやるべきなのかなとも思うんです。結局、人と人の繋がりで世の中は動いていくわけだから、自分たちみたいにもの凄く小さいレベルだとしても、できる範囲のことはやり続けていきたいんですよ。
──心が疲弊してしまう今だからこそ、ビーツのような音楽が必要とされるんじゃないでしょうか。
OKI:判断は委ねたいですね。聴けば元気になれるロックンロールを聴く気分がある時なら聴いてほしいし、今はちょっと勘弁してくれって時ならまたの機会でいい。
──30年のあいだにターニング・ポイントとなった作品はありますか。
OKI:特にないと言うか…全部と言えば全部ですね。どの作品でも自分なりにトライしていることが必ずあるんですよ。たとえば、パンキッシュな『STANDING STANDING』(1991年5月発表)の後に出した『ワイルドサイドの友へ』(1994年2月発表)はアコースティック・サウンドを基調とした作品だったから、そのギャップに戸惑った人が多いと思うんですよ。でも、それも自分のなかではひとつのトライであって、その2枚は断絶していないんです。ちゃんと繋がってああいう作風になっている。そうやって『NEVER STOP ROLLING』までずっと継続しているんです。
音楽を通じて人と関わることがバンドの醍醐味
──エンジニアの山口さんとの出会いはひとつの転機だったように思えますが。
OKI:それは確かに大きいですね。山口さんと最初に仕事をしたのはちょうど20年前、10周年の時だったんです。それからアルバムを3枚作って、また10年以上離れて、『さすらいの歌』(2009年4月発表)でまた仕事をお願いして。山口さんにはいつも俺が直接電話をするんですよ。「また仕事をお願いしたいんですけど、スケジュールはどうですか?」と。そのたびに「また作るんだ? 頑張ってるねぇ!」って喜んでくれるんですよね。それが凄く嬉しいんです。
──今回の『NEVER STOP ROLLING』でのOKIさんのトライとはどんなことだったんですか。
OKI:テーマとしては、さっきも言った通り普遍的で広がりのあるものを作るということ。聴く人それぞれの立場で“NEVER STOP ROLLING”、留まることなく流転していこうって気持ちを分かち合えれば最高じゃないですか。あと細かいことを言うと、楽曲によってミックスの方向性がけっこう違うんですよ。ごつい落とし方をした曲もあれば、かなりポップな感じに仕上げた曲もあるんです。
──ごつい落とし方というのは、頭の3曲ですか?
OKI:シングルの3曲ですね。頭の3曲はそれに比べるとキャッチーなんですよ。それと、SEIZIの2曲も。「ロックンロールの天使達」はソフトな印象を持つと思うんですけど、実はボトムが重いんです。そういう楽曲ごとのギャップをマスタリングで統括するわけです。それも上手くいったと思いますね。
──毎回新たなトライを設定してそれを乗り越えたとしても、また次のトライが出てくる。その積み重ねで作品を発表し続けている側面もありますよね。
OKI:欲張りなんですよね。「もっといい作品を作りたい」っていう願望が絶えずありますから。まぁ、ここ数年はスイッチが入っているのでリリースが続いていますけど、空く時は4年くらい空きますからね(笑)。レコーディングは密室作業だし、自分の内面の深いところまで入っていくじゃないですか。それに比べてライブは開放の時間ですよね。だから1ヶ月も空くとライブが恋しくてウズウズするんですよ。ツアー直前の今はもう限界に達してますから(笑)。
──30周年のアニバーサリー・ツアーということは、代表曲を織り交ぜた構成になるわけですよね。個人的には『NEVER STOP ROLLING』の収録曲をメインに据えたライブも見てみたいのですが。
OKI:それはそれでまた別にやりたいですね。ただ、まずは節目となるアニバーサリー・ツアーに重きを置きたいんです。今度のツアーはオールタイムのベストな選曲で臨むんですけど、このあいだ候補のセットリストをメンバーに配ったらドエラい曲数になったんですよ。ライブ何本分になるんだ!? ってくらいの(笑)。でも、それで日替わりのセットリストにしてもゴージャスなものになるだろうし、それもやっぱり30年のキャリアがあってこそですよね。『80年代BEATS SONGS』も「関東だけでやるなんて不公平だ!」って関西からリクエストをもらっていて、それも考えたいですし。
──ちなみに、『2000年代BEATS SONGS』をやる予定はないんですか。
OKI:一応、セットリストを組んでみたんです。それもかなり濃い内容ですよ。そういういろんな趣向のライブをやっていきたいですね。昔から言ってますけど、俺はバンド以外にやりたいことがないんです。他の生き方を知らないし、想像すらできません。
──OKIさんにとってバンドの醍醐味とは?
OKI:1人じゃないってことですね。みんなで音を出す、お客さんを含めてその音を分かち合う。つまり、音楽を通じて人と関わること。それに尽きますよね。自分1人じゃ生きられないし、常に人と関わっていたいんですよ。そのツールが自分にとっては音楽だったということです。
──地元・広島と新宿ロフトで行なわれる30年分のヒストリー・ライブは、見る側もやる側も感慨深いものになるでしょうね。
OKI:いろんな街から広島まで遠征してきてほしいですね。もちろん新宿ロフトにも。俺たちはロフトに対する思い入れが強いし、アニバーサリーだからどこぞのホールを借りてライブをやるんじゃなくて、新宿ロフトでヒストリー・ライブをやることに大きな意味があるんですよ。地方出身のバンドにとって、天下の新宿ロフトをホームグラウンドと呼ばせてもらえるのは凄く意義深いことですから。
──こちらこそ、そこまで言って頂いて有り難い限りです。何はともあれ千秋楽のロフトを含めたアニバーサリー・ツアー、楽しみにしています。
OKI:自分たちにとっても思い入れの深い曲がいっぱいあるので、出し惜しみすることなく精一杯やりたいですね。それでお客さんに喜んで帰ってもらえるようなライブにしたいです。日常から離れたところで心と身体をリフレッシュできる場としてビーツのライブを楽しんでもらえたら嬉しいですね。