夏の参議院選の投票日(7/21)直前にあたる7月18日、新宿ロフトで「今こそ、社会を選択せよ!」という刺激的なタイトルの一大イベントが開催される。今回、仕掛け人である島キクジロウ(the JUMPS)と出演するMAGUMI(LA-PPISCH、THE BREATHLESS)、橋本美香(制服向上委員会)に集まってもらいイベントに向けてお話を伺った。(TEXT:加藤梅造)
(左から橋本美香、島キクジロウ、MAGUMI)
制服向上委員会(略称:SKi)は1992年にできた歴史あるグループで、ライブとボランティアを軸に活動するインディーズ・アイドルとして知られているが、社会問題にもずっと取り組んできた。これまでにいじめ追放キャンペーンやストーカー防止法署名活動などにも関わり、311以降は「ダッ!ダッ!脱・原発の歌」をリリースして、脱原発デモや集会など積極的に参加している。
橋本「SKiの活動で印象的だったのは私が19歳の時、ベトナム戦争の傷跡をレポートしに行った事です。例えば平和村(註1)を訪れ、アメリカ軍が使用した枯葉剤によって住民にどんな後遺症が残っているのかを伺ったり、クチトンネルや軍事博物館などへ行き、戦争の恐ろしさを目で見て知ることができました。原発の問題については事故が起こるまではよく知らなかったのですが、事故後、こんなに恐い物が日本中にたくさんあるんだということを知って、それから脱原発の運動にも参加するようになりました」
(註1:ベトナム戦争時に、アメリカ軍により大量散布された枯葉剤の被害により、その後遺症に苦しみながらも社会復帰を目指す若者たちの施設)
ちなみに橋本は15歳の時にSKiでデビューしているが、それまで社会問題にほとんど関心がなかったという。
橋本「最初はちんぷんかんぷんで、どうやって自分がかかわっていいのか全くわかりませんでした。でも、署名活動をしたり、困っている人の所に行って話を聞いたりしているうちに、社会に向き合うことや自分で考えることの大切さを学んで、今は自発的にいろんな問題と関わるようになりました。SKiの中高生のメンバーに対して、まだ原発問題なんて分からないんじゃないのって悪意を込めて聞かれることもあるのですが、後輩たちも皆それぞれが自分なりに考えて、真剣に向き合って活動していると思いますね」
島キクジロウは1985年にthe JUMPSを結成し、以来パンクロッカーとして活動してきたが、2004年に突然バンド活動を休止して弁護士を目指した。「一番大事なのは、若いヤツらの意見が政治に反映され、それによって社会の流れが作られていくことだ」という想いから見事司法試験に合格し、今はthe JUMPSの活動と並行して、環境問題や原発問題などで弁護士として国や企業と闘っている。最近は、双葉町等の原発被害者の代理人として損害賠償請求訴訟を起こしている。
島「原発事故の被災者が長期に渡って避難生活を強いられているのは原発が国策であることからすれば当然、国家賠償の対象になる。ただ避難をしている人たちは、現実に今すごく過酷な状況に置かれているから少しでも早く結論を出すためにも、まずは東電だけを被告にして裁判を始めたんだよね。本来この事故に責任を負うべきなのは東電と国と原発メーカーの三者なのは間違いない。ところが原子力損害賠償法には『責任集中の原則』っていうのがあって、原子力事業者、今回で言えば東電だけが責任を負うと書いてある。PL法(製造者責任)は適用されない仕組みになってる。なんでこんなことになったかというと、日本が原発を導入する時に、当初アメリカとイギリスから技術や核燃料を輸入したんだけど、そういう法律を作らないと濃縮ウランを渡さないって強く迫られたからなんだ。だから原発の事故が起きても電力会社以外は一切責任を負わなくていいというすごくいびつな法律になっちゃった。それじゃあメーカーは、安全っていうより、安上がりなものを作ろうって考えるよね。
ただ、憲法17条で国民は国のせいで受けた損害を賠償請求できるとあるから、原子力損害賠償法がそもそも憲法違反なんだよね。だから低線量のいわき市の人たちは東電と国の両方を被告にして裁判を始めた。原発メーカーに対してはまだ誰もやってないんだけど、なぜか俺んとこに話があって、そりゃあやるしかないか、と。なかなか大変な裁判で、弁護団メンバーが集まらなくて困ってるんだけど。そもそも福島第一原発をどこが作ったのかってほとんど知られてないじゃない。1号機はGE(ゼネラル・エレクトリック社)、2号機はGEと東芝、3号機は東芝、4号機は日立が作ったんだけど、あれだけの大事故を起こしたのにみんな知らないからほとんど批判されてない。それをいいことに最近は安倍首相のトップセールスで国外に原発を輸出しようとしているのってとんでもないよね。だからメーカー責任を追及することによって、まずは国民にこういうおかしな事実を知ってもらいたい。
原発の問題ってシングルイシューに見えるけど、憲法にも深く関わっているし、国の構造そのものにも関連している。やっぱり今の中央集権的な構造を分散させていかないと、いつまでたっても日本は変わらない」
環境、原発など社会問題の訴訟をほぼボランティアで行っている島がいま力を入れているのが、eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)がキャンペーンする原発ゼロノミクスだ。これは一体どういった概念なのか。
島「今までの脱原発運動は、イデオロギー的に核を考えるのと、原発の危険性を考えるという2つの動きが中心だったと思うのね。それはそこそこ大きな運動になっているんだけど、自民党や経団連など原発を推進する側は原発を無くしたら日本の経済はたち行かなくなるという主張をしている。それは、今の不況の世の中では一定の説得力があるのは確かなんだよね。だから、原発について『経済』という側面から考えて、原発が本当に経済的なのかを検証してみようと、それが原発ゼロノミクスなんだよ。実は原発をやめた方が日本の経済が活性化する可能性が大きくて、それは十分に論証することができる」
確かに、アメリカなどかつての原発大国は維持費等の問題から最近は原発以外のエネルギー政策に転換している。
島「原発のコストひとつ取ってみても、よく原子力発電は安価だと説明されるんだけど、そこには恣意的な数字の操作がすごくある。原発を建設するために立地地域に配られる原発交付金には多額の税金が使われているんだけど、これは発電コストには入ってない。他にも核燃料サイクルの開発費なども計算外になっているけど、それらのコストを入れて計算し直したら原発のコストって本当はすごく高いんだよ」
原発ゼロの経済と社会を目指す「原発ゼロノミクス」をどんどん広げていこうという主旨で行われる7月18日の「原発ゼロノミクス・ナイト」。多くのミュージシャンやアクティビストが参加することが決まっているが、真っ先に参加を表明したのがthe JUMPSと同世代のバンドであるLA-PPISCHのMAGUMIだった。
MAGUMI「前から原発はおかしいと思っていて、それで80年代にはアトミック・カフェにもずっと参加していた。今回の福島の事故で改めて分かったのは、原発は少しでも壊れる可能性があるんだったら使っちゃだめだってこと。やっぱり人類は核を扱えないと思う。東京にいる俺たちも確実に被害者じゃないですか。特に子供がいる親にしてみたら、食べる物すべてに気を使わないといけないし、この先まだ何があるかわからないという不安と共に生きていかなきゃいけない。親としての使命として絶対に子供を被曝させてはいけないと思うし、それは誰の子供に対してもそうですよね。だから、もう核は無理ってこと」
ちなみにアトミック・カフェとは、1984年から1987年にかけて開催された反核・反原発イベントで、ブルーハーツや尾崎豊など多くのミュージシャンが参加していた(※アトミック・カフェは2011年から再開している)。LA-PPISCH、the JUMPSもアトミック・カフェの常連バンドだった。
MAGUMI「俺のツイッターのタイムラインだけ見ると、どう見ても世の中の動きと違うんだよね。原発はやめて当たり前だし、去年の都知事選だって宇都宮健児さんが勝つもんだと思ってましたから。でも世の中の結果は全然違ってて、俺のTLがダメなのかと不安になってきた(笑)」
福島の事故後、民意の大多数が脱原発を求めるようになったが、政治の世界にはなかなか反映されないというもどかしさを多くの人が感じているだろう。しかし、ドイツが20年かけて脱原発政策にシフトしたことを考えると、日本における脱原発の運動はまだこれからだとも言える。
島「311以降、発信する人が増えてきているのは確か。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤君とかBRAHMANのTOSHI-LOWとかミュージシャンも積極的に発言している。こういうことがどんどん当たり前になって欲しい。今回のイベントは脱原発文化祭というテーマで、いろんな人が参加して演奏したりトークしたり、ブース出展したりするんだけど、脱原発という部分で1つになれればいいと思うんだ。そこには必然的に、憲法や経済、つまり自由や平等の問題も含まれていて、いろいろな理念が共有できるはずなんだよ。7月18日はちょうど選挙の直前ということもあって、すごくいい集まりになると思うよ。一番大事なのは、自分にできることをできる範囲でそれぞれが少しずつやるってこと」
MAGUMI「今から政治家になりたいわけじゃないし、ミュージシャンとして何ができるかを考えたい。自分の目で見て正しいと思うことには一緒にがんばっていかないと」
橋本「それがたとえ微力だったとしても、気づいた人が一人一人声をあげていくのが大事なことだと思う。私にはそれが音楽なので、自分の立場で発信していきたいなと思います」
そう、未来は僕等の手の中にある。是非あなたも自分自身の手で社会を選択して欲しい。