穴に合うネジは自分たちで作るしかない
──今度のアルバムはグッと真に迫る音像でありながら薄い膜が間に貼ってあるようでもあり、迸る熱量を感じる一方で清涼感を全体的に感じたり、如何にもブッチャーズらしい決して一筋縄では行かない作品だと思うんです。それを吉村さん自ら「最高傑作の音像」と語っていたのは、皆さんとエンジニアの方々が吉村さんの意図するところを適宜に汲み取っていたからこそなのでは?
小松:吉村さんが理想とする音をエンジニアに伝えるのが凄く難しいんですよ。吉村さんの言葉を額面通り受け取っても微妙にニュアンスが違ったりするし、清志君との呼吸が合うまで凄く時間が掛かるんです。清志君は清志君でアーティスティックなところがあるし、吉村さんと違う方向へ行くと戻ってくるまでが大変なんですよね。こっちはその吉村さんと清志君のせめぎ合いみたいなものをただ見守るしかないんです。これは俺たちにも言えることなんですけど、吉村さんの言ってることが全然分からない時もあるし、多分こういうことを言いたいんだろうなって汲み取る時もあって、それをそのままやればいいのかと言えばそうでもない。吉村さんはずっと悶々としたままだけど、その意向を推し量る俺たちまでもが悶々としちゃうんです(笑)。まぁ、仕方ない面もありますよ。鋲付きベルトの鋲をどこかから買ってくるんじゃなくて、どうやってその鋲を作るかってところから始めるようなバンドですからね、ブッチャーズは。
──「そこら辺にあるようなパーツを工場で組み合わせただけみたいな音楽が多いけど、ブッチャーズはネジ1本から自分たちで作ってるっていう感じ」とかつてアイゴン(會田茂一)さんも言ってましたよね。
小松:既製品のネジじゃダメなんですよ。その穴に合うネジは自分たちで作るしかないんです。
──それにしても、言わずもがなですが収録された全10曲とその構成は掛け値なしに素晴らしいですね。どの曲も瑞々しく冗長なところが皆無で、淀みなく流れていく構成にも必然性を感じます。
田渕:それは前半の畳み掛けるような流れの印象があるのかもしれないですね。
──「アンニュイ」のようにアンサンブルと歌をタイトに聴かせる短い曲で締めるのも粋に感じました。
田渕:「アンニュイ」は歌がちょっとしかありませんからね。構成に関して言うと、曲を飛ばすと“マイナスカウント”が聴けなくなっちゃうんですよ。
小松:「アンニュイ」は、曲としては割と昔のブッチャーズっぽいんですよね。
射守矢:吉村はああいうフレーズの曲が好きなんだよ。キュッとした感じって言うか、ちょっとスカスカな感じって言うかさ。昔で言えば「ROOM」みたいな曲。それをあえてやらないようにしてた節があると俺は感じてた。いっときそういう曲が溢れた時期があったから、そこからあえて離れたんじゃないかな。だから俺がフレーズの曲を出しても吉村は「うーん、ちょっと違うな」って感じだったんだけど、それは意図的な判断だった気がする。
小松:吉村さんの唄い方も、「アンニュイ」だけ真っ直ぐに張り上げて唄ってますよね。メロディが揺れ動くような唄い方じゃなくて、ワンコードのまま行くって言うか。それが昔のブッチャーズっぽいんですよ。
──その辺りが“まだまだアルヨハードコア!”だったんですかね。『〜無題』の時は「自分の曲が多くて“射守矢色”が出せなかった」と吉村さんが話していましたけど、今回は射守矢さん主体の曲があったんですか。
射守矢:いや、特にないよ。みんながみんなどっぷり曲作りをしたんじゃないかな。ここ数年はずっと俺が主体って曲はないから。
田渕:主体って言うか、誰のアイディアを元にしていくかっていう曲の作り方なんです。それで言うと、インストの「Techno! chidoriashi」は射守矢さんのアイディアから始まった曲ですね。
射守矢:3拍子で回していく6拍くらいのフレーズがあって、それを4拍子で追いかけていって、どこかでドッキングしたら面白いなくらいの発想だったんだけどね。採用されなくても別にいいかなって思ってたんだけど、インストだったからなのか、どうやら“予選落ち”は免れたみたいだね(笑)。
──なぜに“Techno”なのかは、吉村さんのみぞ知るですか?
射守矢:うん、さっぱり分からない。
田渕:“chidoriashi”とセットなんじゃないですかね。この2つの単語が対比するものなのかな? どうなんだろう?(笑)
──ひさ子さんのアイディアが元になった曲というのは?
田渕:もうよく覚えてないですね。「アイディアを持ってきたんです!」みたいなことはなくて、誰かがスタジオでポロンと弾いてるフレーズを吉村さんが「それいいね」って採用するんですよ。自分の場合はそうですね。「それ、もう1回弾いてみて」みたいな感じで。
バンドを続けてきた中で大きな括りとなる作品
──「ハレルヤ」のサンバのように跳ねるビートは、ブッチャーズにしては一風変わった試みのように感じましたが。
田渕:サンバ!?(笑) そういう捉え方はしてなかったですね。
射守矢:ずっと16ビートだからかな? まぁ、最後までドコドコドコドコ鳴ってる珍しい曲ではあるよね。フレーズを聴いて小松が当てたドラムが凄く良くて採用になったんじゃないかな。ただ、ずっと16のままっていうのもさ、「俺、ベースだよ?」って思わず言いたくなったよね(笑)。単音で16を弾くのは別にいいんだけど、これが和音だったら聴きづらいだろうなと思って、それをどうやれば聴きやすくなるのかを俺なりに考えたんだよね。
小松:ドラムで16をやるってことより、ベースで16をやるっていうのがまず珍しいんじゃないかな。ドラムの16なら今までも「KARASU」とか「nagisanite」みたいな曲がありましたからね。ベースが16でドゥグドゥグドゥグ…っていうのはあまりなかったし、俺の中ではレッチリっぽいイメージがあったんですよ。
射守矢:俺はそれより前の世代でKISSを連想したけどね(笑)。
──「デストロイヤー」は吉村さんが楽曲完成時に「史上最高にポップな曲!」と語っていたそうですが、ブッチャーズの音楽は一貫してポップな親しみやすさがあると思うんです。強いて言えば「デストロイヤー」は史上最高に炭酸のシュワシュワ感があると言うか、この尋常ならざるキラッキラ感は一体何なんだ!? という印象なんですよね。
射守矢:まぁ、一口にポップと言ってもいろんな捉え方があるだろうし、吉村にとって何がポップなのかは分からないよね。
──それを言うなら、『kocorono 完全盤』に収録された「8月」の別バージョンが「俺にとってのサイケ」と吉村さんから聞いたことがあるんですけど、それも一般的な意味でのサイケとは違いますよね。
射守矢:あえて言えば、ハードコアな部分を感じ取ってもらうためのポップと同義語なのかな。
──『youth(青春)』というアルバム・タイトルはどんな捉え方をしていますか。「youth〜」という楽曲はありつつも、僕は去りゆく夏の夕暮れ感が漂う「デストロイヤー」の世界観がそこに投影されているように思えるのですが。
射守矢:どうなんだろうね。アルバムのタイトルを決めたのは多分マスタリングの時だったと思うんだけど、曲のタイトルをそのままアルバムのタイトルにしたということは、それだけ「youth〜」という曲に重きを置いたってことなのかな。そこにカッコで“青春”と付けた真意は今となっては分からないけど、吉村が音楽と出会ってから今までずっとバンドをやり続けてきた中で大きな括りとなる作品が出来たことの自負があったのかもしれないね。集大成って言うと大げさだけどさ。ホントのところは分からないよ? だって、俺がそんなことを言ったところで「そんなこと全然考えてねぇよ!」とか言われそうでしょ?(笑)
──確かに(笑)。4人がライブで演奏した最後の曲が「デストロイヤー」だったなんて出来すぎた話にも思えますが、その曲を始め「サイダー」や「ディストーション」、「コリないメンメン」以外にも今回のアルバムの収録曲をライブで体感したかったですね。
射守矢:他の曲をライブでできないっていうのは非常に心苦しいよね。ずっといい感じで練習してたからさ。
──たとえば「レクエイム」の小松さんのダイナミックなドラムを聴くと、あれを生で聴きたかったなと心底思うんですよ。
小松:家にドラムセットを持ち込めるならいつでも叩きに行きますよ、迷惑でなければ(笑)。
──じゃあ、ギャラを貯金しておきます(笑)。もし「youth〜」をライブでやることがあったなら、「ocean」や「燃える、想い」の系譜に連なる曲になったのでは?
射守矢:ね。ライブでやってみたかったよ。
小松:でも、意外と手こずったりして(笑)。「アンニュイ」みたいな曲は意外とやるのが難しいと思いますよ。聴いた感じは昔みたいにストレートな曲だけど、実際に叩いてみると聴いた感じとはだいぶ違うから手こずりそうですね。「デストロイヤー」はスパン!と行くストレートさがあるけど、「アンニュイ」はそれとはまた違ったストレートさなんですよ。
──ジャケットの絵は、相反する色と力強い筆致で描かれた躍動感に満ち溢れた作品ですが、これはどなたが手がけたものなんですか。
射守矢:しょうぶ学園の濱田幹雄さんという人にお願いしたんだよね。去年の12月に鹿児島へ行った時、ライブの翌日に吉村がそのしょうぶ学園を訪問してさ。そこでいろんな作品を見て、次のCDのジャケットにしたいと考えたみたいだね。それで音源を先方に渡した上でジャケット用に描き下ろしてもらったんだよ。いわゆる抽象画だから、パッと見のイメージだけでもいろんな捉え方ができるんじゃないかな。