Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー坂田明×JOJO広重(Rooftop2012年12月号)

芸術なんておしっこ喰らえ!
まだ誰もやっていない、何だか分からない音楽を求め続ける哲学と実践

2012.12.01

日本が世界に誇るジャズ・サクソフォーン奏者の坂田明と世界初のノイズ・バンド"非常階段"の首謀者であるJOJO広重。互いの旗印であるフリー・ジャズとノイズの死活を賭けた真っ向勝負の実況が2枚のアルバムに採録された。それがJAZZ非常階段の『Made In Japan』(ライブ盤)と非常階段 featuring 坂田 明の『Made In Studio』(スタジオ盤)であり、のっぴきならないジャズとノイズの壮絶なせめぎ合いはとにかくデタラメでムチャクチャでとち狂っているが、生命力が爆発したような躍動感と狂騒の果てにある陶酔感を存分に味わえることは確かだ。ジャズとノイズの両要素が混濁しながらもそのどちらでもない、世界中のどこを探しても存在し得ない音楽がここにはある。それは体制的な生き方に対抗する価値観や様式を良しとしてきた人間同士が渾身の力を振り絞って発した熾烈な爆裂音であり、まだ誰もやっていない、何だかよく分からない音楽を独自に編み出してきた坂田と広重の生きる証のようなものだ。この奇跡の大騒音絵巻は如何にして生まれたのか、出会うべくして出会ったご両人に話を訊いてみた。(interview:椎名宗之)

非常階段を見て「こりゃアカン、サイナラー!」

──お2人が共演するきっかけになったのは、スウェーデンで行なわれたノイズ&フリージャズ・フェスティバルだったそうですね。

広重:2009年の3月ですね。その時は一緒に演奏したわけじゃないんですけど。

坂田:久し振りに会ったんだよね。ちゃんと口をきいたのはその時が初めてだったんだけどさ(笑)。

広重:それ以前に、坂田さんは非常階段のライブを見に来られたことがあるんですよ。1981年8月の「FLIGHT 7DAYS 〜インディペンデント・レコード・レーベル・フェスティバル〜」と、1982年4月の『蔵六の奇病』発売記念ライブを。どちらも会場は新宿ロフトでね。

坂田:そう、なぜか行ってしまって。非常階段にちょっと関心があったんだね。それでバケツから生魚を被ってる連中を見に行って、「こりゃアカン、サイナラー!」って思ったんだけど(笑)。

広重:「サイナラー!」って(笑)。

──まぁ、汚物、生魚、ゴカイ、ミミズなどをさんざん撒き散らした挙げ句に女性メンバーが放尿するという前代未聞のパフォーマンスを繰り広げていた頃ですから、そりゃサイナラしたくもなりますよね(笑)。

広重:ライブの終演後にお客さんから聞いたんですよ。「客席に坂田明さんがいましたよ」って。でも、まさかあの坂田さんが僕らみたいなバンドを見に来るわけがない、何かの間違いだろうと思ってたんです。それから27年後にスウェーデンのフェスで坂田さんとお会いした時に挨拶をさせてもらったら、「僕はアンタのライブを30年ぐらい前に見てるんだよ」って言われたので、「ホントだったんだ!?」って驚いたんですよ。

──でも、今まで交流がなかったことが不思議なぐらいですけどね。

広重:フリー・ジャズとノイズって同じようなことをやってるはずなんですけど、接点が全然ないんですよ。だからようやく共演を果たせたって感じなんですよね。坂田さんが在籍していた山下洋輔トリオは昔よくロックのコンサートにも出ていたから僕らは違和感がないんですけど、いざ共演したいと思ってもなかなかご縁がなくて。

坂田:ノイズと一緒に演奏するっていうアイディアはもともと自分の中にあって、非常階段みたいに機械を使って「ギャオーッ!」とわめき散らすようなことは僕もしばらくピットインでやってたことがあるんだよ。でも、客が見向きもしなかったからやめちゃったわけ。グチャグチャのノイズに合わせて演奏するのは即興演奏の延長としてやってたんだけど、見てる人はそうは思わないんだね。ああいうのが嫌いなんだよ、ジャズの連中は。ちゃんと楽器を演奏しないと納得しない。

広重:坂田さんがまさかそんなことをやっていらっしゃったなんて思ってもみなかったし、坂田さんみたいな一流のプレイヤーが僕らみたいなインディーズのバンドと接点があるなんて頭から思っていなかったですからね。何せ、新宿ロフトを出入り禁止になるような悪行をあちこちで繰り返しているようなヤクザなバンドなので(笑)。

──それが、2009年8月に大阪の難波ベアーズでのライブで共演を果たすことになって。

広重:ちょうど非常階段の結成30周年で、エポックメイキング的なライブをやりたかったんですよ。このタイミングで坂田さんとお会いできたのも何かのご縁だと思ったので、「僕らのライブに出演して頂けませんか?」と話したんです。そもそも山下洋輔トリオのレコードを聴いたことが非常階段を始めるヒントになったし、ずっとリスペクトしてきた坂田さんと夢の共演ができたらいいなと思って。

──今年の9月にはJAZZ非常階段のライブ盤『Made In Japan』と坂田さんをフィーチュアした非常階段のスタジオ録音盤『Made In Studio』が同時発売されましたが、どちらもフリーキーな超絶ノイズを存分に味わえる逸品ですよね。フリー・ジャズとノイズの要素を兼ね備えつつも、そのどちらでもない未曾有の音楽になっていると言うか。

広重:そうですね。世界中のどこを探してもない音楽だと思いますよ。

坂田:非常階段と共演する前に、ジム・オルークとの出会いがまずあったんだよね。ジム・オルークとマッツ・グスタフソン、サーストン・ムーアがディスカホリック・アノニマス・トリオっていうのをやってて、それを高円寺の20000ボルトまで見に行ったんだよ。それが非常階段以降、久し振りに見たワケの分からないノイズのバンドでさ(笑)。そのジムがあふりらんぽのピカチュウとか、いろいろと人を紹介してくれてね。一緒にライブをやったりもしてたんで、何となくそっちの世界のほうに片足を突っ込んでたわけ。だから非常階段からお呼びが掛かった時は、この際だから思いきり勝負をかけようと思ってさ(笑)。

広重:両足を突っ込んで下さったわけですね(笑)。

坂田:ジム・オルークの前にはビル・ラズウェルとも共演したけど、彼の場合はノイズって言うよりもDJとかヒップホップなんだよね。僕はDJクラッシュのレコーディングに参加して、一緒にアメリカのツアーに行ったこともあるんだよ。僕が唄った「貝殻節」をクラッシュにリミックスしてもらったりしてさ。そうこうしているうちにジム・オルークが現れた。だから、こっちとしてはそっち方面の受け入れ態勢が着々と整いつつあったわけ(笑)。で、マッツがキュレートしたフェスティバルがスウェーデンであって、そこにJOJO君がいたわけだ。

広重:まさに出会うべくして出会った感じですね。

アブストラクトな世界を突き詰めたらノイズに辿り着いた

──坂田さんは、ライブとレコーディングの両方で非常階段とコラボレートしてみて如何でしたか。

坂田:やっぱり、ライブはライブなんだよね。要するに勝ち負けだけなんだよ。あんなふうにノイズがそのまま聴こえてる中で、ただひたすら「行けーッ!」って感じで突撃するだけ。僕はアタッチメントを付けて吹くのがキライだからマイクに向けて吹きまくるんだけど、電気という飛び道具を使わないから丸腰でやってるのに近いし、全くの対決状態になるわけ。でも、スタジオの場合はヘッドフォンで音を聴けるので、自分の音をはっきりと意識した状態でみんなの音を聴きながら吹けるんだよ。音楽を一緒になって作る状態って言うかさ。だからライブとスタジオは全然違うものなんだ。

広重:ライブはまさに真剣勝負ですよね。ただ、坂田さんが今「飛び道具を使わない」と仰いましたけど、あのライブでは途中で坂田さんがサックスを置いて突然絶叫したんですよ。あれはちょっとやられた感がありましたね(笑)。

坂田:クレジットに「as, cl, 絶叫」って書かれてたけど、「絶叫」なんて書かれたのは初めてだよ(笑)。

──ピットインのライブ盤には40分を超える「Backstroke Star」1曲のみが収録されていますが、JAZZ非常階段のエッセンスが凝縮した極上の轟音とノイズと言えますよね。

広重:最後までテンションが落ちてないのが凄いですよね。後半から坂田さんがさらに凄まじいことになっていきますし(笑)。ライブ当日は他にもセッションをいくつかやったんですけど、インパクトを出すために敢えて「Backstroke Star」のみを入れることにしたんですよ。そのぶんスタジオ盤のほうで細かいセッションを入れてみることにして。スタジオ盤のほうは、JUNKOさんと坂田さんのデュオ(「クラインの壷の中のウロボロスの蛇」)がとにかく壮絶でした(笑)。あれこそ何なのかまるっきり分からないセッションですよ。

坂田:「何なのかよく分からないもの」がやっぱり一番面白いんだよ。「ああ、なるほど。よく分かった」っていうのは何も僕がやる必要はないでしょう?

──似たようなことを広重さんも普段からよく仰っていますね。

広重:そう、言ってることが割と近いんですよ。でも、僕がステージから生魚を投げたりゲロを吐いていた30年前に坂田さんと出会っていても、こうして交えることはなかったと思うんです。30年が経ったからこそお互い同じ地平で交えることができたような気がしますね。

──『蔵六の奇病』のジャケットを手掛けた日野日出志さんが、当初はギャグ漫画家を志していたのに、赤塚不二夫さんの作品を見て「とてもかなわない」と挫折したというエピソードがあるじゃないですか。それでホラー漫画家へと転向するという。それと同じように、坂田さんも自分より数万倍上手いミュージシャンがたくさんいるのを実感してフリー・ジャズをやろうと思い立ったという話が僕は個人的に好きなんですよ。

坂田:それは仕方がなかったからだよ。自分にはフリー・ジャズしか残されていなかったから、しゃかりきになって吹くしかない。もう後には戻れないし、他のどこにも行けないし、前へ突き進むしかないっていうだけの話。僕の場合は渡辺貞夫という人が目の前にいて、師と仰いで勉強したりもしたけど、途中で「ああ、こりゃダメだ」と思ったんだよね。みんな一生懸命練習して上手いヤツがいっぱいいて、彼らが渡辺貞夫の背中を追いかけてるのを見て、「追いかけてこの程度か?」と思ってさ。それで僕は渡辺貞夫のやってることは一切やらないことに決めたんだよね。

広重:僕はそういう経験がないんですよ。頭脳警察のサード・アルバムに「前衛劇団“モーター・プール”」という曲があって、その途中のインプロビゼーションの部分を聴いた時に初めて「音楽って凄い!」と感動したんです。未だにそこを目指しているところがありますね。それと、坂田さんが在籍していた山下洋輔トリオを初めて聴いた時に「“こんな音楽が世界中のどこかにきっとある”と思っていた音楽にようやく出会えた!」と衝撃を受けたんです。それを乗り越えたい、もっとアブストラクトな世界を突き詰めたいと思ってノイズに辿り着いたわけですよ。ノイズというのは足し算の美学で、「みんなが一斉にムチャクチャなことをやるとどうなるか?」という発想だし、これ以上アブストラクトな音楽はあり得ない。それを継続してやることで、より想像以上のものを創造することを30年以上やってきた感じですね。今回こうして坂田さんと共演できたお陰で、今までの32年間とは全然違うレベルに行けたので凄く満足しています。これをまた超えるのがちょっと大変ですけどね。

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LIVE INFOライブ情報

「初音階段」発売記念・非常階段ワンマンライブ
2013年2月2日(土)秋葉原 CLUB GOODMAN
【出演】非常階段
【ゲスト】坂田 明/白波田カミン
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV¥2,500 / DOOR¥3,000(共に1ドリンク別)
問い合わせ:CLUB GOODMAN 03-3862-9010

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