吉村の念願だった『kocorono』のアナログ盤化
──本作の収録曲からミュージック・ビデオが3本も制作されたのも大きなトピックですよね。『kocorono』の監督を務めた川口潤さんが「デストロイヤー」を、「ocean」と「curve」のミュージック・ビデオを制作したReguReguが「youth〜」を、△時代のブッチャーズと親交のあったJimbo Matisonさんが「ディストーション」をそれぞれ手がけていて。
射守矢:CDが出ることになって、ミュージック・ビデオを作れるのかな? なんて俺は思ってたんだけど、ナベちゃん(マネージャーの渡邊恭子)のほうで構想がすでにあったみたいでね。バンドと関わりのあるクリエイターの誰か1人にお願いするよりも、特に関わりの濃い複数のクリエイターに頼んだほうが面白いんじゃないかって。1曲を3人で作るよりも、思い切って3曲作ろうって話になってね。「そんなに作って予算は大丈夫なの?」ってキングのスタッフに訊いたら「頑張ります」って言われたんだけど、結局頑張るのはクリエイターの人たちなんだよね(笑)。川口君も「頑張るのは我々なんですけどね」って言ってたし(笑)。
田渕:「ディストーション」はまだ見てないんですけど、「デストロイヤー」も「youth〜」も凄くいいですよね。「youth〜」はフェルト人形のクオリティが着実に上がってるし、人形の表情が凄く活き活きしてるんですよ。
──川口さんとReguReguの人選は納得なんですが、Jimboさんとはどんな方なんですか。
射守矢:もともとはALL YOU CAN EATっていうバンドのベーシストで、彼らが20年くらい前に来日した時に知り合ったんだよね。当時はちゃんとした仕事にはなってなかったと思うけど、クリエイター志望だったのかな。俺たちがアメリカへ行った時はJimboの家に泊めてもらったりしてさ。もう随分と会ってないけど、友達だったんだよ。
小松:多分、吉村さんもその後はつながりがなかったと思うんですけどね。今回のことがあって、Facebook経由でJimboが俺に連絡をくれたんですよ。何かしら自分にやれることをやらせてくれないかって。それで段ボールの動画を作って送ってくれたんですよね。
──今回はこの『youth(青春)』と一緒に『kocorono』のアナログLPも発売されますが、このアナログ盤化は吉村さんの長年の希望だったそうですね。
小松:そうなんですよ。射守矢さん、名越(由貴夫)さんと一緒にアナログのカッティングに立ち会ったんですけど、凄く面白かったですね。
射守矢:まさにいいちこに続くオトナの工場見学だったよね(笑)。俺も詳しいことはよく分からないんだけど、アナログの音作りはこっちを立てるとそっちが立たない、そっちを立てるとこっちが立たないっていうのがはっきりしてるみたいなんだよ。だからある程度は現場の職人さんにお任せだったね。
小松:デジタルみたいにEQで細かくこの音を上げるとかはできないけど、アナログ独特のやり方があるんですよ。あそこまで行くといいか悪いかじゃなくて、好きか嫌いかって感じですよね。
──オリジナルのCDとはだいぶ音が違うんですか。
小松:もう全然違うと思いますよ。それも好きか嫌いかなんでしょうけど。面白かったのが、カッティングされたサンプル盤って普通のLPよりもちょっと大きいんですよね。そのサンプル盤を持ち帰って家で聴いてみたら、回転するたびにプレーヤーの角に当たってウーン、ウーンってヘンな音が鳴るんです(笑)。でも、ウチにある安いプレーヤーでもいい音と言うか好きな音なのがよく分かるんですよね。
射守矢:そうやって確認用のテスト盤を切ってくれるわけ。それで良ければこのパターンで本チャンを切りますよっていうさ。工場でテスト盤を切ったところで一度聴かせてくれるんだけど、やっぱり音が良く聴こえるものなんだよね。きっと切りたてで新鮮っていうのもあるんじゃないかな。
──魚介類じゃないんですから(笑)。名越さんは現場の方にどんなリクエストをしていたんですか。
小松:音量と音の歪みのバランスを気にしてましたね。音量を上げすぎると歪みが大きくなっちゃうみたいで、射守矢さんが言うようにこっちを立てるとそっちが立たないんですよ。だから一度歪ませてはみたものの、ちょっと歪みすぎということで音量を戻したりして。まぁ、そこは職人さんの技術で上手いこと仕上げてもらいましたけど。
──だけど180g重量盤の2枚組とは贅沢な作りですよね。しかもside-Dは「12月」の後に例の無音が延々と続くわけじゃないですか(笑)。
射守矢:無音の溝がずっと刻まれてるっていうね。こんな贅沢にレコードを作っていいのかと思ったもん(笑)。
小松:もったいないですよね。いっそのことside-Dだけ音質を上げて45回転にすれば良かったのかもしれない(笑)。でもホント、アナログの音っていいなと純粋に思ったし、作れて良かったですよ。これが売れて、キングさんがゆくゆくは『youth(青春)』をアナログ盤で出してくれることを期待したいですね(笑)。
射守矢:多分ね、この『youth(青春)』というアルバムはエジプトのファラオ並みに我々の末代まで喰わせてくれるはずだから(笑)。
田渕:うーん、それはどうだろう?(笑) その末代も凄く短かったりして(笑)。