感情を揺らせなかったらロックじゃない!
── 恋多き宮野さんのドラムで言えば、『私に溶けてしまえばいい』とか『ゾッコンROCK ON』(M-7)はリズムも複雑だし、以前にも増してパワーアップしていると感じました。
尾形:レコーディングが大変でしたね。シャッフルというリズムなんですけど、その感じを出すのが。
宮野:『私に溶けてしまえばいい』もそうですけど、『解放エクスペリエンス』(M-3)も6拍子で緊張感を伴ううえに、テンポも速い。
── 昨年3月8日にロフトで開催したイベントの決起対談として9mm Parabellum Bulletやピエール中野さんと話をした時にも、かみじょうさんと中野さんのプレイをそうとう意識されてましたよね。
宮野:あの対談の時、中野くんは「最近の宮野さんのドラムはイキイキしてますね」なんて言ってくれたり、かみじょうくんもプライベートになるとコソッと褒めてくれて、彼らのリップサービスに溶けてまして(笑)。でも半年後、中野くんとかみじょうくんが出演した、ドラマーにとって憧れのステージ“ドラム・マガジン・フェスティバル2012”を見に行って、彼らとの差に打ちのめされました。すっごい悔しくて、それぞれのプレイを研究し、目に映ったものをレコーディングでは愚直なまでに全部投入しました。ツーバスのパターンも、過剰なまでに取り入れて。あと、その時に一生懸命口説いていた女の子に「ツーバスが好きなんだよね」って言われてよけいに頑張っちゃって。めちゃめちゃレコーディング頑張ったけど、レコーディング後にフラれました。でも結果的に良いものが残せたから。
尾形:エンジニアを9mmとかも手掛けている日下貴世志さん(毒組)にお願いして良い音で録れましたし。ベーシックの演奏は日下さんが録って、それ以外のパートは武田が録ったんです。本メロ以外のコーラスパートは自宅にある練習用の小型の防音ブースで録ってエンジニアは武田にお願いして。
武田:2人で何時間も録りましたね。
── ライブの躍動感もアルバムにしっかり封じ込められましたね。
尾形:それは意識しました。レコーディング中はクリックを聴いてないんです。今回三橋がレコーディングの時に腱鞘炎になってしまったので一発録りには参加していないんですが、三橋のギターと歌以外は一発録りで、テンポが速くなるところは一緒に速くなって、遅くなるところはみんなで遅くなって。
三橋:僕はあとで重ねることになったんですけど、クリックがないので超大変でした(苦笑)。でも良い勉強と経験になりましたよ。ケガの功名ですね。
尾形:それと、インビシブルマンズデスベッドの時は、ギターや歌を重ねるとかあまりやってこなかったんです。でも、HEREはバンドをやり始めた中学や高校の時みたいな感じで、初心に戻ってやっているんですよ。初めてMTRを買った時って多重録音をやったんですけど、その時の気持ちを思い出して、今回はギターが重なっていたりとか、歌も多いところでは3〜4本重なっている部分もあって、トラック数が今まで僕らが作ってきた音楽の中では倍ぐらいあるんです。
── 超絶テクを持ったギタリストが2人もいるから、やろうと思っているイメージがいくらでも形になるような気もしますし。
武田:今回なかなかハードなギターがぶっこまれていて、僕はけっこう王道のギターを弾いてますけど、三橋はかなりオリジナリティの高い音を出しています。
三橋:この音色でこのフレーズは弾かないよなって思いますよ。ファズを多用したんですけど、このサウンドを出すギタリストはまだ見た事がないですね。
尾形:『みっともないぜ愛がこぼれてる』で初めてその音が出てきたんだよね。これは他のギタリストは出せない音だって。なおかつ、『眩しくて何も見えない』(M-8)では後ろでギターが音じゃない音を鳴らしているんです。
── 壮大なバラードの曲なのに。
武田:ハジメタルくんが美しい音色を奏でてる裏で、何をやってるんだって音になってます。
三橋:ノイズですね(笑)。
武田:三橋は、みんなの予想をはるかに上回る音をどんどん提案してくるわけですよ。
三橋:僕は一般的なギタリストの感覚なので、「この音色でこのフレーズを弾いたら音が潰れるし、わけがわからなくなりますよ」って最初は思ってるんですけど、CDに閉じこめてみるとこれぐらいでちょうど良いんだなとは思います。
尾形:やりすぎぐらいがホントにちょうど良いんです。『私に溶けてしまえばいい』とか、『ゾッコンROCK ON』のギターリフとかは本当にやばいなと思いました。ギタリストにしか出来ないフレーズですよ。
武田:原音の音程を変化させるピッチシフターというのを使って。
尾形:それを踏み込むタイミングが絶妙すぎるんです。
── そして最後に「死ぬくらい大好き愛してるバカみたい」という言葉をひたすらつぶやく『END ROLL』(M-12)があって。
尾形::これは武田の家で録りました。アコースティックギターのアルペジオは武田が弾いて、リードギターは俺がその場でフレーズを考えて、何もないところから始めたんです。
武田:不安でしょうがなかったです。…家に何時までいるんだろうって。
── そこですか(笑)。でも『END ROLL』まで聴き終えると、ひとつお芝居を見終えたような感じになりますね。ある意味達成感的な(笑)。
武田:疲労感もありますよね(笑)。
── 1枚聴き終わって、何かしらの感情は掻き立てられますよ。
尾形:ロックはそうじゃなきゃダメだと思ってますから。