味の嗜好も音楽の志向もシンプルになった
──「Caravan」も「When The Saints Go Marching In」同様にジャズの有名曲ですが、ブラサキらしいえぐさと豪快さが全開でいい仕上がりですよね。
甲田:「Caravan」は去年くらいからのライブのレパートリーで、Cohがライブ用にアレンジしたものを練り上げて作りました。ウチのメンバーはみんなデューク・エリントンが好きなんですよね。
──この「Caravan」が好例だと思うんですが、決してマニアックに行きすぎないところがブラサキの一貫した良さですよね。ビッグ・ジェイ・マクニーリーも認めるその技量とセンスは玄人筋にも充分アピールできるレベルですけど、ジャズやリズム&ブルースに詳しくない人でも存分に楽しめる大衆性がちゃんとあるという。
甲田:余りマニアックになりすぎるのはイヤだというのが今回の曲作りの段階でもあったんですよ。ジャズっぽい曲でもモダンな方向へは行かないようにして、できればスウィング・ジャズっぽい感じ、行ってもビバップくらいまでかな、みたいな線引きがあって。やっぱりロックンロールの方向へ行く過程の音楽で留めておきたいんですよね。耳馴染みがいいし、芸術じゃないし、粗野な部分もあるし。それが大衆性に繋がるし、立ち呑み感が出ていいと思うんです。立ち呑み、凄く好きなんですよ(笑)。ビッグ・ジェイもそうなんですけど、僕の好きな黒人のサックス吹きって、レコードのジャケットを見るとみんな立ち呑み屋の暖簾をくぐってきそうな顔をしているんですよね(笑)。昔の黒人の顔って、そういう大衆性があるのかな? とか思ったりして。
──ブラサキがアカデミックな方向へ走ることはまずないと?
甲田:走りようがないし、芸術には興味がないですね。ビッグ・ジェイもエリントンもただ音楽を作っていただけで、周りの人たちが勝手に芸術扱いしたんじゃないかと思います。ビッグ・ジェイなんてまだ生きているのに、昔使っていたコーン製のテナー・サックスがスミソニアン博物館に展示されているんですよ。国が歴史的な重要人物だと認めちゃっているわけです。まだ死んでないっていうのに(笑)。
──今作を甲田さんお得意の料理にたとえると、どんなものになるでしょう? 料理店でもいいんですけど。
甲田:ビストロかもしれませんね。…いや、それはちょっと格好良すぎるな(笑)。強いて言えばバルですかね。多分、ファミレスではないと思うんですよ。
──高価なヴィンテージ機材を使っていますからね(笑)。
甲田:素材はいいものを使っているし、味もちゃんと美味いし、それを極力安く提供している店…やっぱり大衆居酒屋とか、そんな感じですかねぇ。
──大衆的な料理を提供しているんだけど、ちょっと変わったスパイスを隠し味として使っているような心憎さもありますよね。
甲田:塩と胡椒で焼けばいいところを、若干クミンが入っているとか(笑)。それは確かにありますね。全然関係ないですけど、カキのアヒージョを作ってみたら凄く美味しくて、最近はそればっかり作って食べているんですよ。調味料はオリーブオイルとニンニクと塩だけだから何も手は込んでないんですけど、そのシンプルな味が凄く良くて。
──味の嗜好も音楽の志向もシンプルに特化しつつあるわけですね(笑)。
甲田:料理も音楽も過度な味つけは好きじゃなくなりましたね。去年よりも今年のほうがサックスは上手いはずだし、技量が上がっていることもあるんでしょうね。細かいことを言うと、今年に入ってからサックスに使うリードを替えたんですよ。それでよりワイルドな音を出せるようになったことも大きいですね。
──インストを主体とした音楽だし、ビッグ・ジェイ・マクニーリーのお墨つきも得たことだし、海外で勝負したい気持ちはありませんか。
甲田:具体的なプランはまだないですけど、アジア圏も含めていつか海外で演奏したいですね。海外に限らず、やりたいことがまだまだたくさんあるんですよ。今回のアルバムで音作りもかなり理想型に近づいたので、ここまで来たら後はダイレクト・カッティングのレコーディングをしてみたいし、さっきも話した通り歌のレパートリーをもうちょっと増やしてみたいし、機会があればいろんなミュージシャンとコラボレーションもしてみたい。もうとにかく、今時こんな一度消滅した音楽を至って真剣に取り組むバカがいるんだってことを、国内外問わず知らしめたいんです(笑)。
──ブラサキの場合、海外での支持を受けて逆輸入で火がつくケースも充分に考えられると思うんですが。
甲田:自分たちの音楽が世界に通用する自信はありますよ。むしろ気に入ってくれる人は日本より多いかもなって気がしないでもない。海外に打って出て、「なんでお前らみたいな日本人がこんな音楽をやっているんだ? バカか!?」って言われたいですね。その時は「はい、バカです!」って答えながら堂々と乗り込んでやりますよ(笑)。