漫画家・羽生生純、古泉智浩、タイム涼介、歌人・枡野浩一、注目の漫画家たちが自らメガホンを取った異色のオムニバス映画『ポーラーサークル 〜未知なる漫画家オムニバス』が、12月7日(土)よりオーディトリウム渋谷にて5日間限定レイトショー公開される。
劇場公開を記念して、羽生生純、タイム涼介、枡野浩一と、蔭山プロデューサーが語る『未知なる漫画家オムニバス』対談!!
※古泉智浩氏はスケジュールが合わず不参加。
(interview:宮武孝至/取材場所:南阿佐ヶ谷「枡野書店」)
さらに、11/15(金)より公開前日の12/6(金)までの4週に渡り『漫画と映画のはざまで!?』をテーマに、web Rooftopにてリレーコラム形式で4監督の製作秘話をお届けします!
羽生生純×古泉智浩×タイム涼介×枡野浩一4週連続リレーコラム
キッカケは「漫画家・古泉智浩」と「よるひる映研」!!
——今回、漫画家オムニバス映画という企画ですが、この4人が集まったきっかけは?
羽生生純(以下、羽生生):漫画家の古泉智浩さんが最初に新潟で映画のワークショップをやっていて、参加者は新潟で自主制作している人だったんですが、それを東京で知り合いの漫画家だったり、編集者だったり、モノを作っている人たちを集めてやったらどうかっていうのを阿佐ヶ谷の「よるのひるね」でやっていまして。
俺は、新潟で作ったやつを「よるのひるね」で上映したイベントを見に行って、高校時代8mm映画を撮っていたので、その頃のフワフワと映画を撮って遊んでいた事を思い出して再燃したって感じです。阿佐ヶ谷で開催した1回目から参加させて貰って、その時は枡野さんと、鈴木詩子さんと、5人位でした。作ったものを上映して、撮った人が解説していくまでがワンセットで、その上映会にタイム(涼介)さんが来てくれて、芋づる式に増えて行ったんです。「こんなに敷居が低いんだったら俺でもできる」って!
タイム涼介(以下、タイム):これならできるという感じを出すのが古泉さんはとても上手くて、入った後、濃くやりたかったら各々勝手にっていうね。
羽生生: テクニックの敷居を一旦下げて、とりあえず最後まで編集して、音も付ける。形にしてから、皆であーだこーだ言うっていうのが「よるひる映研」のパッケージなんです。
タイム:凝り過ぎて、途中で頓挫っていうパターンが結構あって、そこをやりきる為に機材も簡単な物にして、1分〜5分位の出来る範囲で1ネタ位の作品にしようと。
羽生生:その辺りは、「よるひる映研」のDVDでも対談しているので、チェックしてもらえれば(笑)!
——そこで「ささやか映画」というコンセプトが出て来たんですね。
タイム:「ささやか映画」と言いつつ、今となっては古泉さんもムービー一眼のカメラを使ってますけどね(笑)。
羽生生:やっぱり回を重ねる度に、段々やりたい事も増えていって。
タイム:「見て下さい! この暈け」って(笑)。
枡野浩一(以下、枡野):ホント僕だけですよ! ずっとiPhoneで、機材も凝らずに撮ってるのは!映像を撮ってみると編集が大事だって気づくんですけど、僕は編集が大嫌いだという事が分かって。ドンドン編集しなくてすむような作品にしていったあげく、遂に今回の作品に関しては、編集をプロに任せてしまいました(笑)!出会った事が凄くて、瑣末な事で困っていたのをツイッターで呟いたら「私がやりましょうか」と言ってくれたのが、映画『ボクたちの交換日記』他を編集している小堀由起子さん(※小堀さんが編集で参加している本広克行監督作品『Regret』(https://www.youtube.com/watch?v=bORgOShTVT4))。今回もそうですが、私の作っているもので、編集が必要なものは全部プロの小堀さんにお願いしているという大変図々しいアマチュアなんです。
タイム:ちゃんと枡野さんの作品の場合はiPhoneで撮る事に必然性があるんですよ。
監督する漫画家たち=演技する漫画家たち
——「よるひる映研」の制作の流れってどういうものなんですか?
羽生生:一応、「よるひる映研」として規定みたいなものはあるんですけど、本業で締切がある仕事をやっている方ばかりなので、自分のやれる範囲で自分のやりたい事を突っ込みつつ、皆で上手いカンジにやろうという事で。1日目に1人持ち時間30分で撮影して、2日目に荒編集したものを上映、皆で意見を出し合って、3日目に5分以内のものを撮るんですけど、その脚本を書いて来た人はそれを皆に見せてどう撮るかブレインストーミングして、3日目に1人持ち時間1時間ぐらいで、お互いの作品に出演して実際撮影するっていう流れです。で、その1ヶ月後位に上映会をして、撮影した人が説明も行うんです。
タイム:参加者もだんだん増えてきて、お客さんの半分以上が参加者みたいになってきているんですよ。
羽生:今では12人ぐらい。漫画家以外でも、編集さんや、人形アニメの作家さんだったり、いろんな方がいらっしゃっていますね。
枡野:最初の頃は、女優さんとか俳優さん専門の方が来ていて、薄謝ですけどお礼をしていたんですけど、もはやそれも無くなって。自分も出て、自分も撮るというのが「よるひる映研」の特殊な所で、監督も出演するっていう前提なんです。だから、割と役者として面倒くさい事をお願いしてしまった人に、逆に頼まれると断れなくなるっていう駆け引きが静かに繰り広げられているんですね。
羽生:そう!ギブアンドテイクでなんとか皆で回して行くっていう。
枡野:その過程で、漫画家さんたちの演技がすごく上手だという事に気づいたんです。タイムさんもそうなんですけど、ギャグ漫画家の方たちがとてもナチュラルな演技をするんですよ。私、演劇を見るのが大好きで、静かな演劇系の人たちをいっぱい見ているんですけど。
タイム:僕だけナチュラルじゃなくないですか(笑)?
枡野:(笑)ワザとらしいにしても、格好つける演技を上手にやったりとか、はしゃぐとかは、凄く上手なんですよ、タイムさん。ホントにそれが楽しくて、自分の映画に漫画家さんたちに出てもらったのは、その面白さを伝えたいというのがあって。監督されている皆さんに出て頂いた上に、チンピラ役をやらせるととても上手な宮下(拓也)さんという方に出て頂いたり、私の初めての作品でも素晴らしい演技をしていた鈴木詩子さんに出て頂いたりとか。作家の中村うさぎさんを中心人物にしたSFフェイク・ドキュメンタリーなんですけど、その魅力を伝えたいですね。
タイム:宮下さん以外の漫画家さんは、役者になろうとは1ミリも思ってないと思うんですが、演じる事で、演じる側の気持ちが分かると、監督もやり易くなるというのはありますね。
羽生生:漫画家って出たがりじゃないんですよね。
枡野:川崎タカオさんとかも出たがりじゃないのに、とても上手で、演技するとハニカミが面白かったりするんですよ。
タイム:多分漫画描いている時にキャラクターに対して何らかのディレクションをつけているから、少し予想はついている所があるんでしょうね。
羽生生:あと、皆で持ち寄ってやるっていう縛りがあって、そこで「しょうがねぇからやるか」って所で演技をやるんですけど、しょうがないからって所が逆に面白く転がって行くって事もあるんでしょうね。
お金を貰う事! お客さんを楽しませる事!!
枡野:あと、漫画家さん達は、普段漫画を作っているだけあって、面白がらせようという意識がとても強いですよね。これが大事で、これまで自主映画を意外と沢山見て来てしまったんですが、地獄のような作品が多くて(笑)! 長くて、本人だけが面白がっている作品が世の中には沢山あって、芸術ではあるかもしれないけれど、そんなのばかり見せられてもっていうのもありますよね。参加されている方たちは、基本的にエンターテイメントっていう意識があって、文学よりの漫画を描いている方達もいるんですけど、漫画という所で、人を楽しませないといけないという使命を感じている方が多いんだと思います。
羽生生:基本的に皆、商業作品として作ったものを売る事で成立させているので、最低限面白がらせたり、何か引っかかるものを作ろうという意識は映画にも反映されていると思います。
枡野:お金を貰う事って大事で、私のやっている短歌という世界ではお金が動かないんですよ。自費出版した短歌を配って読んで貰うっていうのが普通なんです。私はそれが嫌で、商業出版っていうものにこだわってきたんですけど、多分漫画家さんは、小説家よりも更にお金を貰うって事に意識的だと思うんですよ。ただ、「よるひる映研」って今まで、お客さんにお金を貰って作品を見せるという事を熱心にやって来てなかったんで、そこは今回初めて問われると思うんですね。
羽生生:そうですね。
枡野:今回ポーラーサークルというレーベルで、インディーズでありながらも、お金を頂いてやるっていう事に、凄く意味があると思っているから、今回の成功失敗は、今後の我々に凄く影響があると思っていて(笑)。「よるひる映研」の危機になる可能性もあると思っているんですよ。ただ、成功させる為には出来る事をやるべきだし、漫画家さんも私も、宣伝・配給や諸々の事を含めて、知恵を出し合うという事をやっていて、もしかすると、映画専門の方だと気づかないような事ってできないかなって思っているんです。意外な盲点ってあるはずで、映画業界自体もそんなに元気な商業ではないと思うので、風穴を空けるような事はできなくても、「意外な盲点だったね」とか、「このささやかさで良いのか」とか、「こんな所にお金かけずに、こんな事で良かったんだね」っていう事が出来ればと思っています。例えば、iPhoneで映画を撮っていいんだとか。飲み友達の(中村)うさぎさんが面白いから出てもらおうとかっていう事だったり。あと、私が歌人なので、短歌の宣伝をするための映像にしてしまおうと思っているんですけど、そういった自分の欲望みたいなものに忠実にやって行く事だったり。恐らく「短歌を必ず使おう」なんて、他の映画監督は思わないと思うんですけど、そういった、ならではのものは大事にしているんですよね。
羽生生:あと、参加されている漫画家さんたちも、そんなにメジャーではない、何とかギリギリでやっている、言ってしまえばオルタナティブな立ち位置の方ばっかりで、そこを何とかパッケージにして、どう見せるかによって強みが出てくるんじゃないかと思っているんです。