多彩な楽曲を唄えるという大きな武器
──カップリングの3曲も、これまで以上にバラエティに富んだ選曲となっていますね。
「今回は特にいろんな曲調が揃ったと思います。『明日への扉』は去年新宿ロフトでやらせて頂いたワンマン・ライブでも披露した曲なんですよ。自分自身へのエールみたいな曲でもありますね」
──「BE THERE」は、「believe」や「想い出の行方」の作曲でもお馴染みの宮崎歩さんが作詞・作曲した快活なポップ・チューンですね。
「この曲の評判が凄くいいんですよ。私も聴けば聴くほど好きになってきましたね。キャッチーで凄く聴きやすい曲だと思うし、幅広い層に受け入れられそうな気がします」
──「ひと欠片のキセキ」のような切々と唄い上げるバラードと「BE THERE」のような疾走感のあるナンバーは両極をなすと思うんですが、そんな対照的な両曲を見事に唄い上げる歌唱力が今の柴田さんの強みなんじゃないですかね。
「確かに大きな武器だと思いますね。今まで『Love Me More』みたいな激しいロック調の曲もあったし、『GENKI』みたいな明るいトーンの曲もあったし、今回のシングルでさらにレパートリーが多彩になりましたよね。それはきっと、メロン記念日の時にいろんな楽曲を唄わせて頂いた10年の経験をムダにしていないことも大きいと思うんですよ。ずっと4人で幅広い楽曲を唄ってきましたけど、今はひとりでそれだけ幅広い楽曲をちゃんと唄えているのか? というのがいつも課題なんです」
──楽曲の幅広さと言えば、「雨」のようなラテン・テイストを大胆にフィーチャーした曲も新機軸ですよね。
「実は、この『雨』は『YOU & I』をレコーディングした頃にちょっと唄ってみたこともある曲なんですよ。だからレコーディングしたのは3年振りだったんですけど、ちょっと昭和の歌謡曲みたいな懐かしさを感じますよね。ただ、この曲の主人公は私自身と真逆の女性なので、最初は自分に唄えるのか不安な部分もあったんですよ。何と言うか、満月の夜にオオカミになりそうな女性に思えて(笑)」
──「Ruby」の作詞を手がけた渡邊美佳さんの描く女性像は、恋に情熱的で欲望に忠実ですしね。
「私のまだ知らない武器を持っていらっしゃる渡邊さんだからこそ書ける歌詞だろうなと思うし、私には絶対に書けない歌詞ですね。でも、そういった方の楽曲を唄わせて頂くのはとても幸せなことなんです。自分で歌詞を書いて自分の伝えたいことを唄うのも大きな喜びですけど、自分が書けない歌詞の曲を唄えることも凄く有り難いんですよ。本来の自分とは違う役になりきる面白さがあるし、そのために工夫を凝らしたりもするんです」
──工夫というのは?
「『雨』に関して言うと、月夜の歌だからスタジオの照明を暗くして唄ったんですよ。歌詞が見えるぐらいの最低限の明るさにして。『ひと欠片のキセキ』も同じように、真夜中の雪景色をイメージするために照明を落としたんですよね。明るすぎる場所だと自分が構えちゃうんですよ。自分の部屋にいるような感じにすれば、本来の自分をよりさらけ出せると思って」
──そういう工夫の凝らし方然り、細部へのこだわり然り、リリースを重ねるごとに唄い手として着実にステップアップしているのを感じますね。
「進歩していないと意味がないですから。CDセールスが全体的に伸び悩んでいるこのご時世にせっかくこうして作品をリリースさせて頂いているんだから、ちゃんと結果を残していかないとダメなんですよ。それに、私ひとりだけやる気があっても、支えて下さる周りのスタッフにやる気がなければ動いてくれないと思うんです。そのためにも結果を残さなくちゃいけないし、自分が変わらなければ周りも変わらないと思っているので」
──毎回「次はないぞ!」と自分に言い聞かせているという柴田さんらしい発言ですね。
「ホントにそうなんですよ。ただ歌を唄いたいだけなら、路上ライブをやったり、音源をCD-Rで出したっていいじゃないですか。でも私はそういうことをしたいわけじゃなくて、アーティストとしてもっと大きな夢があるし、それを実現するために何をしなくちゃいけないかを考えれば自ずとやることが決まってくるんですよ」
自分にしかできないライブを早く形作りたい
──目下、各地でニュー・シングル発売記念のインストア・イベントを行なっていますが、自分のファンだけが来るわけじゃないから、精神的に相当鍛えられそうな気がしますね。
「それが、最近は怖さが増しているんですよね。それは決してネガティブな意味じゃなくて、プレッシャーや責任感が今まで以上に強くなったと言うか。ソロになって初めてインストア・イベントをやらせて頂いた時は怖さなんてなくて、ステージに立っても緊張感はほとんどなかったんです。『セツナ』を出した時もインストア・イベントをたくさんやって場数を踏むようになったんですが、場数を踏むことによって生まれてくるプレッシャーもあるんですよ。『ここが勝負を懸けるタイミングだ!』というのが自分でも分かってくるので」
──「企画シリーズ」と銘打ったライブや各種イベントも増えてきましたが、手応えは如何ですか。2度目のワンマン・ライブも3月末に控えていますけど。
「有り難いことなんですけど、柴田のことを応援して下さる方が客席に多いライブをやり続けているし、アウェイじゃないんですよね。まだ完全にアウェイなライブを経験していないし、これからはもっといろんな場所でライブの場数を踏んでいきたいんですよ。それに今回のシングルを発売することでレパートリーも増えるので、これからやっとボリューム感のあるライブができますね。去年やらせて頂いた初めてのワンマン・ライブは持ち歌が少なかったし、イベントの延長線のライブになってしまった感は否めませんけど、2度目のワンマン・ライブは自分の力を120%出し切るライブをお届けしたいと思っています」
──さし当たってライブでの課題は?
「柴田あゆみ個人としてのライブの世界観がまだ作れていないことですかね。もちろん自分ひとりの力だけで作れるものじゃないし、ファンの皆さんの存在なしには作れないものですけど、私にしかできないライブを早く形作れたらいいなと思いますね」
──「ひと欠片のキセキ」は今後ライブのセットリストで重要な位置を占める楽曲になるでしょうし、それだけ大切な作品を発表するだけでも意義があるのでは?
「『ひと欠片のキセキ』は自分が何歳になっても唄える楽曲だと思うんです。あと、ぜひカラオケで唄って欲しいんですよね。私、カラオケに行くと明るい曲よりもバラードを唄いたいほうなんです。ちょっと自己満なんですけど(笑)。でも、カラオケでよく唄われる曲っていろんな人たちから愛されているんですよね。『ひと欠片のキセキ』はみんなが覚えやすく、唄いたくなるような楽曲だと思うので、特に女性の方にカラオケで唄って頂けると嬉しいですね。私の好きな今井美樹さんの『PRIDE』や森高千里さんの『雨』みたいに、同性から愛される楽曲になればなお嬉しいです」
──先ほど仰った「大きな夢」とはどんなことですか。
「今のライブはライブハウスが主な活動場所なんですけど、いずれは座席のあるホールでもライブをやってみたいんですよ。『企画シリーズ』の1回目はバンド編成でライブハウスの似合う感じでやって、2回目はアコースティックの編成でライブをやらせてもらったんです。音に厚みがあって勢いのあるバンド形式でも、繊細なアコースティック編成でも私は伸び伸びとライブをやれる自信があるし、行く行くは年輩のお客さんが座って落ち着いて見られるホールでのライブをやりたいんですよね。オーケストラと共演するのも夢ですし。そういうリラックスした雰囲気のライブをやる一方で、フロアでお客さんがタオルをガンガン回すようなライブハウスでの弾けたライブもやりたいんです。その両方のライブができるアーティストって実はなかなかいないと思うし、それが私にとって一番の強みですからね」