どんな人にも替えの利かない役割がある
──音に人間性が表れるという意味で、たとえば人間らしい喜怒哀楽を唄うロック・バンドよりも坂田さんや広重さんのフリー・スタイルの音楽のほうがよほど人間らしいと言えるのかもしれませんね。
坂田：あなたがそういうふうに感じるんだったら、それはそうなんだ。ただ、形式的なロック・バンドをやってる人たちは、そういう音楽が好きな人たちにとっては凄く重要なわけだから、役割がちゃんとあるんだよ。そういう人たちがいるお陰で、僕たちみたいな人間が飛び出して見えるわけ。
広重：引き立つんですね。世の中の人がみんな僕らみたいだったら大変なことになりますよ（笑）。
坂田：毎日ちゃんとマジメに働いてる人たちだって重要な存在で、そういう人たちがいるからこそ我々の存在が成り立つわけだよ。その立場として、国家権力から最も遠いところにいるスタンスでありたいし、他人によって自分を変えられたくない。自分も他人を変えようとは思わない。他人や国を変えようなんて思っちゃったら、それは危険な方向に向かっていくからね。そんなスタンスでありながら、たまたま音楽をやっている。僕の役割はそれしかないからさ。それと同じように、ロック・バンドにもポップス歌手にもアイドルのネェちゃんにも役割があるんだ。「何だアイツら!?」なんて言われるアイドルだって、いなきゃ面白くも何ともないわけだよ。
広重：今のCD業界を支えているのは、アイドルとアニメとボーカロイドですからね。そのお陰で日本は世界で一番CDが売れている国なわけだから、それを否定してどうするの!? って話ですよ。お客さんの少ないインプロのセッションだけを持て囃しても何の意味もない。
──主流があるからこそ亜流が存在し得るわけで、どちらか一方が欠けたら面白くないし、第一不健全ですよね。
坂田：そうなんだよ。「こんなの音楽じゃない！」なんて言われる音楽をやってる人にもちゃんと役割があるんだから。
──お2人は一貫して主流には興味がないように見えますが…（笑）。
広重：そういう役割なんでね。坂田さんはテレビのCMに出られることもありますけど（笑）。
坂田：僕は時々あっちのほうへ連れていかれちゃうんだな（笑）。またすぐに戻ってくるんだけど、世間はそれで誤解しちゃうんだから。「チョウチョ♪ チョウチョ♪」って弾き語りするCMのお陰でピアニストだと思われたりしてさ（笑）。どういうわけか、いつも畑違いのところから声が掛かるんだ。国立演芸場や鈴本演芸場とかで演奏したこともあるし、向こうがそうしろって言うもんだから、これはもうしょうがないんだよ。僕は自分にプロデュース能力があるとは思ってないけど、妙な組み合わせでも自分の中でピッ！と来るものがあればそれでいいと思ってる。JOJO君はその辺の能力に長けてるから、こうしてまんまと担ぎ出されたわけなんだけどさ（笑）。
広重：アルバムを2枚も作らされて（笑）。
坂田：完全にペテンに引っ掛かっちゃった（笑）。でも、そうやって引っ掛かることの面白さっていうのは大事なんだ。
広重：僕も3年ぐらい前にテレビCMの話が来たんですよ。それがおむつ会社のCMで、「おしっこできたら ほめてあげてね♪」って僕が唄うんですよ（笑）。「なんで僕に話が来たんですか？」って制作会社の人に訊いたら、「広重さんはロフトのライブとかでおしっこしてたでしょう？」って言われて（笑）。それでさんざん唄ったんですけど、最終的に「もうちょっと声の明るい方のほうが…」ということでボツになったんです。まさか30年近く経ってそんな場面で放尿が役に立つとは思いませんでしたよ（笑）。
坂田：当時は過激に思われたものでも、年月が経つと風化するんだよね。
広重：そうなんです。当時のステージでの放尿はパンク的な反逆の印だったのに、今やひとつの記号みたいなものですよね。アイドルがステージから臓物を投げてくれるわけですから、それも雅楽とか能における様式美みたいなものと言うか。それはそれで僕は構わないですけどね。
──プロレスのヒールがお決まりのタイミングで凶器を持ち出すのに似ている気がしますが、そういうお約束を受け入れる度量の深さを今の非常階段には感じますね。
広重：それはお客さんも同じだと思いますよ。昔のお客さんはドン引きするだけでしたけど、今は逆にそのパフォーマンスを楽しんでくれているので。そういう意味では僕らもエンターテインメントなんです。
坂田：相当キワキワなエンターテインメントだけどね（笑）。でも、誰でもできることじゃないし、かなりの年季が入ってる。ここまで来ると、あとはお互い体力の問題だよね。僕なんて、あと何年持つかな？ なんていつも思ってるよ。
広重：いや、坂田さんはまだまだできると思いますよ。
坂田：僕は一応、90までやったらやめようと思ってるんだよ。
広重：あと20年以上もあるじゃないですか（笑）。僕は80ぐらいまでやろうと思ってますけど。
──まだ30年近くありますね（笑）。
坂田：80になってギターを持ったら、ヨレてるのか振り回してるのか分からない状態になるんじゃないの？（笑）
広重：ステージでおしっこしたら、それがパフォーマンスなのか失禁なのか分からないっていうね（笑）。そこを目指してるわけですよ。誰も止められないでしょう、80のおジイちゃんがステージでギターを壊しておしっこしてたら（笑）。
