Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューkeme(Rooftop2013年7月号)

新しい時代のシンガー・ソングライターkemeが歌う“しらない世界”への誘い

2013.07.03

 キノコホテルのギタリスト、イザベル=ケメ鴨川として知られるkemeがセカンドアルバム『しらない世界』をリリースする。キノコホテルでは激しいステージングでファズギターを弾きまくるイメージだが、ソロ・シンガーkemeはアコースティックギターをつま弾きながら人生の機微や心の叫びを真っ直ぐに歌う姿が印象的だ。吉田拓郎や泉谷しげるといった日本のロック黎明期のアーティストを聴いて育ったというkemeは、激しく揺れた熱き時代の遺伝子が隔世遺伝した、新しい時代のシンガー・ソングライターと言えるだろう。
(INTERVIEW:加藤梅造)

アコギ1本だけ持って一人旅に出た

──今作は前作以上にアート・ディレクションに1970年代テイストが感じられますね。
keme 昔からこういうスタイルが好きで、花柄のかわいい帽子やトロイのベストは全部古着で買ったものなんです。小さい頃、家にあった両親のレコードやカセットを聴いて育ったんですが、それが60年代、70年代のフォークや演歌やGS、ニューミュージックで。とりわけ吉田拓郎が大好きになって、そればっかり聴いてましたね。
──両親とも拓郎ファンだったんですか?
keme 父親の方がフォークと演歌が好きで、母親はジョン・レノンとブラックミュージックでした。だから母はGSもゴールデン・カップスとダイナマイツ派で、その影響で私もGSはよく聴いてました。
──小学生で拓郎やGSを聴いてるのはかなり特殊だと思うんですが、流行の音楽は聴いてなかったんですか?
keme  当時はTKファミリー全盛期で、私も友達に合わせて華原朋美とかのCDを買ってはみたんですけど、ほとんど聴かなかったですね。
──友達はkemeさんが拓郎ファンだっていうのは知ってたんですか?
keme いや、知られたらいじめられると思って言わなかったんです(笑)。以前、拓郎がKinKi Kidsと「LOVE LOVE あいしてる」っていうテレビ番組をやってたことがあったんですが、私はKinKi Kidsのファンのふりをして拓郎とKinKi Kidsが一緒に写っている明星とかの切り抜きを持ってました。今思うと、完全に狂ってましたね…。
──でも、その時TKファミリーのファンになってたら、今ミュージシャンにはなってなかったかもしれないですよ。
keme ダンサー目指してたかも(笑)。
──その頃からミュージシャンになりたかった?
keme 全然そんな考えはなかったんですが、小学生の頃は父親のギターを奪って弾いてました。このジャケット写真で弾いているギターがそれなんですが、まあ趣味でやってた程度で。もちろん友達には内緒でした。フォークギターって根暗なイメージじゃないですか。
──まあ女子だとそうなのかもしれないですね。では、本格的に音楽をやろうと思ったのは?
keme それが意外と遅くて。高校生の頃は遊ぶのに夢中で音楽はほとんど聴かなかったんです。だから10代の終わり頃ですね。遊びが少し落ち着いてバンドに入ってエレキギターを始めたんです。古い曲をコピーするバンドだったんですが、コピーだとあまり面白くなくて1年で辞めました。
──自分のオリジナルをやりたいと。
keme そこからまたいろいろあるんですが…、これからどうしようかなって悩んでいて、アコギ1本だけ持って一人旅に出たんです。何も決めずに大阪に行って、何か見つかるまでは帰らない事にしたんです。夜中に道頓堀でギターを弾いてたらホストがやってきて「俺の全財産やる」って1円玉投げられたり、警備員に怒られたり。そんなことをしているうちに、ある時一人ホテルでギターを弾いてたら曲ができて、あ、これで帰ろうと思いました。
──シンガーソングライターkemeの誕生ですね! その後は下北の路上で歌ってたんですか?
keme そうです。いやー若かったな。今じゃとてもできないです。あの時のパワーって何だったんだろう? 毎日がすごく楽しかった。路上で漫画読む人いるじゃないですか(註:東方力丸)。私の歌ってる隣でアタタタタタ!って『北斗の拳』とか朗読してたんですが、読み終わった後に「吉田拓郎の『青春の詩』歌って!」とリクエストされて、私も「ああ〜それが青春」って歌ってました(笑)。

体に染みついてるものが自然と出た

──それではニューアルバムについてお聞きしたいんですが、kemeさんはプロデューサーとしていろいろ采配してるんですね。
keme 今回レコーディング・エンジニアをやってもらったのが宮崎一哉さんという方で、井上陽水さんのエンジニアを20年ぐらいやってた人なんです。あとジャケット写真は吉田拓郎さんや中島みゆきさんなどニューミュージック系のアーティストのほとんどを撮っている田村仁さんの息子の田村ヒロさんに撮ってもらいました。
──まさに正統派の方々が関わってるんですね。前作『永遠の旅』もkemeワールドといった世界観はありましたが、今作はさらに細かな所まで行き届いている感じがします。やっぱり前作を越えようって意気込みはあったんですか?
keme 前作は参加しているミュージシャンが少なくてバンドっぽさがなかったんですが、その後にkemeバンドが誕生したんです。だからアレンジ面ではバンドとしての一体感を出しました。そこは全然違って聴こえるかと。他にもスティールギターを入れたりコーラスを入れたり、やってみたかったことは全部やろうと。
──確かにバンドとしての演奏の広がりを感じます。1曲目のタイトルチューン「しらない世界」は、これぞフォークロックといったサウンドですよね。
keme ああ、私自身はフォークロックって言われるのが好きなんです。なんかフォークだと貧乏くさいじゃないですか。拓郎とか泉谷しげるって私はロックだと思っていて、やっぱり激しい中にもメッセージがちゃんと伝わってくるのが好きなんです。遠藤賢司さんもそうじゃないですか。いまフォークって言われないですよね。
──音楽のいちスタイルとしてやってるんじゃないというのは感じます。
keme 私は拓郎をコピーしているわけではなくて、体に染みついてるものが自然と出ているというか、曲を作るとそうなっちゃうんです。それ以外をあんまり聴いてないから節々に出ちゃうんでしょうね。
──それは歌詞からも感じます。「ぶつかることのない友は、友とはよべないよ」とか、非常に硬派な歌詞で。
keme みんなにダサいって言われるような言葉でも、あえてはっきり歌うというか、素直に歌ってもいいかなと。
──この曲もそうですが、kemeさんの詞って生き様を歌うものが多いじゃないですか。これって女性シンガーには珍しいと思うんです。「しらない世界」には拓郎の「人生を語らず」に通じるような世界観があるし。
keme ああ、男っぽい歌だとはよく言われますね。あと私は叫ぶのがカッコいいと思っていて、自分でも自然とそういう歌い方になるんです。女性っぽくきれいに歌えなくて。
──2曲目「愛と自由の日々」もポップな曲なんですが、これもいいですね。
keme はい、これは最近作った曲で、非常に明るい曲調です。この曲でプロモーションビデオも作りました。
──3曲目「なんのためにII」ですが、前作に収録された「なんのために」とは打って変わって、恋心を歌った可愛い曲になってますね。
keme 前作の「なんのために」は暗い曲で、以前ファンレターで「この曲を聴いて涙が止まらなかった」って感想がきたことがあります。
──女性が共感するのはわかります。なんというか、心の叫びとでもいうような。
keme なぜこの曲を書いたのか憶えてないのですが、きっと何か辛いことがあったんでしょうね。
──4曲目の「カレーライスの唄」はまた大胆な曲というか、エンケンさんの「カレーライス」へのオマージュというか。
keme こっちのカレーライスは不味いカレーですから。猫も逃げ出すし、ジャガイモ入ってないし(笑)。しかも、この曲は以前LOFTでエンケンさんと同じライブに出た時に初めて披露したんです。それでライブ後の打上の時にエンケンさんからピックと50円玉を貰いました。「ご縁が10倍あるよ」って(笑)。
──5曲目「月の夜」はピアノが印象的なしっとりした曲ですね。
keme これだけ80年代っぽいというか、ニューミュージックな感じです。エンディングの雰囲気は拓郎の「祭りのあと」っぽいかなと、できた後に思いました。ブレイクした後にアコギから始まる感じが。こういう雰囲気がとても好きなんです。

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keme / しらない世界

BPR-1006/BIG PINK RECORDS
価格:2,500円(税込)

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収録曲
01.しらない世界
02.愛と自由の日々
03.なんのためにII
04.カレーライスの唄
05.月の夜
06.増毛希望
07.行方知らず
08.7分間のキス(スタジオライヴ)
09.声にならない
10.淋しい街

LIVE INFOライブ情報

kemeアルバム発売記念ライヴ
7月14日(日)
OPEN 18:00 / START 18:30 
会場:下北沢CLUB Que
出演:keme、矢沢洋子&THE PLASMARS 

Our Shinig Idol 今君に会いたい 〜夏祭りスペシャル〜
7月29日(月) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:新宿ロフト
出演:キノコホテル、ニューロティカ、しず風&絆、BELLRING少女ハート、ナト☆カン、ペイペイ&A PAGE OF PUNK、東京新のんき連
 
NAKED ROCK'N ROLL CIRCUS
8月22日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:Naked loft
出演:keme、チャラン・ポ・ランタン、大森靖子
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