Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューReguRegu(web Rooftop 2014年1月)

「よどみのくに」に棲む人形たちの夢の浮橋

2014.01.22

今、あなたの目前に広がる風景は、果たして現実なのだろうか。
この瞬間と並行して存在する別の世界があったとして、それを異界と言い切れるだろうか。異界こそが現実、ということはないだろうか。
ReguReguが紡ぎ出す映像作品を見るたびに思う。その純真で愛らしいフェルト人形の造型とは裏腹に、ブラック・ユーモアが随所に散りばめられた毒気たっぷりの物語は狂気と闇と不条理に満ちているが、そんなまぼろしの世界こそがReguReguにとっての「現実」なのではないかと。
我々が属す(と認識している)世界の内側と、外側。その境界線をReguReguは曖昧模糊にする。まるで錬金術師のように卑金属を貴金属に変える。その逆もある。
彼らがたくらむのは、夢と現を一転させる価値の転覆。2作目となるストップモーション・アニメーション集『よどみのくに』を観ると、そのたくらみを成就するための物語づくりの妙、撮影と編集の技巧がさらに研ぎ澄まされてきたのを実感する。
改めて言うまでもなく、ReguReguのものづくりは小磯卓也とカヨの手によるものだ。いろいろな動物の毛と骨を材料にした人形製作、ストーリー、セット、撮影、サウンドトラック。そのすべてを2人だけで生み出すのだから、究極のハンドメイド作品と言っていいだろう。手作業ゆえのぎこちなさ、駒撮りゆえのカクカク感もある。でもだからこそ愛おしい。手間暇を惜しまず、ありったけの愛情を注ぎ込むからこそ伝わるものがある。きっとあなたにも伝わるはずだ。創作に懸けるReguReguの限りない熱量が。毒薬のような痺れが。そして、彼らの描くまぼろしの世界が現実の世界をたやすく浸蝕するということが。(interview:椎名宗之)

僕らは結局、よどみに浮かぶ泡のようなもの

usagi_2.jpg──昨年末にギャラリー犬養で開催された展示会『よどみのくに展』の手応えは如何でしたか。

小磯このあいだの個展はDVDに収録された作品に出演した人形と、タイトルである『よどみのくに』に掛けて、とある国の洞窟で発見された架空の地底湖「アサム」に生息しているという新種の水棲生物を15体ほど、水族館風に解説のプレートをつけて展示しました。
標本ではなく生体を連れてきたという設定にしたため、多くが水槽に沈んだ状態だったのでいろいろと大変でしたが、たっぷり水を吸ったフェルト製の人形は、生きもの本来の重さが再現されているだけあって、ぐっと存在感が増していて面白かったです。もう、あとは命さえ吹き込めば夢の生物誕生です。自分たちが作ったものなのに、今まで体験したことのない生々しさにゾクゾクしました。
それと、面白いことがありまして。初日にふと適当につけた「アサム」という地名が本当にあったらどうしようと不安になり、検索してみたらば出てきたのが「アイヌ語の地名」というページで、アサムの意味が「底、洞窟などの奥」と書いてあって、あまりにそのまんまだったんでちょっと怖かったです。

──ReguReguは人形を売らない主義だから保管スペースの確保だけでも大変じゃないかと思うのですが、管理はどうしているのでしょうか。

小磯作品に登場した人形に対しては、経験をともにした盟友という気持ちでいるので、居間のガラス棚の中に大切に保管しています。
それ以外の人形もなるべく居間に飾って眺めていたいのですが、あまりに大きいものなどは、やむを得ず倉庫代わりにしている車庫の中に保管しています。
大変じゃないかと思われるかもしれませんが、自分の作った世界の中で生活できるというのは、実はとても幸せなことのような気がしています。

──その展示会で先行販売されていた2作目となる短編作品集『よどみのくに』ですが、愛らしいフェルト人形たちの表情や演技、物語の構成や駒撮りの撮影・編集に至るまで、前作『ゆめとあくま』と比べて格段の進化を遂げていると感じました。ご自身としては、どんなところが変化してきたと感じていますか。

小磯進化していると感じていただけたのなら、とても嬉しいです。
作品を作るたびに、何かしらの発見や、課題が出てくるので、それを次の作品に繋げていくことで変化してきたのだと思います。
その変化は、たとえば人形の骨組みのことだったり、編集ソフトの使い方のことだったり、本当に些細な部分だと思うのですが、そういう変化を少しずつ重ねていって、進化していきたいです。

sora1.jpg──『よどみのくに』というタイトルにはどんな思いを込めたんですか。

小磯子供の頃、学校で習った『方丈記』の「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」という始まりが妙に強く心に残っていました。最近は不幸が続いて無常観に包まれながら生活しているので、この一節がよく頭に浮かんできます。
僕らは結局、よどみに浮かぶ泡のようなもの。しょうがないのでその寂しさをできるだけ愛おしみたいです。

──収録された各作品はどんな基準で選ばれたのでしょうか。

小磯5つの短編は2011年から2013年の終わりにかけて作ったもので、劇団どくんごの野外テントをお借りして『恐怖短編映画まつり』をやらせてもらったり、今はなき雑貨屋の魔女卵のイベントや血と雫の札幌公演の時に上演したものです。
3つのミュージック・ビデオはバンド側からの依頼があって作らせてもらったもので、当然自分たちのものではないと思っているので、今回作品集に収録させていただいて深く感謝しています。
意識しているわけではないのですが、ちょうど3ヶ月おきくらいに上映や製作のお話が舞い込んできて、ほとんど休みなしに作っているうちに前のリリースからちょうど2年後に作品集としてまとめるのに丁度いい時間になっていました。
それを1枚目の作品集を出してくれたセクレタトレイズの須永さんが待っていてくれて、またしても世の中に出してもらえました。
 

作品を作れば作るほど、小さなナイフの刃は磨かれていく

youth.jpg──今作に登場する人形の中で、とりわけ愛着のあるキャラクターは?

カヨ一番時間をかけて製作したという意味では、『youth パラレルなユニゾン』に登場した空中ブランコ乗りの少年に愛着があります。彼の服のデザインや、髪型や表情、ずいぶん悩んで賞味1ヶ月くらい時間をかけてしまいました。
「youth〜」を作る前に、2人で決めたことがあったんです。吉村(秀樹)さんはまだ生きている、このミュージック・ビデオの仕上がりをチェックしてOKかNGかもちゃんと言ってくれる、と思い込むということ。
だから、吉村さんのOKが欲しくて、いつもよりずっと時間をかけて、気持ちを込めて作りました。

──細部の小道具で特に深いこだわりを持って制作したのはどれでしょうか。自由に動き回れるように磁石やピンといった様々な工夫が施された靴もそのひとつですか。

カヨそうですね。靴や骨組みなど、人形が自由に動き、かつ留まっていられるような細工をするのに、いつも苦心しています。また、言葉を持たない人形たちのキャラクターがはっきり出るように、彼らの服装や髪型にもこだわるようにしています。特に「兎たちの囁き」では、5体もの人形を新たに作る必要があり、その一人一人に自分なりの性格を持たせたので、それが観客にも伝わるように考えながら作りました。
これはとても楽しい作業で、特に意地の悪い子どもたちや、それとそっくりの父親など、今までになかったキャラクターを作るのが面白かったです。

usagi.jpg──作品によって違うと思うのですが、着想とテーマが定まった時点で創作に取りかかることが多いのでしょうか。

カヨすべての作品は、いつ、どういう状況で上映されるのかが最初に決まっているので、その状況に応じたテーマのようなものは自ずと決まってしまいます。たとえば『恐怖短編映画祭り』というイベントで上映するものなら当然「怖い話」がテーマになる、といったように。そしてテーマが決まったら、主要な登場人物を決めてしまう、という場合が多いです。
「空の切符」、「森の贈りもの」、「兎たちの囁き」、「夜のゲーム」などに出演した人形たちのいくつかは、もともとギャラリー犬養での個展のために作った人形でした。これを出演させようというのを最初に決めて、テーマに沿った「アテ書き」をするのです。この子はきっとこういう子だ、こういうことをするに違いない、と想像力を膨らませていって、形にしていく。このほうが、何もないところから作るよりも作りやすかったりもします。
逆に、「こゆび泥棒」や「夜のあしおと」は、物語だけが先に浮かんでしまったので、その物語に沿った人形を作りました。
また、ミュージック・ビデオの場合は、いただいた音源を何日もずっとリピートでかけて、何度も何度も聴くことから始めます。そうすると自然に物語が浮かんでくるのです。

──創作に向かう動機やモチベーションもケース・バイ・ケースだと思いますが、見る人の心に良い傷をつけたいという発想は今も変わりませんか。

小磯2人のしたいことを合わせると、2人にとって面白いものが生まれます。それはまるで小さなナイフのように、かわいいけどちゃんと危ないです。
作れば作るほど、その刃は磨かれていく気がするので、どこまで鋭くなるのか知りたくて作っています。
 

このアーティストの関連記事

ReguRegu 2nd DVD
よどみのくに

SECRETA TRADES STD-17
定価:2,500円(税込)
2014年1月22日(水)発売
●トールケース(初回ポストカード封入)
●片面1層/MPEG2/リニアPCM/16:9/リージョンフリー

amazonで購入

【収録内容/全8編/74分収録】
1. 夜のあしおと(11:21)
2. 兎たちの囁き(11:16)
3. 森の贈りもの(14:33)
4. こゆび泥棒(14:01)
5. 空の切符(10:18)
6. 夜のゲーム 〜血と雫 Je prie pour que la goutte ne tombe pas MV〜(3:27)
7. 夜を作る 〜血と雫 Je prie pour que la goutte ne tombe pas MV〜(3:12)
8. youth パラレルなユニゾン 〜bloodthirsty butchers MV〜(5:38)

【ReguRegu BIOGRAPHY】

札幌在住の小磯卓也、カヨによる2人組クリエイター。
2007年より自作のフェルト人形を用いた駒撮りアニメーションの製作を開始。劇中の音楽も担当。
2010年、ブラッドサースティ・ブッチャーズの吉村秀樹に見出され、ミュージック・ビデオ「ocean」と「curve」を製作。オルタナティヴロック・シーンの音楽ファンを中心に高い評価を受ける。
同年、渋谷O-nestにて初の個展を開催。2011年、初の作品集DVD『ゆめとあくま』をSECRETA TRADESよりリリース。六本木Super Deluxeにてリリース・イベントを開催。
2012年、札幌国際短編映画祭、渋谷UP LINKにて作品が上映された。

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻